武雄温泉駅(佐賀県武雄市)と長崎駅(長崎市)を結ぶ西九州新幹線が2022年9月23日開業する。長崎・博多間の所要時間は、乗り換え時間も含めて最速約1時間20分、始発となる武雄温泉駅と長崎駅はわずか23分でつながる。人口減や経済の停滞に悩む西九州各地の地域活性化への起爆剤として期待は大きい。西九州新幹線開業直前、沿線の商工会議所の会頭・副会頭に取り組みについて聞いた。
周辺地域および長崎県側との連携で観光客増加と経済圏拡大を目指す
佐賀県西部にあり、温泉のまちとして知られる武雄市は、西九州エリアのほぼ中央に位置している。新幹線のターミナル駅となる武雄温泉駅を中心とした新たなまちづくりを目指すとともに、武雄商工会議所では、周辺地域の有田町、伊万里市、鹿島市の商工会議所と連携し、武雄市をハブにした周辺観光の創造にも取り組んでいる。
四つの商工会議所が連携し誘客を図っていく
JR九州・佐世保線の武雄温泉駅は、福岡県の博多駅と長崎県の佐世保駅を結ぶ特急列車「みどり」の停車駅でもある。西九州新幹線のターミナル駅となるにあたり、開業後は在来線特急「リレーかもめ」が新たに運行を開始し、新幹線と接続するリレー特急として博多駅と武雄温泉駅の間を結ぶことになる。さらに、乗り換え客の利便性を図るため、新幹線と在来線特急が同じホームに対面で止まり、ホームを移動することなく乗り換えられるようになっている。
「以前は武雄から長崎まで特急で1時間30分かかっていたところが、新幹線なら23分で行けるようになります。また博多からの特急はこれまで1日上下32本でしたが、倍の66本になります。これにより観光や通勤、通学、移住など、交流人口が増加することが期待されています」
そう話すのは、武雄商工会議所の溝上邦治会頭。佐賀県側には武雄温泉駅と嬉野温泉駅の二つの新幹線駅ができることから、同所では近隣の有田、伊万里、鹿島の三つの商工会議所と連携し、誘客を協力して行っていく話し合いを続けてきた。
「武雄市が単独で誘客をしても、狭い地域ですから、来ていただいても一回で終わってしまいます。有田、伊万里、鹿島と地域を広げれば、武雄と嬉野は温泉町ですし、有明海や焼き物など観光資源が増え、何度も来てもらえるようになります。武雄はその玄関口の役割を果たすわけです。ただ、開業を控えた重要な時期にコロナ禍で集まって話し合いを持つことがなかなかできなかったため、まだ準備不足の感はあります」と、溝上会頭は率直に語る。
西九州が80数万人の経済圏に その効果にも期待
また、誘客以外にも大きな期待を寄せている。それが、西九州地域内の商圏の広がりである。
「新幹線が博多と直接つながれば、観光面でもっと大きな経済効果があると思いますが、とりあえずは武雄と長崎の間の開業という形なので、福岡県やさらに東からの誘客だけを考えるのではなく、まずは長崎県を含めたこの地域のことを考えた取り組みをしていこうということです。こちらにも大きな期待を寄せています」と、溝上会頭は目を輝かせる。
武雄市は人口が5万人弱だが、嬉野市や鹿島市など周辺地域も合わせると20数万人になる。一方の長崎県側は長崎市と諫早市、大村市を合わせて約63万人で、佐賀県西部と合わせると80数万人という大規模な経済圏になる。
「80万人というと、佐賀県の人口とほぼ同じで、それと同規模の経済圏が武雄と長崎の間にできるわけです。また、佐賀県西部だけでも20数万人の規模ですから、長崎県側から見ても大きな市場となります。佐賀県西部側と長崎県側が連携してお互いにその市場を活用すれば、それだけでも経済的に大きなプラスになります」と、溝上会頭は期待を込めて語る。
そのため同所では、長崎駅周辺の開発視察や長崎商工会議所との交流会も行い、長崎県主催のシンポジウムへの参加や、大村市の新幹線開業に向けての勉強会の開催など、長崎県側とも積極的な協力体制を構築している。
「西九州新幹線は佐賀県にとってメリットが少ないという声もありますが、全国的に人気度の高い長崎市や福岡市が盛り上がることが、その間にある佐賀県の底上げにもつながると思っています」
博多駅との直行化を目指し働き掛ける活動を進めていく
新幹線の開業により長崎県が近くなったことで、期待できることがもう一つあると溝上会頭は言う。
「それが、この地域の若い人たちの地元定着です。佐賀県西部には大学も短大もないため、新幹線ができれば、長崎市にある大学や短大に武雄から通学することができるようになります。また、長崎側の方が仕事が多いので、そこが通勤圏内になることで、地元から離れずに済みます。逆に武雄市でも、工業団地の増設を行っているところで、新幹線が一つの起爆剤になって、新たに人に来ていただけるのではないかと思っています」
観光面に関しては、コロナ禍により周辺地域との連携が思うように進まなかったため、同所としては、新幹線が開業して観光客が来るようになってから、さまざまな仕掛けに取り組んでいくことになる。
「観光客増加のための仕掛けづくりは、商工会議所の仕事だと思っています。西九州の魅力は、中国や韓国との歴史的なつながりを示す名所が豊富で、温泉もあることです。また、玄界灘や有明海の魚介類も豊富で、ほかにはない温泉湯豆腐もおいしいと評判です。新幹線開業をきっかけに、多くの観光客に来ていただきたい。そのためには、博多駅からのリレー方式のままでは交通の便が良くないので、博多から新幹線の路線をつなぐよう働き掛ける活動も始めています。開業までには時間がかかりますが、なんとしても実現させなければいけません」と、溝上会頭は最後に力を込めて語った。
西九州新幹線の開業を武雄市と周辺地域の今後の発展につなげるためにも、同所の積極的な活動は欠かせない。
会社データ
武雄商工会議所
所在地:佐賀県武雄市武雄町大字昭和1-2
電話:0954-23-3161
※月刊石垣2022年9月号に掲載された記事です。
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