イズミダは、戦後、創業者が自転車の荷台に魚を積んで回る移動販売から始まった。二代目は衰退に向かう「魚屋」を畳むつもりだった。しかし、三代目の出水田一生さんは商売の形を変えITを導入して、家業を見事に再生し、「全国中小企業クラウド実践大賞2022全国大会」で「総務大臣賞」に輝いた。
バックオフィス業務を効率化
近年は魚の消費量減少、県外から専門卸業者の参入、冷凍技術の発達、大型スーパーの進出といった外部要因の変化によって、イズミダの売上高は右肩下がりを続けた。長男の出水田一生さんは地元の高校を卒業して福岡の大学へ進学。大学院で遺伝子の研究をしていた2011年、父(社長の出水田勇光さん)が病気になり、一時的に家業を手伝うことになった。当時は家族3人とベテランの男性従業員数名の会社だったが、「大学院まで行かせてくれるくらいだから、そこそこもうかっていると思っていた。ところが決算を見ると非常に厳しい状況でした。しかも、経理や事務は母が一人で見ていたのです」
地元の病院が顧客ということもあり365日働くのが当たり前。魚を市場に買い付けに行くため出勤は午前3時、4時。年末年始などの繁忙期はサービス残業を強いられ、勤務時間中は魚をさばいたり 配達したりといった現場仕事がメインで、事務作業は終業後にやるという「典型的な家族経営の課題に悩まされていました」。このままでは家業を再建しても若い人に来てもらえないし、そもそも自分だって働きたくない。両親・親戚が勧めるように他の仕事に就くべきか、「葛藤があったのですが、家に戻ったことを祖父(創業者の出水田潤一さん)がすごく喜んでくれたことで、継ぐ決意が固まりました。それに今の時代は、ネットを活用すれば全国のお客さまを相手に商売ができるので、魚を軸にいろいろな挑戦ができそうに思えたのです」
14年に正式入社した出水田さんは、最も負担が大きくかつ簡単に改善できそうなバックオフィス業務の効率化を図ることにし、「マネーフォワード クラウド会計」と「freee会計(フリー)」を比較検討。既に導入している経営者仲間や顧問税理士に相談したところ、同じく導入を検討している「弥生会計」と相性のいい前者を選び、18年に導入した。その結果、紙ベースだったバックオフィス業務は劇的に変わった。
仕入伝票、発注書、在庫表はオンラインの表計算アプリケーションに入力することで社内外と共有できるようになった。日々の仕分け作業は「クラウド会計」に、ネットバンキング、クレジットカード、店舗に導入している「Airレジ」とひも付けることで効率化。領収書は撮影するだけで日付・支払先・金額を自動で読み取り登録することができる「クラウド経費」を使用。同様にクラウド会計と連携できるため、仕訳が自動化され、作業時間が大幅に軽減された。また、押印やPDF化作業は「クラウド請求書」を導入することで省略できた。勤怠管理は「クラウド勤怠」で17人の従業員を管理し、社員間のコミュニケーションも「Chatwork」と「Zoom」によってスピーディーに行えるようになった。
スキルや体験を売るビジネスにチャレンジ
クラウドツールをスムーズに導入するコツは、既に利用している人に使い勝手を聞き、無料トライアルを試して自社との相性を確かめる。うまくいかなければすぐに変える。買い切りではないクラウドツールならそれができる。出水田さんは、「最初に入れたPOSレジアプリがマネーフォワードとの互換性に難点があることが分かったので、Airレジに変えた」と言う。
クラウドツール導入による会社再建策以外にも、事業を根本的に見直している。売上構成については、付き合いの長い取引先も含めて卸先の選別、小売店舗(鹿屋市の出水田鮮魚など)の新設、加工品の開発・販売、飲食店(鹿児島市の出水田食堂)経営を見直した。労働環境については、就業規則を見直し、定休日をつくり、タイムカードを導入した。これらの相乗効果で、イズミダの売り上げは回復基調となり、売上構成比はこれまで水産加工・卸99%であったが、水産加工・卸33%、小売り28%、飲食27%、水産加工(干物)12%というバランスのいい構成に変わった。
「今後は若い人たちが働きたいと思える職場環境を目指し、売り上げを増やすために、スキルや体験を売るビジネスを増やしていきたい」と次の一手にも余念がない。
すでに魚市場体験ツアーなどは実施しているし、高校生に商品開発を教える授業も続けている。また、新たにDX支援も手掛けたいという。IT導入によってイズミダは生まれ変わった。
わが社ができたIT化への取り組み
IT化前の問題
・家族経営のため経理担当の母親が一人で受発注から伝票作成、請求書の発行まで紙ベースで処理していた
・勤怠管理が曖昧で、新事業を計画したくても時間が確保できなかった
導入したITシステム
・会計・経費精算関連は、「マネーフォワード クラウド会計」「クラウド経費」「クラウド請求書」など
・社員の勤怠管理に「クラウド勤怠」、コミュニケーションや連絡に「Chatwork」「Zoom」など
IT化後の状況
・経理関連作業が効率化された上、属人化していた作業が標準化された
・経理業務のための休日出勤がゼロになり、年間約150時間以上削減
・環境改善と新事業により女性スタッフが増え、平均年齢も若返った
会社データ
社名 : 株式会社イズミダ
所在地 : 鹿児島県鹿屋市新川町830番地
電話 : 0994-42-3510
HP : https://www.izumidasengyo.com/
代表者 : 出水田勇光 代表取締役
従業員 : 17人(パート含む)
【鹿屋商工会議所】
※月刊石垣2023年5月号に掲載された記事です。
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