国内におけるeスポーツの市場規模は年々拡大し、成長が期待される分野である。老若男女を問わず参加できるのも魅力の一つ。各地では、新たな文化として根付く可能性のあるeスポーツを地域活性化に活用するとともに、バーチャルの世界とリアルを融合させる動きもある。そこで、eスポーツによる地域活性化の現状と展望について考察する。
自転車eスポーツと地域自然資源組み合わせて新たなイベント創出
神戸商工会議所は神戸市内にある有馬温泉観光協会と協力してバーチャルサイクリングイベントを行っている。その取り組みが評価され、第8回スポーツ振興賞の日本商工会議所奨励賞や、2021年度「全国商工会議所きらり輝き観光振興大賞」の大賞を受賞。eスポーツとリアルなフィジカルスポーツを融合したユニークな取り組みとして、産業観光を含めたビジネス創出の可能性が示された。
体を動かすeスポーツで地域活性化に取り組む温泉
神戸商工会議所がeスポーツに取り組んだきっかけは、2017年発足の産学連携組織「神戸スポーツ産業懇話会」だ。スポーツ産業振興を通じた神戸の経済活性化と都市ブランド力向上を目的に設立したもので、セミナーなど情報提供やビジネスマッチング、企業間交流イベントなどに取り組んでいる。こうした中、19年7月に「eスポーツを活用した地域イノベーション」をテーマにした例会を開催。有馬温泉で老舗旅館などを運営する「御所坊」の専務取締役、金井庸泰さんが事例発表した。金井さんは18年に関西初のeスポーツバー「BAR DE GOZAR(バルデゴザール)」を開店し、有馬温泉を拠点とするeスポーツチームを結成するなどeスポーツ運営の実践者だ。自転車をこぐeスポーツを紹介し、「eスポーツによって自転車愛好者を有馬温泉に呼び込み、地域活性化につなげたい」と述べた。
これをきっかけに、スポーツで経済活性化という共通の目的を持つ同所と有馬温泉観光協会青年部などが実行委員会をつくり、バーチャルサイクリングイベントの開催に向けて動き出した。「バーチャルサイクリングは一般的なeスポーツと違って体を動かすので、まさしくスポーツだと感じました」と、同所産業部次長の竹下竜介さんは語る。ところが20年、新型コロナウイルスのパンデミックが起きてしまった。
「有馬温泉はコロナ禍前、宿泊客の8割がインバウンドの日もあったので大打撃でした」と金井さん。竹下さんも「対面での交流は商工会議所の役割の一つ。コロナ禍で、イベントをはじめ多くの活動が制限されてしまった」と振り返る。
eスポーツはコロナ禍でも参加者多数
「社会状況は大きく変化したが、eスポーツはオンラインが主力なため大勢の人がリアルに集まる必要がなく、コロナ禍でも開催できる。むしろコロナ禍でこそ実施し、コロナ後の誘客につなげたい」と金井さんたちは考えた。有馬温泉に近い六甲山は自転車好きの間ではヒルクライムルートとして知られており、地域の自然環境を生かしたスポーツと、疲れた体を癒やす温泉という高い親和性が魅力となる。これが同温泉で自転車eスポーツ大会を開く理由となり、地域や企業からも賛同が得られた。
こうして20年7月にバーチャルサイクリングイベント「有馬―六甲 Virtual Ride Race」が開催された。同イベントはサイクリングアプリ「Rouvy(ルービー)」を活用。有馬温泉から六甲山頂の実際のコースをあらかじめ映像として撮影してAR化(拡張現実処理)し、会場に設置されたロードバイクを参加者がこぐことで、アプリ内のアバターがコースを走るバーチャルレースである。ロードバイクには映像と連動して負荷がかかる仕組みで、実際のコースを走っているような感覚になるという。
20年はメインレースに109人(海外の59人含む)が参加。レースの様子はYouTubeでライブ配信し、チャットも大いに盛り上がった。翌21年にはメインレースに171人(海外の152人含む)が参加したほか、実際のコースを走るリアルイベントも行った。同年、有馬温泉にはセキュリティ駐輪場やバーチャルサイクリング体験設備を整えたカフェができ、自転車好きが訪れる拠点となった。こうした動きが呼び水となり、22年には兵庫県が有馬温泉でサイクリング大会を開催。そのにぎわい事業として3回目となるバーチャルサイクリングイベントを開催した。
地域文化・自然資源を組み合わせ産業や観光につなげる
これまでの活動により有馬温泉を訪れる自転車好きが増えるなど目に見えて効果が表れていると言う金井さんたちに、地域でeスポーツに取り組む際の注意点を聞いた。
「eスポーツと地域の文化・自然資源を組み合わせて、産業や観光につながるものでなくてはなりません」と金井さん。竹下さんも「イベントなどには企業をはじめ多くの方の協力が必要ですが、その地域ならではのストーリー性がないと賛同は得られにくいでしょう」と語った。
今後については「最新技術をうまく活用すれば地域経済を活性化できると実感した。例えばメタバースやWeb3などを取り入れることも考えたい」と言う竹下さん。この事業を担当する同所産業部の宮崎哲さんも「若い世代に支持してもらえる事業は、地域とこれまでにないつながりも生み出せる」と意欲を見せている。金井さんは「自転車eスポーツで地域を盛り上げたいところがあれば、ノウハウを伝えるので全国から声を掛けてほしい。将来は地域対抗戦や全国大会ができたらいいと思います」と商工会議所のネットワークを生かした広がりへの期待を語った。
データ
神戸商工会議所
所在地 : 兵庫県神戸市中央区港島中町6丁目1番地
電話 : 078-303-5806
HP : https://www.kobe-cci.or.jp/
※月刊石垣2023年6月号に掲載された記事です。
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