長引くコロナ禍により、規模や業種を問わず多くの企業が苦境にあえいでいる。その一方で、一足早く新型コロナとの共存を見据え、時代に合わせたサービスを開発し提供することで、新たな需要を開拓している企業もある。苦しい時こそ見習いたい企業の取り組みと戦略に迫った。
地域住民に必要とされるサービスと革新的な移動手段で新たな需要を開拓
愛知県名古屋市を中心に愛知、岐阜、三重の3県でタクシー事業を展開するつばめタクシーグループは、ドライバーが介護士や警備員の資格を持ち、タクシー介護や24時間駆け付け、徘徊(はいかい)者探索保護といったサービスを提供する「あんしんネットワーク」を20年以上行っている。タクシー会社の垣根を越えたこれらのサービスで地域に安心を提供し、新たな需要を開拓している。
介護と警備を組み合わせたサービスを地域に提供
つばめタクシーの「あんしんネットワーク」は、ドライバーが介護や警備などのスキルを持つことでタクシー移動に付加価値を付けたサービスで、「タクシー介護サービス」「かけつけサービス」「徘徊者発見サービス」の三つを提供している。
「タクシー介護サービス」は高齢者・障がい者・独居および老老世帯を支援するもので、移動と介護のサービスを同時に提供。「かけつけサービス」は高齢の契約者に通信機器端末を配布し、通報があれば、近くにいるドライバーが15分ほどで家まで駆け付ける。そして「徘徊者発見サービス」は、徘徊の恐れがある高齢者にGPS端末を所持してもらい、家族から通報があると徘徊している高齢者を見つけて自宅まで送り届ける。どのサービスもタクシー車両が地域内を24時間走っているからこそ提供が可能となる。
「介護と警備を組み合わせたサービスを提供するタクシー会社は、おそらく全国で私どもだけだと思います。介護を行うところはありますが、警備は警備員資格の取得が難しく、定期的な研修も必要なため、コストと時間的な負担が大きいからです」と、つばめ自動車社長の天野清美さんは言う。
つばめタクシーがこのサービスを始めたのは2000年1月。そのきっかけは、天野さん自身のこんな経験からだった。
「20数年前、私の母は重度の糖尿病で低血糖を起こすようになりました。そのたびに私が車で母を病院に連れて行っていましたが、私が名古屋にいないときは誰が母を病院に連れていくのかが問題でした。それを考えたとき、同じ悩みを抱えている人は多いのではないかと気付いたんです。タクシーは24時間365日稼働が原則ですから、その機能を生かして困った人の一時対応ができないかと考えたのが、そもそものスタートです」
タクシー業務の効率改善で乗客へのサービスに注力
つばめタクシーでは、新規ドライバーは自社の研修施設でサービスやマナーに加えて介護・警備の研修を16日間受講している。そのため同社ドライバーの警備員資格保有率は99%、介護職員初任者研修有資格者は200人以上いる。また、サービスの品質向上のために定期的な勉強会を行い、市民モニター制度を導入してサービスレベルのチェックも行っている。
「私どもはドライバーのことを営業社員と呼んでいます。タクシーはお客さまを目的地まで安全かつ快適にお送りするのが任務であり、これは営業をしているのと同じことだからです。そのような努力に加え、『あんしんネットワーク』のご利用もあり、コロナ禍でも赤字になっていません。現在は、人の流れがある程度戻ってきていて、7月などは売り上げが平均でコロナ禍前の17~18%増と、V字回復となっています。コロナ禍が収まれば、利益が急激に回復すると見込んでいます」と話す天野さんの表情は明るい。
さらにつばめタクシーでは、「AI需要予測システム」を導入してタクシー業務の効率改善を図り、ドライバーが乗客を探して「流し」をする時間を大幅に削減した。これは、過去の乗車実績データを携帯電話の現在位置情報や天気などの情報と組み合わせてAIで分析し、リアルタイムに「どこで」「どれくらい」のタクシー需要があるかを伝えるシステムである。精度は市街地で95%ほどと非常に高く、これによりドライバーは、乗客を見つけることよりも乗客へのサービスに注力できるようになった。
相乗りサービスの開発により新たな交通手段を提供する
このように地域に必要不可欠なサービスも提供しているつばめタクシーだが、さらに新たなサービスを展開する計画が進行している。それが「ライドシェア(相乗り)」で、目的地が近い別々の利用者を結びつけて相乗りでのタクシー乗車を提供するものである。このサービスについて、天野さんは次のように説明する。
「これは、自社開発した配車アプリに相乗り機能と事前に運賃が確定する機能を追加して、それにAI需要予測システムを組み合わせることで、相乗り希望客の情報をドライバーに伝えるものです。お迎え料金はいただかない代わりに料金は2割増で、例えば2組のお客さまなら、それぞれが4割引で目的地まで行くことができます。ドライバーにとっても2割増の収入となり、三方みんなが得をすることになるのです。昨年10月からプロジェクトがスタートし、この10月に運用開始予定です」
このサービスが利用できるようになれば、新たな交通手段が増えることになり、通常よりも割安の料金でドア・ツー・ドアの移動ができるようになる。
今後のつばめタクシーの展望について、天野さんはこう結んだ。
「今後はバスとタクシーの中間のような移動形態、つまりタクシーに限らないモビリティサービスを提供していこうと考えています。また、『あんしんネットワーク』のサービスもますます必要とされてくるので、地域の生活支援サービスもバリューアップしていきます」
つばめタクシーを頻繁に利用する乗客は、同社のことを親しみを込めて「つばめさん」と呼ぶという。これは、地域に必要とされるサービスを提供することにより、地域住民に信頼されている証しといえるだろう。
会社データ
社名:つばめ自動車株式会社(つばめじどうしゃ)
所在地:愛知県名古屋市中区栄1-21-17
電話:052-201-8031
HP:https://www.tsubame-taxi.or.jp/
代表者:天野清美 代表取締役社長
従業員:約2600人(グループ全体)
【名古屋商工会議所】
※月刊石垣2022年10月号に掲載された記事です。
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