ガソリン不足や物価高騰など経済危機に直面していたスリランカで、デモに参加していた市民が大統領公邸や首相府に侵入、ラジャパクサ大統領、ウィクラマシンハ首相がともに辞任を表明した。世界ではロシアのウクライナ侵攻が引き起こした小麦など食糧不足、エネルギー価格高騰がアジア、アフリカなどの途上国を襲い、深刻な経済危機となっているが、スリランカ危機はロシア問題とは直接的には結び付いていない。権力を独占し、一族や出身地への利益誘導を続けてきたラジャパクサ一族など多くの途上国に共通する腐敗、そして経済自立への道の困難さが底流にある。
豪華な大統領公邸のプールで泳ぎ、ベッドルームやリビングではしゃいで記念写真を撮る多数の市民たち―。スリランカの出来事は1986年2月にフィリピン国民がマルコス独裁政権を倒した市民革命を思い起こさせる。マルコス一族が暮らした豪奢(ごうしゃ)なマラカニアン宮殿に突入した市民の行動にそっくりだったからだ。宮殿に残されたイメルダ夫人が買い集めた3000足の靴は世界をあきれさせたが、ラジャパクサ一族の暮らしぶりもいずれ暴露されるだろう。
問題は、「この後」である。腐敗した権力者を倒した後、スリランカは国家を立て直せるのか?スリランカといえば、紅茶しか思い付かないという人も多いだろうが、スリランカはシギリヤ、聖地キャンディなど8カ所の世界遺産やビーチを持つ観光地で、「ダイヤモンド以外はあらゆる宝石が採れる」といわれる宝石の産地でもある。 そして意外なのは日本の高級陶器メーカー、ノリタケの主力工場があることだ。原料となる良質の粘土が得られることも立地の要因だが、手先が器用で、綿密な作業に向いたスリランカ人の気質も日本メーカーには向いていたわけだ。
実際、筆者もノリタケや他のスリランカの工場を取材で訪れたが、日本の「3S」はもちろん「5S(整理・整頓・清掃・清潔・躾(しつけ))」を標語として掲げ、効率的な仕事をしている現地メーカーが少なからずあることに驚かされた。日本に工場研修で数年間暮らした人たちが持ち込んだ「企業文化」だが、表面的ではなく、習慣化できている点はタイ、ベトナムすら上回っていると感じた。
中国と手を結び実用性を疑うインフラを建設、巨額債務を抱えた上、南部の港湾の「99年租借権」を中国に取られたスリランカ経済の回復は容易ではないが、潜在力の高さには日本企業も注目しておくべきだろう。
最新号を紙面で読める!