広島県府中市に本社を置く太陽都市クリーナーは、廃棄物収集・運搬、し尿くみ取りなどの事業で堅実な業績を上げる一方、業務品質の向上とBCP(事業継続計画)対策が課題となっていた。解決策としてクラウドツールを導入。3年間で成果を上げ、全国中小企業クラウド実践大賞2021「クラウド活用・地域ICT投資促進協議会理事長賞」を受賞した。
課題解決へ3年かけて10種のクラウドツールを導入
太陽都市クリーナー代表取締役の森山直洋さんは大学進学を機に上京、東京都内の会社勤めを経験し2006年、30歳を機に帰郷し同社へ入社、10年に現職に就いた。
森山さんが入社して驚いたことは、「業務上必要な事柄の確認や情報共有などが全くできておらず、IT化は遅れていて、ほとんどの書類は手書きでした。社会公共性の高い仕事ですが顧客満足度は低く、業務品質の向上が急務でした」。
18年7月、西日本豪雨により会社の近くを流れる芦田川が氾濫危険水位に到達した。幸い氾濫には至らなかったものの、森山さんは、BCP対策の必要性を痛感した。業務品質の向上とBCP対策という課題を解決するために、森山さんが選んだ方法がクラウドツールの導入だった。先進的な取り組みで先行する同業者を手本とし、府中商工会議所青年部のデジタルツールに関するセミナーに参加してクラウドに関する情報を収集した。
最初に手をつけたのは、事務所と現場の連絡手段の改善だ。電話では聞き間違いや担当者への伝言ミスが起こるが、チャットツールを使えば文字で残るのでミスが減る。そこで、多くの社員がプライベートで使っていたLINEを業務にも導入。チャットに慣れた頃、中小企業向け業務用チャットツールの「Chatwork(チャットワーク)」に置き換えた。
チャットワークに続いてグループウエアの「Google Workspace(グーグルワークスペース)」を導入して、各社員にメールアドレスを持たせるとともに、クラウドストレージを介して、いつどこにいても必要な情報が取り出せる仕組みをつくった。その後3年かけて、スケジュールを共有できるカレンダーアプリ「TimeTree(タイムツリー)」、テレワークがしやすいように勤怠管理「KING OF TIME(キングオブタイム)」などを導入していった。これら10種(図参照)のクラウドツールはすべてサブスクリプション(サブスク)契約だ。
サブスクのメリットはいくつもあると森山さん。
「初期投資が不要で、業務に合わなければいつでも解約できます。当社の年間コスト(利用料金)は約200万円ですが、その半分は車両運行管理の『kITaro(キタロ)』と浄化槽維持管理に特化した『ECOPRO(エコプロ)』の料金なので、業務を効率化するために導入したクラウドツールの利用コストはかなり低いといえます。社内にサーバーを持たないので保守更新費用がかからず、セキュリティーは常に最新です。ツールのアップデートも自動的に行われます」
業務の効率化により週休3日制を目指す
ツールの選定はトップダウンで行ったが、いくら経営者が「明日から使え」と強制しても社員は本気にならない。そこで森山さんは、社内のキーマンである業務部長と総務部長の啓発から始めた。まずキーマンを押さえてから若手に普及させていく戦法だ。
「2人は社歴が長く、業務に関する知識や経験は素晴らしいものを持っているのですが、デジタルには疎い。そこで、セミナーなどで見聞きした情報を業務改善の事例を交えて伝えたところ、経験豊富な彼らは、『うちではこんな使い方ができる』と考えてくれるようになりました」
事務職の社員には、書類作成などのアナログ作業をデジタル化すると保存も検索も閲覧も便利になると話した。22年1月から改正電子帳簿保存法が施行されたことも追い風となった。
デジタルに慣れてもらうために遊びの要素も取り入れた。一例を挙げると、チャットの普及では、雑談グループをつくり、雑談や趣味の話で盛り上がりつつ、チャットの便利さや使い方を体感してもらう工夫をした。
デジタルは社内のコミュニケーションを希薄化するという指摘もあるが森山さんは、
「私はオンライン(非対面)の時代になっても社員同士の心と心のつながりを大切にしたいと考えています。若い世代はオフライン(対面)を好まない人も多い。その気持ちは尊重したいので、感情が伝わりやすい文章の書き方や絵文字の効果的な使い方を実践で示し、(Face to Faceならぬ)Mind to Mindに生かしています」
オンラインツールを使って業務の効率化を図ることで、「週休3日制を導入したい」というのが森山さんの目標だ。「その前段階として有給休暇の全取得を目指しています」。同社のIT導入とは業務品質の向上とBCP対策、その先にあるEH(Employee Happiness、社員幸福度)の取り組みなのである。
わが社ができたIT化への取り組み
IT化前の問題
・ 伝票などの書類は手書き。重要情報は社内のパソコンで管理しており、BCP対策がおざなりになっていた
・ 連絡手段は電話やメモ、ホワイトボード。各社員のスケジュールの把握ができていなかった
導入したITシステム
・ クラウドツールの「Chatwork」「Google Workspace」「TimeTree」「KING OF TIME」など10種
IT化後の状況
・ 業務品質が向上しBCP対策が前進した
・ 部門の垣根を越えた交流が活発になったことで離職率が大幅に低下した
・ SNS発信がうまくなり、求人に応募する人材が大きく増えた
会社データ
社名:株式会社太陽都市クリーナー(たいようとしくりーなー)
所在地:広島県府中市中須町1515
電話:0847-45-5326
HP:https://www.fuchu-ttc.co.jp/
代表者:森山直洋 代表取締役
従業員:28人
【府中商工会議所】
※月刊石垣2022年6月号に掲載された記事です。
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