日本商工会議所では東日本大震災後、津波などで甚大な被害のあった沿岸部の商工会議所を中心に、毎年役職員が現地を訪問し、正副会頭などから復興に向けたヒアリングを実施している。今年度は、宮古(岩手県)、石巻(宮城県)、いわき・原町・相馬(福島県)の5商工会議所を訪問。現地の生の声は要望書に反映し、政府など関係各方面に提出し、実現を強く働き掛けている。
日商の荒井恒一理事・事務局長らは、2021年12月21日から24日にかけて東日本大震災被災地区である宮古・石巻・いわき・原町・相馬の5商工会議所を訪問。甚大な被害を受けた防潮堤や市場などの整備状況を確認したほか、ロボットテストフィールドなどの復興工業団地も視察し、第2期復興・創生期間内の着実かつ加速的対応、東北経済の復興・再生への強力な推進に向けた支援策などの意見・要望の聞き取りを行った。
1月24日には、東日本大震災沿岸部被災地区商工会議所連絡会との懇談会をオンライン形式で開催。日商の三村明夫会頭、鎌田宏副会頭(東北六県商工会議所連合会会長、仙台商工会議所会頭)、東日本大震災沿岸部被災地区商工会議所連絡会の花坂康太郎代表(宮古商工会議所会頭)らが出席し、同連絡会から要望書「東日本大震災復興に関する要望~円滑かつ着実な復興・創生の実現~」を受け取った。
要望書では、原子力災害被災地域における福島イノベーション・コースト構想を基軸とした産業発展、地震・津波被災地域での国際リニアコライダー計画の推進や次世代放射光施設の利活用促進など復興の総仕上げと復興の先を見据えた取り組みの重要性を強調。一方で、頻発する自然災害や主要魚種の漁獲量の極端な減少、コロナ禍における観光振興によるビジネスチャンスの阻害など新たな課題についても指摘し、事業者の実情に合った支援を求めている。さらに、幹線道路網・港湾などの整備による周回性の改善や高速物流・広域観光に対応した道路付属設備、原発事故に起因するALPS処理水の海洋放出などを課題に挙げ、円滑かつ着実な復興・創生の実現に向け、日商に対して政府に対する強い働き掛けを求めた。
特集では、ヒアリングで訪れた被災地区の5商工会議所の現状をレポート。現地の生の声、具体的な要望内容を紹介する。
宮古(岩手県)
面談:花坂康太郎会頭、櫻野甚一専務理事ほか4人
訪問日:2021年12月22~23日
視察先:宮古市田老町の防潮堤、宮古市魚菜市場
訪問概要
日商は昨年12月22~23日、宮古商工会議所を訪問し、コロナ禍におけるクルーズ船入港停止による経済・観光への影響、コンパクトシティの課題などについてヒアリングを実施するとともに、宮古市田老町の防潮堤や「宮古市魚菜市場」などを視察した。同所の花坂会頭は、三陸沿岸道路開通による経済効果、中小企業などの人手不足を補う生産性向上のためのデジタル化へ向けた取り組みに対する支援強化などの課題を指摘。日商には、処理水処分における風評被害支援の拡大、魚種転換に伴う助成の拡充、水産加工業者などの販路回復・拡大支援などを要望した。
主な要望内容は次の通り。
主な要望事項
・処理水の処分に係る風評被害対策の徹底
・水産加工業者などの販路回復・拡大支援、漁港整備並びに風評対策
・原材料不足に対応した輸入魚活用に係る支援
・魚種転換に伴う新加工設備への助成の拡充および商品開発への支援
・三陸沿岸道路への休憩エリアとトイレなどの設置・活牛などの生体輸送に係る給水設備など機能強化
など
石巻(宮城県)
面談:髙橋武徳専務理事ほか5人
訪問日:2021年12月21日
視察先:石巻魚市場、水野水産
訪問概要
日商の荒井恒一理事・事務局長らは昨年12月21日、石巻商工会議所を訪問し、廃業の増加、原材料価格の高騰と価格転嫁問題、コロナ禍における二重債務問題などについてヒアリングを実施するとともに、「石巻魚市場」や水産加工工場「水野水産」を視察した。同所の髙橋専務理事は、魚種変化に対応した設備や加工技術の導入、輸入水産物の販路、原材料の確保・販路開拓、人手不足、ALPS処理水処分の問題などを指摘。日商には、二重債務の解消支援、防潮堤・防波堤の早朝整備などを要望した。
主な要望内容は次の通り。
主な要望事項
・補助金を活用して整備した施設・設備の有効活用に係る制度の緩和
・復興・創生期間における財政面・税制面などの支援
・中小企業の資金繰りの円滑化と二重債務を抱える被災事業者の負担軽減に向けた支援措置の継続・拡充
・仙台塩釜港石巻港区の防潮堤・防波堤の早期整備と耐震岸壁の整備および周辺の活性化対策
・石巻新庄道路の候補路線から計画路線への格上げ
・河川の防潮堤整備と川を生かしたまちづくりの推進
など
いわき(福島県)
面談:根本克頼副会頭、小林裕明専務理事ほか9人
訪問日:2021年12月24日
視察先:常磐共同火力発電所、根本通商株式会社
訪問概要
日商の荒井恒一理事・事務局長らは昨年12月24日、いわき商工会議所を訪問し、ALPS処理水の海洋放出に伴う風評被害、カーボンニュートラルへの対応、復興に必要なインフラ整備などについてヒアリングを実施するとともに、「常磐共同火力発電所」「根本通商株式会社」を視察した。同所の根本副会頭、小林専務理事らは、次世代エネルギーとして期待される水素エネルギーの利活用、港湾などのインフラ、国際教育研究拠点の整備などの課題を指摘。日商には、脱炭素社会への対応支援、観光再生への支援、小名浜港の整備などを要望した。
主な要望内容は次の通り。
主な要望事項
・次世代エネルギー産業の振興と脱炭素化社会への対応
・国際教育研究拠点の早期実現
・重要港湾小名浜港のエネルギー拠点港としての機能整備
・国道6号勿来バイパスの開通
・企業の本社・研究機能の地方移転支援強化、国を挙げたワーケーションの推奨、地方のスマートシティ推進の強化などによる地方都市へのリビングシフト推進
・「常磐もの」の信頼回復および販路開拓支援
など
原町(福島県)
面談:高橋隆助会頭、神山敦副会頭、遠藤充洋副会頭、佐々木孝専務理事ほか8人
訪問日:2021年12月22日
視察先:福島ロボットテストフィールド、南相馬市産業創造センター
訪問概要
日商の荒井恒一理事・事務局長らは昨年12月22日、原町商工会議所を訪問し、コロナ禍の影響による事業者の二重債務問題、処理水処分に伴う風評被害に係る補償などについてヒアリングを実施するとともに、「福島ロボットテストフィールド」「南相馬市産業創造センター」を視察した。同所の高橋会頭、佐々木専務理事らは、産業集積の加速化、産業観光・展示会・見本市の開催への支援、ALPS処理水の影響などを指摘。日商には、原発事故に起因する賠償の実施などを要望した。
主な要望内容は次の通り。
主な要望事項
・福島イノベーション・コースト構想の推進を軸とした産業集積の促進
・新たな産業創出や地元商工業者のための経済・税制特区の設置
・福島ロボットテストフィールド関連施設の活用促進および視察に要する交通費、宿泊費の助成等やモニターツアーの実施など、交流人口増加策に関する支援制度の創設
・相双地域の商工業者に対する廃炉に関する仕事の受注促進
・原発事故損害賠償の確実かつ完全な実施
など
相馬(福島県)
面談:和田山雄康専務理事ほか9人
訪問日:2021年12月21日
視察先:浜の駅 松川浦
訪問概要
日商の荒井恒一理事・事務局長らは昨年12月21日、相馬商工会議所を訪問し、ALPS処理水処分に起因する風評被害、県産品のブランド化と販路拡大などについてヒアリングを実施するとともに、復興市民市場「浜の駅 松川浦」を視察した。同所の和田山専務理事は、諸外国の輸入規制早期解除の必要性、福島イノベーション・コースト構想への企業参入支援、国際教育研究拠点の整備については、南相馬市への立地の実現などの課題を指摘。日商には、病院など主要施設へのアクセス道や観光誘客促進を図ったインフラ整備、風評払拭(ふっしょく)に向けた支援などを要望した。
地元事業者からは、再建支援策の地域による格差や水産物への根強い風評被害に関する声が寄せられた。また、福島中央道の完成・無料化で増加している観光客の取り込みに向けた支援を求める声もあった。
主な要望内容は次の通り。
主な要望事項
・相馬福島道路から主要施設までのアクセス道の整備促進
・相馬港の物流・防災・交流拠点としての機能強化
・風評被害払拭に向けた情報発信と県産品の販路開拓支援の充実
など
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