中国共産党は習近平総書記が3期目の任期に入り、政治局常務委員など新指導部も発足、来春には李克強首相の退任も決まった。目新しい政策が打ち出されるのはこれからだが、この数年、着実に進んで来たものもある。中小企業振興策だ。中国経済は「央企(中央企業)」と呼ばれる素材、エネルギー、機械などの巨大国有企業と深圳などをベースとするIT分野の巨大民間企業が両輪となって成長を続けてきたが、米中対立の激化や資源高、不動産市場の停滞で、国有、民間企業ともに業績は芳しくない。アリババ、テンセント、ファーウェイなど米国のGAFAMと肩を並べる企業も人員整理や国有通信会社との合弁会社の設立など政府の規制を受け、停滞期に突入している。
その中で中小企業は遅れてやってきた成長期を迎えつつある。習政権が雇用創出や輸出の下支えを狙って、中小企業支援を強化しているからだ。コロナ対策としての減税も一つだが、工業情報化省が推進する「専精特新(専業化、精細化、特色化、革新化)」政策が中小企業のマインドを変えつつある。文字通り、精密分野で特化し、差別化できる技術を開発し、中小企業に体質転換を促す政策といっていい。
背景にあるのは、中国の大手IT企業に対する米欧などからの技術封鎖の動きである。米商務省が中国の大手IT企業を次々にエンティティリストに載せ、先端技術から締め出す中で、中国の中小企業は米欧からの締め付けも限られており、研究開発で大手企業の役割を分担できる可能性がある。特にニッチ分野で先端技術の担い手として期待がかかるからだ。中国の中小企業は銀行融資も受けられず、工場建設や輸出などでも優遇策もなく、独力で成長するしか道はなく、グローバル市場は遠かったが、ようやく陽が当たり始めた。
日本の中小企業は中国に比してはるかに恵まれた環境だが、中小企業としての苦労に共通性はある。日中の中小企業との連携は新しいチャンスとなるかもしれない。日本の中小企業が技術とグローバル市場への道を開き、中国が人材や生産能力を担うという組み合わせは日中の大企業間で成功したモデル。中国の中小企業が目覚めつつある今が、手を組むチャンスだ。一方、「専精特新」という戦略は日本の中小企業にも有効だ。とりわけ日本のお家芸である「精密」はあらゆるビジネスに通用する。中国の政策の中に、改めて日本に有効なモデルが示されている。
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