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アジアの風〜ビジネスの先を読む〜 米中冷戦によるビジネスの変化

中国の工場には海外シフトの圧力が高まる

英国で開催された主要7カ国首脳会議(G7サミット)は共同宣言で「台湾海峡の平和と安定の重要性を強調し、両岸問題の平和的解決を促す」と述べ、さらに新疆(しんきょう)ウイグル自治区や香港での人権尊重を求めた。日本、米国と英国、フランスなど欧州諸国は中国に厳しく対峙(たいじ)する姿勢を明確にした。中国はG7サミットの動きに猛反発し、バイデン大統領、菅首相、メルケル首相らが並んだテーブルの場景を「時代遅れの最後の晩餐(ばんさん)」と酷評した。本コラムでも何回か触れた「米中冷戦」の構造はより鮮明になった。

これによってアジアのビジネスで何が起きるのか。重要なのは、やはり生産拠点の中国からの移転である。既にサーバーや通信基地局設備などの米欧日向け生産拠点は中国を離脱し、台湾、ベトナム、タイなどに多くが移転した。スマホもサムスン電子、アップルの生産が中国からベトナム、インドなどに移転し、中国で生産されるスマホが世界に占めるシェアは2017年の74%から19年には68%に急低下している。今年は60%を切るという予測もある。

これまで中国が生産の90%を占めていたノートパソコンはHP、デルの米系2社など世界のメーカーから生産を受託している台湾メーカーが中国離脱を計画している。パソコンはマザーボードや筐体(きょうたい)など部材のサイズが大きく、量も多いため、サプライヤーの移動に手間取り、生産移転は遅れているが、23年には中国の生産シェアは35~40%まで低下するとの予測が出ている。電子機器だけみても生産拠点シフトの大潮流が起きていることがわかる。

日本の中小企業にとっても大きな環境変化となる。中国に拠点を持つ部材メーカーは納入先の他国への移転で一気に仕事を失いかねない。納入先の移転を機敏に捉えて、動くことに躊躇(ちゅうちょ)すべきではないだろう。調達側は新しい場所ですぐに使える新しい納入先を求めるからだ。納入先には現行拠点からでも部材を供給できる、という「模様眺め」をしていると翌月には発注が来ないという事態になる。大きな潮流変化が起きたときは、自らも大きく、素早く動くことが必要だ。

台湾の対外貿易発展協会などの調査では、海外に工場を持つ台湾の中小企業の42・7%は今後3年間に移転を予定し、動き始めている。今はまさに政治的にも米中冷戦の方向と構造は固まった。企業はサプライチェーンの大転換に対応し、用意周到、先手必勝で動くときなのである。

後藤 康浩(ごとう・やすひろ) 亜細亜大学 都市創造学部教授 早稲田大学政経学部卒、豪ボンド大学MBA取得。1984年日本経済新聞社入社、国際部、産業部のほかバーレーン、ロンドン、北京などに駐在。編集委員、論説委員、アジア部長などを歴任した。2016年4月から現職。アジアの産業、マクロ経済やモノづくり、エネルギー問題などが専門

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