デフレ脱却に向け、「成長と分配の好循環」の実現が求められる中、雇用の7割を占める中小企業においても、できるだけ多くの企業が賃上げに取り組むことが期待される。政府は、生産性向上や取引適正化など、中小企業が自発的・持続的に賃上げできる環境を整備されたい。
最低賃金の引き上げを求める声も高まるが、最低賃金制度は、労働者の生活を保障するセーフティネットとして、赤字企業も含め強制力を持って適用されるものであり、法の主旨にのっとった審議決定が求められる。
こうした認識の下、2023年度の中央・地方における最低賃金審議に当たり、政府に対して下記の内容を要望する。
記
1 法に定める三要素(生計費、賃金、支払い能力)に基づき、データによる明確な根拠の下、納得感のある審議決定を
最低賃金の審議決定において考慮すべきものとして法が定める三要素のうち、生計費と賃金の上昇が見込まれる一方、中小企業の支払い能力は、原材料費や資源・エネルギー価格などの高騰により厳しい状況にある。
近年の審議については、政府方針ありきで実態を十分に踏まえていないとの声が根強くあったところ、22年度の中央最低賃金審議会では、公労使が三要素に関するデータを基に審議を重ね、各種統計を参照する形で目安額決定の根拠が明確に示されるなど、プロセスの適正化が一定程度図られた。こうした取り組みが継承され、中央・地方においてデータによる明確な根拠に基づく納得感のある審議決定が行われることを強く求める。
2 最低賃金が目指す水準などについて政府方針を示す場合には、労使双方の代表が参加する場での議論を
政府が、いわゆる「骨太の方針」などにおいて経済政策の大きな方向性を示す中で、目指すべき最低賃金の水準などに言及することは否定しない。しかしながら、最低賃金制度は、労働者の生活を保障するセーフティネットとして全ての企業に例外なく適用されるものであり、これを賃上げ実現の政策的手段として用いることは適切でない。また、政府方針を決定する場合には、労使双方の代表が参加し、意見を述べる機会を設けるべきである。
3 中小企業が自発的・持続的に賃上げできる環境整備の推進を
中小企業は、労働分配率が7~8割と高いことに加え、人件費や燃料費などコスト増加分の価格転嫁が十分に進まず、賃上げ原資は乏しい。政府には、デジタル活用や働き方改革の推進など生産性向上の支援とともに、取引適正化に向けた「パートナーシップ構築宣言」の拡大および公正取引委員会や中小企業庁の転嫁円滑化要請の強化などを通じた実効性向上により、中小企業が賃上げ原資を確保し、自発的・持続的に賃上げできる環境を整備されたい。
あわせて、最低賃金引き上げに対する主な支援策である「業務改善助成金」や「賃上げ促進税制」などのほか、新たな助成制度の創設を含め、中小企業の賃上げを後押しする制度のさらなる拡充を図られたい。
4 企業の人手不足につながる「年収の壁」問題の解消を
近年の最低賃金の大幅な引き上げにより、非正規・パートタイム労働者が、103万円や130万円に届かないように労働時間を調整(就労調整)するケースがこれまで以上に増えている。
こうした、いわゆる「年収の壁」の問題は、現在の人々の働き方や家族の形態を踏まえて税制や社会保障制度を見直すとともに、労働者の正しい理解を促進することにより解消していくしていくことが求められる。 こうした観点から、第3号被保険者制度については、抜本的に見直すとともに、所得税制における基礎控除額や給与所得控除額については、実態を踏まえ引き上げるべきである。あわせて、「年収の壁」に対する誤解や理解不足を解消するため政府による周知・広報を徹底すべきである。
5 地域の経済実態に基づいたランク制の堅持を
中央最低賃金審議会では、47都道府県を所得・消費、給与、企業経営に関する19の指標を基にしたランクに分け、目安額を決定している。
地域間格差是正の観点から一元化すべきとの意見もあるが、ランク制は地域の状況を反映し目安額を決定する合理的なシステムとして、地方での円滑な審議に重要な役割を果たしている。
47都道府県の経済情勢や適用労働者数、実際の最低賃金額などを踏まえ、必要に応じて、ランク数や分け方の見直しを図りつつ、ランク制については堅持すべきである。
6 改定後の最低賃金に対応するための十分な準備期間の確保を
例年、地域別最低賃金は、各都道府県の地方最低賃金審議会での改正決定後、ほとんどの都道府県で10月1日前後に発効するプロセスとなっている。違反すれば罰則を伴う制度であり最低賃金引き上げの影響を受ける労働者が増えている中、各企業は2カ月程度で対応せざるを得ず、多くの中小企業から負担の声が聞かれている。また、年度途中での賃上げに伴う価格転嫁は容易ではないことから、原資の確保に向けても各企業の十分な準備期間を確保することが必要である。ついては、指定日発効などにより全国的に年初めまたは年度初めの発効とすべきである。
※要望項目1~3は中小三団体要望と共通
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