コロナ禍を乗り越えて前へ踏み出す「Beyondコロナ」の時が来た! 国内外の社会・経済も活発化してきている。今や人の活動が積極化し、AI技術が加速するなど、社会全体が大きな変革期に入っているともいえる状況だ。そこで、コロナ禍の逆境もチャンスと捉え、一歩先を見据えた経営を進める地域企業の取り組みを紹介したい。
コロナ禍での顧客の悩みに対応しドローンを活用し販促支援へ
兵庫県姫路市にある市場印刷は、印刷だけでなく企画デザインや広告制作などを手掛けている。住宅や不動産会社向けの広告制作を主な事業にしているが、その一方で「イチバに聞けばなんとかなる」をモットーに、顧客の事業における悩みを解決するためにさまざまなサービスを提供する便利屋としての顔も持つ。コロナ禍では売り上げが減ったものの、その中で新しい事業も始め、販路開拓につなげている。
「イチバに聞けばなんとかなる」を実践して成長
1993年に姫路市中央卸売市場の一角で、印刷物の制作をする会社として創業した市場印刷は、今では印刷業の枠を超え、主に住宅会社を対象とした販促・集客提案も行っている。
「当初は市場の中で仕事をもらおうと思っていたのですが、どこの業者さんも印刷業者が決まっている。そこで、何でもやりますと言って飛び込み営業をしていきました。新聞に折り込みチラシを出している会社に営業に行ったので、住宅や不動産の会社が多くなり、サービスの一環として、オープンハウスや現地見学会などのお手伝いで私が着ぐるみを着たりしていました。当時は無料でやっていたので、お客さまから『あんなことする印刷会社はほかにおらんな』と言われていました」と、社長の髙島泰輔さんは笑う。
それが今の販促・集客の企画やデザインの業務につながり、顧客がほかの企業を紹介してくれるようになったことで、住宅・不動産関連の顧客が増えていった。
「一般的な印刷会社は印刷物を納品するまでが仕事で、つくったチラシの反響をお客さまに聞くことはしません。しかし、弊社は作成した商品の集客効果や反響にこだわっています。反響が少なければ、印刷物は減らし、ほかに反響のある方法を探して、お客さまに提案しています。そのため『市場印刷っていったい何屋なん?』と笑って聞かれることもよくあります」
現在の業務はブランディング、VR・ドローン撮影、動画制作、ホームページ制作・運営、ポスティング、イベント企画・運営など多岐にわたる。それが「イチバに聞けばなんとかなる」の言葉につながっている。
コロナ禍だからこそできた新規事業を開始
実は同社では、コロナ禍前から住宅関連の折り込みチラシの反響に陰りが出てきていた。それは、新聞を購読する人の数が減ってきているのが原因だった。特に、住宅を購入する30歳前後の人たちが新聞を読まなくなっており、いくら折り込みチラシを出しても広告効果は低くなっていた。
「それに代わるべき集客方法を模索していた時期に、コロナ禍が発生しました。弊社がこれまで行ってきた住宅展示場でのイベント集客が全くできなくなり、人が外に出ないので名刺などの印刷物の注文も減少しました。そのため売り上げがコロナ禍前の半分以下という月が何カ月か続いたこともありました」と、髙島さんは当時を振り返り、顔を曇らせる。
その一方でコロナ禍に始まった新規事業もあった。同社は姫路商工会議所のものづくり支援センターの支援を受け、ドローンを活用した新しい事業で2021年6月に事業再構築補助金に採択された。そこで分譲地の空撮サービスを始めたが、これがきっかけで別の事業が始まったのだ。
「補助金に採択された経験を顧客に役立てたいと考えていたところ、ある商社から、コロナ禍で事業が先細りになりそうだから、補助金を活用して事業を再構築し、新商品を販売したいという相談があったんです。そこで、姫路市のデジタル化補助金や事業再構築補助金などの活用を提案し、ものづくり支援センターと一緒に申請のお手伝いをして、採択されました。その後は弊社が作成したECサイトで、SNSでの広告を行いながら、新しく開発したブランドの販売事業をお手伝いしています。これはコロナ禍だからこそ補助金を活用して始められた新規事業です」
モノを売ることからコトを売ることに変化
これ以外にも、コロナ禍で販路拡大を進めていくために、さまざまな方策を立てていった。
「コロナ禍において家を建てたい方々がどのようなことを考え、どのように住宅会社を決めているかなどを住宅会社と一緒に考え、その対策を考えていきました」と髙島さんは説明する。
例えば、非対面・非接触でも物件を紹介できるよう、建売住宅の棟上げをドローン撮影し、モデルハウスをショートムービーやVRで紹介。また、見学希望者が自分で鍵を開けて自由に見学できる無人モデルハウスなどを提案した。
「ほかには、ダイレクトメールを活用した顧客との新しい接点強化の提案です。これは、ある住宅関連機器の会社が、毎年恒例の展示会がコロナ禍で開催できなくなり、顧客との接点を継続するために、ダイレクトメールを送って営業担当が顧客にどうアプローチするかまでを考えた営業ツールです。実際にこれで、住宅機器の交換や販売促進に効果がありました」
以前は印刷物の制作やオリジナル販促商材の販売が中心だったが、コロナ禍での販促に関する顧客の悩みを解決するために、「モノ」を売ることから「コト」を売ることに変化したことが、コロナ禍における収穫だったと髙島さんは言う。
「売上額はコロナ禍前に戻りましたが、業務内容は様変わりしています。そこで、新たな取り組みをさらに進めていくため、今年2月に新会社を設立しました。これからもアンテナを張って、時代に適応したビジネスを行っていきます」
同社内には「どこでどんな花が咲くかわからんで。」と書かれた絵が掲げられている。この言葉のように、同社は顧客の要望とともに変化しながら、新たな事業に取り組んでいく。
会社データ
社名 : 有限会社市場印刷(いちばいんさつ)
所在地 : 兵庫県姫路市佃町37 O-BLD Ⅱ 2F
電話 : 079-226-0155
HP : https://www.ichiba-printing.com/
代表者 : 髙島泰輔 代表取締役
従業員 : 14人(パート含む)
【姫路商工会議所】
※月刊石垣2023年7月号に掲載された記事です。
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