ニュースで「生成AI(人工知能)」という単語を聞かない日はなくなった。生成AIの開発競争や、AIが雇用や生活に与える影響などが活発に論じられている。ただ、大半はブームに火を付けた「ChatGPT」を生み出した米国の視点で、「アジアとAI」というアングルの議論は少ない。だが、世界の人口の過半を占めるアジアにとって、省人化、無人化の目的を内在する生成AIがもたらす影響は甚大だ。
AIのビジネスへの適用では、定型的な文書やリポートの作成、プレゼン資料づくりなどへの利用が語られている。ほかの分野ではイメージ図や動画、音楽などの生成にも効果を発揮することが分かってきている。
だが、アジアにとっての生成AIは、まずは工場での利用が進むだろう。生産ラインにおける温度、圧力、湿度などの条件管理、製品の外観検査などすでにセンサーを使って自動化、遠隔管理されている分野もAIによって、より微細な感知、トラブル予測など予防の面で進化が期待できる。作業者の教育、訓練についても熟練作業者のモーション分析をAIで行い、AIが作業指示をすることで、習熟をより早くすることが可能になるだろう。「熟練の技」「匠」は生成AIが伝承することになるのかもしれない。そうなれば、従来、ライン作業者を監督、指導していた班長(スーパーバイザー)はAIに取って代わられる可能性がある。
工場における生産計画の執行や部品調達なども、生成AIが担当すれば精度が高まるという見方もある。コロナ禍で脆弱(ぜいじゃく)性の見えたサプライチェーンの強靱(きょうじん)化をAIが進めることになるかもしれない。いずれにせよアジアでは生産に生成AIが深く関わる時代がすぐそこに来ている。主要国では「AIが人の仕事を奪う」という議論が多いが、アジアの大半の国では工場におけるワーカーや店舗における接客などの仕事には影響が少ない一方、管理者レベルやバックオフィスの仕事が削減されるとみておくべきだ。
日本の中小企業は東南アジア、インドなどへの進出で、現地管理者の確保に頭を悩ませてきたが、その部分を生成AIによって代替できる可能性がある。当たり前だが、生成AIの翻訳機能は高く、英語だけでなくアジア各国の言語への対応が容易。生成AIは日本の中小企業のアジア進出の強い味方になってくれるだろう。警戒ではなく、活用の観点で生成AIに取り組むべきだ。
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