近年、地域資源の発掘や活用法の検討、市場調査から、商品開発、販路開拓(商談・ビジネスマッチング)、販売促進まで、地域の生産者の活動を全面的に支援するとともに、地域の〝稼ぐ力〟の向上に大きく貢献している「地域商社」の活躍が注目されている。特集では、すでに域外への販路拡大に成功し域内の経済循環に結び付けている取り組みや、ふるさと納税の返礼品やECの活用、地域全体のブランディングなどで成果を上げている事例を紹介する。
まちづくりを通じて市の活性化を図り地域内外で頼りにされる存在へ
小林まちづくりは、宮崎県南西部、霧島連山の麓にある小林市で、まちづくり事業と観光推進事業を行い、その利益をまちに再投資する「循環型」の都市経営を目指して2014年に設立された。同社は行政や商工会議所、金融機関などから出資協力を得ている民間企業で、市の活性化を図るため、数々の事業に取り組んでいる。
中心市街地活性化の核としてスーパー跡地に複合ビル建設
JR小林駅の北側に広がる小林市の中心市街地は、事業者の高齢化や郊外ショッピングセンターとの競合で衰退化し、2013年に大型スーパーが閉店してから人通りが激減していた。市の持続可能なまちづくりを進めていくためには中心市街地の活性化が必須であることから、当時の市長や小林商工会議所の会頭らが中心となり、市内の主要23団体・個人が協力して「小林市中心市街地活性化協議会」を創設。活性化計画を実行する組織として、「小林まちづくり株式会社」が14年に設立された。
「これからの時代に即したコンパクトシティを目指すには核となる場所が必要なので、銀行からの融資を受けて、閉店したスーパーの跡地に複合ビルを建設しました。17年に完成したビルはTENAMUビルと名付けられ、1階にスーパーが入り、2階はオフィスフロアと市民が利用できるフリースペースにして、3階から5階を18戸の賃貸マンションにしました。この家賃収入を会社の収益の柱にして安定した経営を図りながら、まちづくりに関する取り組みを行っています」と、同社で統括部長を務める木村洋文さんは言う。
また、同じ時期に小林駅の北側に隣接する小林市地域・観光交流センター、通称「KITTO小林」も完成。ここには小林市観光協会と小林バスセンターが入ることで、鉄道とバスの接続や観光サービスの利便性が向上した。KITTO小林とTENAMUビルは一本の通りで160mほどしか離れておらず、その周辺では10軒以上の新規店舗が開店し、空き店舗の解消につながった。
ECやさまざまなチャネルで販路拡大を目指す
現在、小林まちづくりは五つの事業を運営している。一つは前述したTENAMUビルの管理運営事業で、そのほかKITTO小林などの指定管理事業、市から委託されたふるさと納税推進事業と通販サイト「ンダモシタンマルシェ」の管理運営業務、ホテル事業、そして観光DMO事業である。このうちの最初の四つをまちづくり事業部が担当し、残りの観光地域づくり法人(DMO)事業を観光推進部が担当している。
「ふるさと納税推進事業では、市の生産者がどういう思いで生産しているかを外に向けて発信し、逆に寄付をされる方々は小林市のどのようなものを求められているかを市や生産者さんに伝えています。おかげさまで本年度は約13億円のふるさと納税による寄付がありました。『ンダモシタンマルシェ』では小林市の特産品を扱っています。小林市の水は名水百選に選ばれていて、霧島連山の豊かなミネラルを含む水から生み出される野菜や果物は全国でもトップレベルだと思います。農家は家族経営や零細企業が多いので、ブランディングをお手伝いし通販サイトで発信することで、小林市の特産品の良さを全国にアピールしています」
小林市のふるさと納税の返礼品で特に注目されているのが「宮崎キャビア1983」。これは山の湧き水で養殖されたシロチョウザメの魚卵を岩塩で薄く味付けして熟成させたもので、ANA国際線ファーストクラスにも採用されている。
また、地元生産者や事業者と連携して新たな商品を開発し、土産品や特産品として販売する事業も行っている。その一つが「濃厚ミルクジャムポップコーン」で、乳製品会社とポップコーン会社のコラボにより完成した。これは年間6千個ほど売れ、新たに地元農家が生産した果物を使った複数のフレーバーのポップコーンも開発・販売している。開発した商品は、食品展示会や商談会に出展・展示するなど営業活動を行い、大手百貨店に納品したケースもある。
コロナ禍を機に足元を見つめまずは九州からの集客を狙う
このようにしてまちづくり事業と地元特産品のPR、販売を行っていく一方、外からの観光客を呼び込む活動を観光推進部が行っている。ここでは、観光庁のDMOに登録し、観光商品の企画・販売、プロモーション活動を行っている。DMOは地域と協力して観光地域づくりを行い、誘客・観光消費の拡大を図ることで、地域の稼ぐ力を引き出す役目を果たしている。
「コロナ禍以前はターゲットを欧米観光客にしていましたが、呼び込む方に力が入り、地元の受け入れ体制がまだ整っていませんでした。コロナ禍を機に足元を見つめ直す時間ができましたので、まずは県内や九州の観光客に来てもらい、インバウンドが復活したら台湾や香港、韓国をターゲットにしていくことにしました。そのためのプロモーションを仕掛けているところです」
小林まちづくりが設立されてから8年弱となり、観光推進事業を始めてからは5年となった。その中でコロナ禍を経験し、まちづくりにおいても観光面においても、地域の人たちとの信頼関係が非常に重要であることを改めて考えさせられたと、木村さんは言う。
「地域の人たちから、まちづくり会社が地元にあって良かったと言ってもらえるようにしていきたい。その一方で、会社の活動を持続していくために、収益をしっかり出していかなければと思っています」
近年はUターンで小林市に戻ってくる若い人が増えているという。その流れを持続させ、まちににぎわいを取り戻すためにも、小林まちづくりの活動がさらに重要になってくるのは間違いない。
会社データ
社名:小林まちづくり株式会社
所在地:宮崎県小林市本町16
電話:0984-27-3280
HP:https://kobayashi-machi.com/
代表者:柊崎庄二 代表取締役
従業員:24人
【小林商工会議所】
※月刊石垣2022年8月号に掲載された記事です。
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