近年、地域資源の発掘や活用法の検討、市場調査から、商品開発、販路開拓(商談・ビジネスマッチング)、販売促進まで、地域の生産者の活動を全面的に支援するとともに、地域の〝稼ぐ力〟の向上に大きく貢献している「地域商社」の活躍が注目されている。特集では、すでに域外への販路拡大に成功し域内の経済循環に結び付けている取り組みや、ふるさと納税の返礼品やECの活用、地域全体のブランディングなどで成果を上げている事例を紹介する。
産直野菜の販売とPRにより農家の所得向上と地域振興を目指す
大分県南西部に位置する竹田市において、竹田市わかば公社は地元の特産品のブランド化・販路拡大を目的として2010年に設立された。現在は農産物やその加工品などを受託販売するアンテナショップ事業を基幹事業としている。市内で道の駅など5店舗、市外でも百貨店内にインショップ形式で9店舗を運営し、地元の農業や商業の活性化を促進している。
商業と協力することで農産物の売り上げもアップ
竹田市は久住山や阿蘇山などの1000m級の山々に囲まれた自然豊かな地域だ。その環境を生かし、農業・畜産業においては大分県の特産品であるカボスやしいたけ、トマト、スイートコーン、豊後牛などを生産している。
竹田市わかば公社は、市の農業や商業の活性化を促進するために竹田市が中心となって2010年に設立した農村商社わかばを前身とする。現在は竹田市と竹田商工会議所、九州アルプス商工会、JAおおいたが構成団体で、今年4月には現在の名称に変更した。事業内容はアンテナショップをメインに、市から業務委託された学校給食事業とキャンプ場運営、農業経営サポートを行っている。
「農村商社わかばができる以前には、農家の所得向上と農作業の軽減を目的とした竹田市わかば農業公社があり、農作業の受委託と道の駅、直売店の運営を市の主導で行っていました。その後、農商工連携や6次産業化を推進して農産物の販売をさらに拡大するために、市内の商工会議所と商工会も参画して農村商社わかばを設立し、農業公社の販売事業を引き継ぎました」と竹田市わかば公社専務の今澤盛治さんは経緯を説明する。
ただその際には、地元農家から不満の声も上がり、対応に苦慮したこともあったという。
「前身の農業公社は農家主体の組織だったので、そこに商業団体が入ってきたら、これまで自分たちが築き上げたものが取られてしまうのではないかという不安があったんです。しかし、道の駅や直売店に市街地のお店の商品も置くようになると、全体の売り上げが伸びてきて、それまで頭打ちだった農産物の売上高も上がってきました。それからは、農業と商業が一緒にやっていく必要性を理解していただけるようになりました」と、事務局長の阿南崇さんは言う。
インショップ形式で市外の百貨店にも出店
竹田市わかば公社のメイン業務であるアンテナショップ事業では、市内で道の駅2店舗と直売店3店舗を運営するとともに、市外では大分県内の百貨店を中心とした企業グループ9店舗にインショップ形式の店舗を持っている。これらのアンテナショップに出荷している生産者の会員数は653人で、21年度の売上高は約7億7000万円。コロナ禍前の19年度には8億円を超えたこともある。
「百貨店への出店は、百貨店の方からぜひ出店してほしいという強い要望があったことで実現しました。それ以前に、百貨店のイベントで産地直送の野菜を販売したことが何度かあり、それで竹田の農産物のファンが増え、売れると判断されたのだと思います。竹田は地域によって200mから500mの標高差があるので、同じ野菜でも収穫時期が異なるため長期間安定して出荷することができ、また、いろいろな種類の農産物ができるメリットもあるのが強みです」と、今澤さんは力を込めて語る。
百貨店の食品売り場やスーパーにも野菜売り場があるが、それとは別に「竹田の産直コーナー」を設けて販売しているため、お互いにバッティングすることはない。
また、夏場に旬を迎えるスイートコーンは、道の駅で毎年7月に「とうきびフェスタ」を開催し、期間中は、道の駅に向かう一本道が何㎞にもわたり車で渋滞するほど人気を集めている。竹田市わかば公社がなければ、地元の農産物のこのような対外的な販売やPRの機会を得るのは難しかったかもしれない。
公社単独の収入で利益を出し余剰金は農家や地域へ
道の駅や直売店、市外店での農産物とその加工品の販売は順調に進んでいるものの、まだまだ課題が多いと今澤さんは言う。
「オリジナル商品の開発がなかなかうまくいかず、自分たちだけで取り組むだけの体力がまだないので、商工会議所さんから情報などもいただいて、模索しながらやっていきたいと思っています。また収益を上げるためには販路拡大も必要ですが、運送コストや販売手数料をどうやりくりするか。大手販売店が必要とするだけの量を安定して出荷するのが難しい部分もあります」
さらに、これは竹田市だけの問題ではないが、生産者の高齢化や人口減も悩みの種となっている。
「公社の会員数が、多いときには782人だったのですが、年々減っていき、この10年間で100人以上減少しました。これは会員の高齢化による廃業が主な理由で、会員が少ないと生産量も売り上げも伸びてこないので、会員数の確保が今後の課題です」(阿南さん)
また、農家の所得を向上させるために、農産物の販売だけではなく、種や苗を安く提供する努力も続けていく必要がある。そして今澤さんは、公社の今後の展望についてこのように語った。
「現時点では、二つある道の駅でのアンテナショップ事業の指定管理料を市からいただいて収益がプラスになっている状況なので、まずは公社単独の収入で利益を出し、余剰金を農家や地域に還元できるようにしていきたい。そのようにして経営の安定化を図るとともに、魅力的なオリジナル商品を開発できるようにして、この地域の振興の一助になればと思っています」
竹田市わかば公社の努力が、農家たちだけでなく、市全体のにぎわいにつながっている。
会社データ
社名:一般社団法人竹田市わかば公社
所在地:大分県竹田市大字米納659
電話:0974-66-3553
HP:http://www.taketa-wakaba.jp/
代表者:土居昌弘 理事長(竹田市長)
従業員:78人
【竹田商工会議所】
※月刊石垣2022年8月号に掲載された記事です。
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