東日本大震災からの復興の担い手となる東北各地の若手経営者の取り組みと思い描く10年後のビジョンを紹介する
全国各地でご当地のキャラクターなどが活躍し、中には全国的に有名になったものもある。福島県白河市公認キャラクターの「ダルライザー」は地域の名産品をモチーフにしたヒーローで、映画化もされ、地元を盛り上げている。ヒーローをデザインし、自ら演じているダルライザープランニング代表の和知健明さんに、ヒーローに込めた思いを伺った。
エンタメの地産地消を目指し「白河だるま」をヒーローに
福島県白河市のご当地ヒーロー「ダルライザー」は、2008年に白河商工会議所青年部で誕生した。地元名産の「白河だるま」がモチーフで、「倒れてもダルマのように何度でも起き上がる(=ライズ)」でダルライザーと名付けられた。そのデザインを手掛け、自ら演じているのがダルライザープランニングの和知健明さんである。
「僕がやりたいのは、エンターテインメントの地産地消です。目的は地域活性化なので、単にカッコいいと言われるだけでは何も生み出しません」
現在は新型コロナウイルスの影響でヒーローショーはできないが、白河に関する動画やPRに登場するなど地元貢献の活動をしている。ほかにも学校での講演会、スペイン発祥の護身術「KEYSI」道場、演劇塾と、同社の事業はキャラクターにとどまらない。
「七転び八起きの諦めない心を子どもたちに伝えたいと思っても、ヒーローショーだけでは限界がある」と思った和知さんは、17年にダルライザーの映画を制作し、地元を中心に公開した。企業から協賛金を集め、自分でも多額の借金をして、映画興行としては赤字だったが、20日間で3300人以上を集客した。
映画のほとんどは白河市内で撮影され、出演者は悪役を演じる商工会議所青年部メンバーはじめ多くの市民が参加した。この映画をきっかけに「しらかわフィルムコミッション」も立ち上がった。こうした活動の源は、和知さんの夢を諦めない心にある。
俳優を目指し上京 帰郷し家業へ入るが……
白河市出身の和知さんは地元の高校卒業後、俳優を目指して上京し、大学の演劇科で学び、卒業後は自主映画や小劇場の公演などで活動した。04年に家業の結婚式場(当時は白河市と栃木県に計5店舗)を継ぐため帰郷し、商工会議所青年部の活動も始めた。
和知さんがウェディングプランナーとして仕事をしていた08年、ダルライザーが誕生した。当初は両立させていたが、ヒーローショーの依頼が増えたことに加え、家業の社長である父と経営について意見が食い違った。そこで15年、和知さんは一念発起して起業した。
自分の経験を和知さんは中学校や高校の講演会で話す。
「僕は今、形を変えて俳優業をやっています。いろいろな経験はあくまでも途中経過です。うまくいかなくても失敗と決めつけないで、夢を諦めないでほしいと、子どもたちに伝えています」
講演内容は成功談よりも失敗談が多く、学校の先生から「七転び八起きを体現している」と言われ、生徒から「すごく参考になった」と感想をもらうという。
「転んでも起き上がる」というダルライザーは、11年の東日本大震災時に県内各地で求められ、避難所などへ慰問に行った。震災から10年たった現在、同じ県内でも原発事故の被害が大きい地域からまちおこしの相談を受けるなど、他地域の活性化にも和知さんの経験が生かされている。
ヒーローの継承は白河を盛り上げること
独立後は事業を広げたが、20年から新型コロナウイルスの影響が大きく、ヒーローショーや講演会はキャンセルが続いた。一時は護身術道場などもできなくなり、売り上げが前年比9割減の月もあった。
ようやく映画の波及効果が表れ「映画ができるなら動画も」と動画制作の依頼が来るようになった。また、自らもダルライザーの動画を撮って動画サイトに投稿した。今後、短編ドラマを制作しネット公開する予定である。
和知さんは22年、ダルライザーを生んだ白河商工会議所青年部の会長に就任予定で、青年部の事業を一新したいと考えている。
「これまでは毎年、先輩がつくり上げてきた恒例の行事を行ってきました。それも大事なのですが、今は若手が増えてきているので、若者の意見を取り入れて新事業をやってみたいです」
ダルライザーの次のヒーローについて聞くと、ダルライザーの二代目ではなくともいい、と答えが返ってきた。
「ヒーローは同じ見た目をしていなくとも、スポーツ選手でもいいし、誰かがオリジナルキャラクターをつくってもいい。白河を盛り上げてくれれば、それがヒーローの継承です」
地元を盛り上げる先導役こそがご当地ヒーローなのである。
会社データ
社名:ダルライザープランニング
所在地:福島県白河市新白河2-2-1206
電話:080-1159-9475
代表者:和知健明
従業員:3人
【白河商工会議所】
※月刊石垣2021年12月号に掲載された記事です。
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