1923年の創業以来、「真空断熱技術」と「熱コントロール技術」を追究し、生活に欠かせないさまざまな製品を世に送り出してきたタイガー魔法瓶。同社がその強みを生かして、2022年1月に発売した"真空断熱炭酸ボトル"は、「コレが欲しかった!」という消費者ニーズを捉えて、急速に売れ行きを伸ばしている。
強炭酸ブームをきっかけに誕生した次世代商品
ありそうでなかった商品だ。炭酸飲料を冷たいまま持ち歩けるる"真空断熱炭酸ボトル"である。
「現在では類似製品が市場に出ていますが、2022年1月の発売当時、当社の炭酸ボトルは国内メーカー唯一の商品でした」と発売元のタイガー魔法瓶ソリューショングループ・広報宣伝チームの玉矢賀子(のりこ)さんは説明する。
世界をリードする熱制御テクノロジーで、ジャー炊飯器、電気ケトルや電気ポットなど生活に欠かせない製品を世に送り出してきた同社は、今年創立100周年を迎えた。「NEXT100」をキーワードに、既成概念に捉われない新商品開発を数年前から進めてきた。その一つである同商品の企画が立ち上がったのは、19年冬のことだ。きっかけは、10年ごろから始まった「強炭酸ブーム」である。炭酸水は古くから日本にあり、居酒屋やバーなどの飲食店でアルコールの割材として使用されることが主な用途だった。ところが、世の中の健康志向やリフレッシュ効果へのニーズの高まりを背景に、無糖でスッキリする、おなかが膨れて食欲を抑えられるなどの理由で、飲料としてそのまま飲まれるようになった。同社にも「炭酸飲料を保冷したまま持ち歩きたい」「キャンプに冷えたビールを持っていきたい」という声が多く寄せられるようになったことを受け、開発に乗り出した。
真空断熱ボトルは元来、ビールやコーラなどの炭酸飲料を入れると中の圧力が上がって、破裂の恐れがあるため、NGとされていた。まさに、その既成概念を覆す開発だったわけだ。
炭酸ガスの気化以上に注力した破裂を防ぐ安全対策
ボトルに移しても炭酸ガスが抜けにくい、つまり気化を抑える仕組みを可能にしたのが、同社独自の「スーパークリーンPlus」加工である。ボトル内面の凹凸に炭酸の気泡がぶつかって気化を早めてしまわないよう、滑らかな加工を施して、気化を抑えようという発想だ。
「この加工は以前から、汚れやにおいを付きにくくするために、当社のボトルに施されていました。ある日、開発担当者が『この加工で気化も抑えられるのでは?』とひらめき、実際に加工のあるものとないものに炭酸飲料を入れて振ってみたところ、加工のある方は泡立ちが少ないことに気付き、炭酸ボトルにもこの加工を採用することになりました」
既存技術が使えたことはラッキーだが、同社がさらに注力したのは安全対策だ。一般的には、炭酸ガスを気化させないために、栓を固く締めて隙間をつくらないようにしようと考える。実際、海外製の炭酸ボトルはそういう構造になっているものが多いそうだ。しかし、密閉すればするほど、栓を開けたときに吹きこぼれや飛び散りが生じる恐れがある。それを防ぐために、同社は「Bubble Logic」という独自技術を開発した。これには二つの働きがあり、一つは「炭酸ガス抜き機構」だ。キャップの内側にあえて切れ込みを設け、栓を回すと炭酸ガスが先に抜けて吹きこぼれを防ぐものだ。もう一つは、「安全弁」である。万一、炭酸ボトルを真夏の車内に長時間放置してしまったような場合、ボトルの内圧が異常に上がって破裂を起こす可能性がある。そうなる前に炭酸ガスを自動で抜くための仕組みだ。
「安全弁は、通常の使い方をしている分には作動せず、異常な状況になったときのみ作動します。社内ではここまで安全対策が必要か?という議論もありましたが、日本のメーカーとして安全性は担保したいと考えました」
安全弁は、同社の圧力炊飯器に採用されている安全弁をヒントに開発を進めたという。とはいえ、強炭酸ブームの高まりを受けて各社がこぞって炭酸の強い商品を発売したため、その都度安全弁が正常に作動するかを確かめる作業に約2年の月日を要した。その過程で、開発担当者は噴出した炭酸水を何度も浴びたという。地道な実験を何度も重ね、ようやく納得のいく着地点を見いだした。
年間出荷目標の10万本をわずか3カ月で達成
内部構造の開発と並行してデザインも進めた。開発期間がコロナ禍と重なり、アウトドア人気が高まっていたことを意識して、ストラップを付けて持ち運びやすくしたり、見た目の格好良さを重視したりしたデザインを模索したという。カラー展開も、ビールタンクをイメージしたカッパー(銅色)、海外の炭酸水入りの瓶をイメージしたエメラルド、幅広いシーンに合うスチールの3色を当初採用し、高級感を出すため光沢を加えた(現在は5色展開)。
発売に先立ってプレスリリースを出したところ、すぐにSNSで話題となって、好調なスタートを切り、1年間の出荷目標の10万本をわずか3カ月で達成した。購入層は幅広いが、意外にも30~40代の男性に良く売れているという。 「今年は次なる100年を念頭に置いた新商品を続々と発売していますが、炭酸ボトルは特に好評をいただいています。今後も普段使いしやすいように改良を加えていく予定ですので、より多くの人に愛用してほしいです」と玉矢さんは大きな期待を寄せている。
会社データ
社名 : タイガー魔法瓶株式会社
所在地 : 大阪府門真市速見町3-1
電話 : 06-6906-2121
HP : https://www.tiger-corporation.com/ja/jpn/
代表者 : 菊池嘉聡 代表取締役社長
設立 : 1949年
従業員 : 728人
【守口門真商工会議所】
※月刊石垣2023年8月号に掲載された記事です。
最新号を紙面で読める!