コラム石垣 2022年1月1日号 コラム「石垣」執筆者に聞く 2022年の展望

日本商工会議所100周年を迎える2022年。いまだコロナ禍の収束を見ない中、時代はどう変わるのか。本紙コラム「石垣」執筆者に、今年の日本と世界の展望について聞いた。

人類はどこへ行こうとしているのか

宇津井 輝史/コラムニスト

宇津井 輝史 コラムニスト

神は死んだとニーチェが言ったのは19世紀である。この哲人はまた次の2世紀の間に人間は克服されるとも予言した。その時期を迎える現代、人類は生物としての制約から解放された超人を生み出そうとしている。

現代のテクノロジーが生み出そうとするポストヒューマン(超人)には2つの流れがある。一つはコンピュータ科学(人工知能技術)、もう一つは分子生物学(ゲノム編集技術)である。

20万年前、競争を勝ち抜いたホモ・サピエンスが生き残った。500年前の科学革命で人類は揺るぎない自信を持ち、技術と融合して多くの問題を解決してきた。20世紀末からは国家間、企業間の際限なき競争で、技術革新は新たなフェーズに突入する。自動学習する人工知能(AI)が人間の知性を凌駕するシンギュラリティが到来すれば、人間はデータの塊とみなされ、巨大なコンピュータシステムの一部になる。

一方これまでヒトゲノムによる生物を「人間」と呼んできた。だが現代のゲノム編集技術は受精卵を改変する。ヒトに応用しない保証はないから、もしヒトゲノムの改変が続けば新しい種が誕生する。むろん人間より高い能力を持つように設計されるから、旧人類(私たち)を支配するだろう。

これらは、イノベーションの勢いを制御する哲学が登場しなければ、あと十数年後の世界の姿である。ネットワークに接続できる機械のような開放系と違い、人間は外と接続できない閉鎖系である。脳をスキャンしてメモリに移し換えれば生死をも超えるだろう。生物としての人類はいったいどこへ向かうのか。

100年を迎える日商に期待するのは、人が生きることの意味を実感できる社会の構築である。地に足のついた経済、共感と協同の社会である。

企業人の「大局を達観するの明」に期待

神田 玲子/NIRA総合研究開発機構 理事

神田 玲子 NIRA総合研究開発機構 理事

新型コロナウイルス、サイバー攻撃、機密漏えいなど目に見えない脅威が増大している。組織や企業人の浅慮(せんりょ)な行動が、日本や世界の経済安全保障を脅かし、瞬く間に、全ての人々を危機に巻き込む可能性が高まっている。国益を守るため国が関与するべき領域だが、ここで対抗措置を取ることは企業の責務であり、その手綱を国に譲るわけにはいかない。

今から100年前、官の力が強くなりがちだった日本において、民の意見を調整し、自らの責任で産業政策を立案していく組織づくりを目指した人たちがいた。政府の補助を受けた官営工場が存在感を増す一方で、近代化に向かう経済成長の支柱となったのは、地域の農業や伝統的な産業であった。地域の地主や商人が叩き出す成長率は、官営企業と同程度の水準となり、その勢いは第1次世界大戦の終結まで続いた。まさに、民が力を蓄えつつあった資本主義の黎明(れいめい)期に、全国15の商工会議所を集めた日本商工会議所が、明治の産業化をけん引した実業家たちによって、設立されたのである。

さまざまな脅威のリスクが日常化する今、一企業、そして一企業人は、国家や世界レベルで思考し、イニシアチブを取ってみずからの行動を決定しなければならなくなった。東京商工会議所を創設した渋沢栄一は、官への依存を強めている民間企業への戒めとして、次の言葉を投げ掛けた。

「実業家たるものは、よろしく大局を達観するの明を持ち、同輩相助けてその分を尽くされんことを熱望する」

この言葉は今なお、輝きを失ってはいまい。

当初15団体だった商工会議所も、今では、その数全国515に上る。民間企業の「大局を達観するの明」の発揮が期待される1年の始まりである。

真の「持続性」とは何か

丁野 朗/観光未来プランナー 文化庁日本遺産審査評価委員

丁野 朗 観光未来プランナー 文化庁日本遺産審査評価委員

2003年、当時の小泉内閣総理大臣による観光立国宣言を受けて、外国人旅行者の誘致など、わが国は本格的な観光の取り組みを開始した。

16年には、「明日の日本を支える観光ビジョン」の下、30年の訪日外国人6000万人、外国人旅行消費額15兆円という大胆な目標値も示された。その結果、19年には、訪日外国人は3200万人に達し、順調な成果を上げていたように見える。

国の最重点施策の一つに「観光」が位置付けられたことは画期的であり、観光インフラの整備、訪日客受け入れの仕組みづくりなど、一定の前進が見られたことは大いに評価できる。

一方で、「観光公害」や自然・文化への悪影響、ツーリズムモデルの激変など、観光そのものも大きな課題に直面した。

加えて新型コロナウイルス感染症は、当初の見通しを一気に覆し、いま観光は厳しい局面に置かれている。

そんな中、政府は、今年3月末をめどに、新たな観光ビジョンの策定を急いでいる。

これまでの施策を通じて、観光による地域活性化が、どこまでの成果と持続性を獲得できたのか。そもそも「持続可能な観光」とは何か。観光という産業や仕組みの持続性もさることながら、今や地域そのものの持続性が問われている。

観光立国懇談会の座長を勤められた故木村尚三郎先生は「住んでよし訪れてよしの国づくり」を掲げ、持続可能な観光の在り方を提起された。いま改めて、その原点に立ち返るべき時であろう。

観光による経済活性化は、その一部である。環境や文化、コミュニテイーなどの持続性を担保するには何が必要なのか。コロナ禍の経験を次にどう生かすか。年初、国の新たなビジョンに注目したい。

インフレへの対応を

中村 恒夫/時事総研 客員研究員

中村 恒夫 時事総研 客員研究員

物価上昇の動きが強まる中、政治の動向に神経をとがらせる必要がありそうだ。日本では参議院選挙、韓国では大統領選、そして米国では中間選挙が控えている。米連邦準備制度理事会(FRB)は引き締めを目指しているが、中間選挙前の財政運営の混乱によっては対応が遅くなる可能性がある。また、日本も韓国も新型コロナウイルス感染拡大の影響で低迷した経済が回復しきっておらず、思い切った金融政策を講じるには材料が不足している。企業としては値上げ可能な商品やサービスを長期的な視点で切り分け、選別を進めるべきだろう。

一方で、資本主義の在り方についても議論が進むとみられる。米国ではバイデン政権でも格差の是正はさほど進んでいない。最近再び脚光を浴びる故宇沢弘文氏が『人間の経済』(新潮新書)の中で批判したように、市場原理主義一辺倒では社会全体が耐えきれない。だからと言って、利益水準の高い企業に過大な法人税を課し、消費税をゼロにするような対応では、経済の発展はおぼつかない。自由な民間経済を原則にしつつ、時代の変化や社会的な要求を踏まえて、政治が「行き過ぎ」に歯止めをかけるというオーソドックスな政策に向け議論が進むことを期待したい。

宇沢氏は経済学でも「人間の心」を大事にすべきだと論じている。承認欲求は誰もが抱いているとしても、中身は千差万別だ。かつて従業員のやる気を引き出すには給与と昇進が重要だった。しかし、今や会社での地位より家庭生活を重視する人が増えている。新型コロナでリモートワークが定着すれば、企業への帰属意識は一層薄まるだろう。彼らの能力をどうやって最大限発揮させ、会社に貢献させるか、経営者の手腕が問われるところだ。

地球温暖化、今年、わが国は何をすべきか

中山 文麿/政治経済社会研究所 代表

中山 文麿 政治経済社会研究所 代表

このかけがえのない地球が温暖化によって引き起こされた気候変動によって壊れつつある。巨大台風、激しい降雨と洪水、制御不能の森林火災、それに南極やグリーンランドの氷河の融解によって海面が上昇し、島国が水没したり、海岸の砂浜が消失したりしている。

昨年11月、英国グラスゴーで国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)が開催された。同会議で今世紀末の気温を産業革命前の気温1・5度以内にするこれまでの努力目標が目標に格上げされた。地球温暖化ガスを実質ゼロにする目標年も、日本、米国、EUは50年、中国とロシアは60年、インドは70年と約束した。

その実現には中間時点である2030年に10年に比して温暖化ガスを45%削減する必要がある。しかし、今の各国の温暖化ガスの削減目標を全て達成できたとしても14%弱程度増加してしまう。従ってCOP26は必要に応じて今年末までに30年の各国の温暖化ガスの削減量の上積みを求めている。

日本政府は30年に温室効果ガスを13年度比で46%削減することを公表している。このために、政府は国内の削減ルールを国際排出枠取引制度や国境炭素税などと整合性のとれたものにしてほしい。

企業も、二酸化炭素を直接排出している工場はその量を減らすとともに、自分の購入するサプライチェーンの製品に関してもそれを製造する会社に二酸化炭素を削減させる必要がある。今年、創立100周年を迎える日本商工会議所も会員の大宗を成す中小企業をどのように指導していくか手腕が問われる。

一方、国民は一層省エネに励んだり、住宅の断熱化を進めるなど個人が果たすべき役割をも見直す年だ。

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