スポーツ用品や健康器具商品の開発・販売で、2015年に設立したスタートアップ企業、コア・テクノロジー。同社が野球選手の使用を想定して開発した腰痛対策ベルト「コアエナジー」に、熱い視線が注がれている。締めると腰のサポートだけでなくパフォーマンスも引き出してくれると、プロ野球選手やアマチュア野球でも愛用者を増やしている。
野球用具の中でベルトだけが進化していない
見た目はごく普通のベルトである。大きく異なるのは本体の素材だ。ゴム以上の伸縮性を持つパワーメッシュが6層構造になっており、着用すると腹部の腹斜筋を適度に圧迫する。すると体幹(コア)が安定して四肢の可動域が広がり、腰への負担軽減や故障の防止につながる。また、腰に粘りが生まれ回転も良くなるなど、体が持つ本来のパフォーマンスを引き出してくれる。実際に着用してその効果を実感する人がじわじわと増えていき、今では日本のプロ野球選手の6~7割、高校野球やアマチュア野球でも約5割に愛用されているという。 「バットやグラブ、スパイクなどの野球用具は日々進化していますが、ベルトだけはユニフォームの裾が出なければいいくらいの認識しかなく、長年、合皮製の物が使用されてきました。そんなベルトに機能性を加えたのが『コアエナジー』です」とコア・テクノロジー社長の横井隆直さんは説明する。
同社は、同商品の開発・販売で2015年に設立したスタートアップだ。その5~6年ほど前、腰痛に悩まされていた元プロ野球選手と帯同トレーナーから、「痛みを感じずにプレーできる、コルセットのようなベルトはないか」と相談を持ちかけられたことが開発の発端だ。当時、横井さんはマスク製造の老舗・白鳩で専務の役職にあったが、前職で繊維関係の会社に勤めており、素材の幅広い知識とものづくりのノウハウがあったことから好奇心に火が付き、腰痛対策ベルトの試作に乗り出した。
元高校球児の社員による飛び込み営業で球界へ売り込む
作業は横井さん、白鳩縫製の匠・上杉寿紀さんで行った。本業の合間を縫っての作業であることに加え、参考にできる既存商品もなく、試作は思いのほか時間を要した。
腰痛の主な原因は、腹圧の低下だ。そのため腰痛対策ベルトには腹圧を高める効果が求められる。それをかなえる素材を探す際、一部のメジャーリーガーが使用していたゴム製のベルトがヒントになった。ただ、ゴムはよく伸びるが縮む力は弱いため、適度な伸縮性のあるメッシュ素材に目をつけ、何度も試作を繰り返した。 「どれくらい伸びてどれくらい縮めばいいのか、さまざまなメッシュ素材を使って縫製しては、選手に着け心地を確かめてもらいました。その結果、ゴム以上の伸縮性を持つパワーメッシュを6層に折り畳んだ状態が、柔らか過ぎず硬過ぎず、おなかに適度な圧がかかることを見いだしました」
素材を見つけた後もさらに試作を続け、現場で着用してもらいながらデザインや縫製方法などをブラッシュアップしていった。13年には「ベルトサポーター」として特許を取得、さらに6層構造でも特許が認められた。15年、横井さんを含む4人でコア・テクノロジーを立ち上げ、満を持して販売を開始した。とはいえ、会社は知名度がないため、話を聞いて商品を手に取ってもらうために、展開したのがいわゆる“飛び込み営業”だった。その役割を1人で担ったのが、設立2年目に入社してきた元高校球児の社員だ。 「彼は甲子園の常連校である高知の明徳義塾高校野球部のOBで、卒業後は関西独立リーグでもプレーした経歴の持ち主です。野球は縦横のつながりが強い世界で、ツテがないと門前払いされがちなので、彼はまず母校の恩師を何度も訪ねて、他チームの監督や大学の先輩・後輩などを紹介してもらい、そこで顔を売ってまた新たなチームを紹介してもらうという泥くさい営業を地道に行いました」
同社が東京ヤクルトスワローズの村上宗隆選手をはじめ、プロ野球選手数人とアドバイザリー契約を交わせたのも、彼の野球人脈と営業スタイルによるところが大きい。もちろん、1人で回れるチーム数には限りがあるが、商品を使った人はパフォーマンス向上効果を体感し、その口コミが徐々に広がって愛用者を増やしていく。極め付きは、東京五輪や今年のWBCの日本代表選手の大半が、同商品を使用していることがメディアに取り上げられ、ユーザーがさらに増加。これまでの累計出荷本数は10万本を超えるまでに至った。
米国にも市場開拓中箔を付けて逆輸入したい
現在はゴルフ用やビジネス用も開発し、さまざまな人の腰をサポートしている同商品。発売後もリニューアルを重ね、現在販売されているのは三代目商品の「コアエナジーⅢ」だ。今後はサッカーなどベルトを締めない競技にも対応できるように、新製品の開発にも力を入れている。
また、新たな市場開拓を目指して、昨年、米国・カリフォルニア州アーバインに事務所を開設した。すでにメジャーリーグにもネットワークを駆使してアプローチをかけており、ドジャースやパドレスなど4球団ほどが採用してくれているという。 「使って効果を実感してもらえれば、日本よりマーケットが大きいだけに、どこかで一気に火が付く可能性があります。そうなったら、『米国でも使われているベルト』という箔を付けて日本に逆輸入したいですね」と展望を語る横井さん。ニッチで革命的なものづくりで勝負をかけるスタートアップの今後に期待したい。
会社データ
社 名 : コア・テクノロジー株式会社
所在地 : 愛知県名古屋市南区弥生町121-1
電 話 : 052-870-4512
HP :https://www.core-technology.jp
代表者 : 横井隆直 代表取締役社長
設 立 : 2015年
従業員 : 4人
【名古屋商工会議所】
※月刊石垣2023年9月号に掲載された記事です。
最新号を紙面で読める!