ネズミ一匹逃げ出せないほど厳格な地域封鎖や隔離、頻繁なPCR検査など厳戒体制を敷いてきた中国が思いがけない形で、ゼロコロナ政策の緩和を始めた。発端は市民や学生の抗議活動である。SNSへゼロコロナ政策や体制への不満を書き込めば、たちまち削除される国で、街頭に出て抗議の声を挙げるのは身の危険を顧みない行動だが、その気迫と切実さが政権を動かしたということだろう。東京を含め世界の主要都市でも連動した白紙を掲げた抗議活動が起き、世界からの視線も中国指導部には無言の圧力となっただろう。
ゼロコロナ政策の緩和で、都市部でも商店や飲食店が限定的とはいえ営業を次々に再開し、人の移動も活発化し始めており、中国経済が上向くと期待する声も増えた。だが、ゼロコロナ政策の2年半で、中国経済の構造や外部環境は一変した。中国がゼロコロナ以前に戻って同じ成長モデルに復帰することはないだろう。
卑近な例だが、昨秋に発売された米アップル社のiPhone14シリーズの箱を開けて気がついたことがある。同梱された充電ケーブルの包装から「made in China」の文字が消え、外箱には有名な「designed by Apple in California, assembled in China」のフレーズが残っていたものの、簡単に剝がれる紙シールで貼ってあるだけ。かつてのように外箱に刻まれているわけではない。インドでもiPhone14の生産が本格化し、ベトナムでもアップル製品の工場が稼働。中国が独占的にアップル製品をつくる時代は終わったからだ。
当たり前だが、コロナ感染で急に工場や道路、港湾が封鎖される場所に製造業は安心して立地することはできない。
依然として中国は原料、材料の供給国として抜きんでた存在だが、組立型の工場立地には不向きとなった。中国の貿易統計を見れば、2020年以降、輸出品で縫製品のシェアが低下、繊維原料のシェアが上昇しているのはそうした傾向を映し出す。原料、材料は在庫を厚めに持つ対応ができるからだ。
一方、興味深い変化は話題の中国発のグローバルEコマース企業、SHEINとTemuの急成長である。中国で生産、在庫し、世界各地に発送する単純なモデルだが、衣料品、アクセサリー、靴、バッグなどを多品種少量生産し、毎週数千品目を発売し、数日で売り切るビジネスモデルは中国が加工型、組立型の製造業で見つけ出した生き残り戦略といえる。
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