大阪市に本社を置くマツ六は、今年3月に創業100周年を迎えた建築資材の専門商社。バリアフリー建材の開発・販売を手掛けるメーカーの機能も併せ持つ。働き方改革実現を大目標としてクラウド型名刺管理ツールとコミュニケーションツールを導入。縦割り組織・属人的情報管理といった課題を解決した。
働き方改革と顧客満足・業績向上の両立を目指す
マツ六は2005年に施工業者向けのカタログ・インターネット通販事業を立ち上げるなどITの活用には熱心な会社だ。社内向けクラウド環境の整備に着手したのは15年ごろ。きっかけは、「働き方改革にあった」と社長の松本將さんは振り返る。残業の削減と顧客満足・業績向上という一見矛盾する要素を両立させるためには、ITツールを使った働き方改革しかない―そう判断した松本さんは、16年にICTデザイン室(現・事業企画室)を新設、ITに強い興味を持ち、必要なツールを選別する能力に長けた森田正彦さん(現・事業企画室室長)を責任者に起用した。
森田さんは、解決すべき課題として次の3点を洗い出した。
⑴五つの事業部が縦割り組織になっていて、情報の共有が限定的。
⑵情報管理が属人的になっていて、その人に聞かないと人脈や商談内容が分からない。
⑶専門商社+メーカー機能を持つようになり部門間の連携がより必要になった。
森田さんの提案は自社開発ではなく、クラウド名刺管理サービスの「Sansan」の導入だった。既存サービス導入を了承した理由を松本さんはこう説明する。
「IT技術は日進月歩。中小企業は経営資源の質量ともに限界があるので、自社開発ではなく定期的にバージョンアップが行われる定額制のSansanを選びました」
Sansanは名刺の管理と名刺情報のシェアというイメージが強いが、導入から4年が経過し、「それは仕組みの一部にしかすぎません」と松本さん。現在は「コンタクト」(名刺交換をした相手に対するコンタクト履歴を残すことができる機能)を使って、商談情報、商品開発のヒントとなる情報、顧客の要望やニーズの情報、商品クレーム情報などあらゆる情報をシェアしている。
松本さんは終業時に社員が書いたコンタクトを就寝前に読み、社長の判断が必要な内容にはすぐに返信する。社員は翌朝、それを見て即座に行動を起こせる。
「それ以外は社員の上司が答え、中小企業の強みである意志決定の速さを実現しています」
PDCA回転には部下のスケジュール管理が重要
Sansanの導入により情報共有が軌道に乗ると、次に社内コミュミケーションの改善に取り掛かった。18年11月から導入したのは「LINE WORKS」。スケジュール管理機能とチャットの利用が主だ。「部下のスケジュール把握はPDCAを早く回す上で重要なこと」とする松本さんは、「私は結果だけでなく仕事のプロセスも重視します。(社長が管理する)幹部社員がどのようなスケジュールで、どう動いてくれているのかが一目で分かるのはありがたい」と評価する。
チャットはビジネスメールとは全く違うコミュニケーションができる点を評価している。
「コミュニケーションのハードルを下げるため、『社長に対する相談事もチャットでいい』という空気をつくりたいのです。メールだと、〝松本社長様 ご相談のお時間を頂戴いたしたく〟という硬い書き出しになりがちで、相談が面倒になる。チャットなら、『今から10分ほどいいですか?』で済む。絵文字で伝えることもあります」
月例会の形も変わった。以前の全員集合型から、LINE WORKSによる「動画配信」に切り替えて会議に要する時間を削減。コロナ禍で、密になるリスクを減らすこともできた。一方で、急激なIT化で社員の健康を損ねないよう、全社禁煙化や健康診断受診の徹底など健康管理に取り組み、2020年より健康経営優良法人の認定を取得している。
松本さんが先頭に立ってITツールの活用の旗を振った結果、20年10月の調査では3000件ものコンタクト利用があり、現在社内の81・9%の人が利用していることが分かった。人脈の共有も進んでおり、Sansan名刺検索機能を見ると、自分が取り込んだ名刺の検索件数より、他の社員が取り込んだ名刺の検索件数(つまり社内の人脈検索)の方が約4倍も多い。その結果、業務時間削減は1人当たり月約5・8時間(対象はSansanのみ。20年5月~10月の実績を基に算出)、金額では全社で月300万円程度の削減に相当するという。
働き方改革推進のためにITを活用するという経営トップの明確な指示と適切な起用推進役が同社をさらに強化。昨年行われた全国中小企業クラウド実践大賞では、地方大会を勝ち上がり、全国大会でクラウドサービス推進機構理事長賞を受賞した。
わが社ができたIT化への取り組み
IT化前の問題
・縦割り組織で情報の共有範囲が限定的
・情報管理と経験値が共有されず属人的
・事業拡大に伴い部門間連携がより必要に
導入したITシステム
・クラウド名刺管理サービス「Sansan」
・ビジネスコミュニケーションツール「LINE WORKS」
IT化後の状況
・社内に蓄積された人脈の共有が進んだ
・社内コミュニケーションがスムーズになった
・経営者にさまざまな情報が届くようになりPDCAを回す速度が速くなった
会社データ
社名:マツ六株式会社(まつろく)
所在地:大阪府大阪市天王寺区四天王寺1-5-47
電話:06-6774-2200
代表者:松本 將 代表取締役社長
従業員:235人(2021年4月現在)
【大阪商工会議所】
※月刊石垣2021年11月号に掲載された記事です。
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