金融センターとしての香港の地盤沈下が加速している。中国からの統制強化が最大の要因だが、中国経済が世界から次第に切り離され、グローバル市場との連携を弱めていることが香港の価値を低下させているのも間違いない。こうした香港の状況を映し出しているのが住宅価格の動向だ。米ゴールドマンサックスは「2023年末までに香港の住宅価格は21年比で30%下落する」という衝撃的なリポートを発表した。かつて世界有数の高級住宅地だったミッドレベルも見る影もない。世界的な住宅価格の下落の影響もあるが、香港から脱出して他国に移住する人の増加、新規に香港に進出する外資企業の減少が原因で、「香港の不動産は下がっても必ず回復し、さらに値上がりする」という神話は終わりを迎えている。
代わって浮上するのはどの都市か? 多くの国がポスト香港の誘致に熱心だが、現状ではシンガポールが「脱香港」の受け皿として先行している。香港とは対照的に住宅価格は年率20%ともいわれる勢いで上昇。物件不足で外資企業の新規赴任者が半年もホテル住まいを強いられるというケースも珍しくない。20年以降、香港からは年間4000人以上のペースでシンガポールに移住しているといわれる。香港からの移転組で注目されているのは、「ファミリー・オフィス」と呼ばれる華僑の富裕層の資金運用会社。プライベート・バンクなどに運用を任せるのではなく、自ら投資先を選別し、運用する。富裕層が自らの意思で迅速に投資、撤退を決めていく。従来は華僑は香港にファミリー・オフィスのベースを置いていたが、20年以降100社以上がシンガポールに移転した、とみられる。
中国と深い経済関係を結びながら、中国には従属しない点が資産の安全を考える華僑にとって、シンガポールの魅力になっている。国際通貨基金(IMF)は10月、中国の成長率予測を22年は3・2%、23年は4・4%に下方修正した。これも楽観的すぎると指摘する専門家も多い。いずれにせよ香港のように中国の側にいれば、儲かるという時代は終わり、IMFが22年は6・8%、23年は6・1%成長と予測するインドへのアクセスが今や投資家が最も重視する点だろう。香港の衰退で、気になるのは背中合わせのハイテク都市、深圳。中国が先端技術で、グローバル市場とデカップリングされれば、深圳の地盤沈下も不可避。問題は香港の代わりはあっても、深圳の代わりは現状ではアジアに見当たらないことだろう。
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