ここへ来て、中国経済の低迷が鮮明化している。これまで高成長を支えてきた不動産市況の悪化に歯止めがかからない。不動産関連分野はGDPの3割程度を占めるとの試算もあり、経済に与える負の影響は大きい。不動産価格の下落や住宅販売の減少によって、中国国内のデベロッパーの経営体力は低下し、債務不履行の恐れも高まっている。加えて、土地譲渡益の減少によって地方財政も悪化し、インフラ投資などの景気刺激策を発動することは難しくなった。雇用、所得環境は悪化し中国の需要は減少した。7月の輸入は前年同月比12・4%減少した。
川上の物価動向を示す生産者物価指数(PPI)は同4・4%下落、消費者物価指数(CPI)も同0・3%下がった。自動車、家電、家賃などの価格は下落し、デフレ圧力は高まっている。また、海外経済の環境の悪化や半導体など先端分野での米中対立の影響もあり、7月の輸出は前年同月比14・5%減少した。
足元、中国では、不動産市況の悪化などに伴い債務の返済を優先し、支出を抑制する個人や企業が増えている。思い起こされるのは1990年代のわが国だ。バブル崩壊による資産価格の急落によってわが国経済全体でバランスシート調整が進んだ。消費や投資を減らし債務圧縮に取り組む家計などは増えた。1990年代後半にわが国はデフレ経済に突入し“失われた30年”などと呼ばれる長期の停滞に陥った。中国経済もそうした環境に向かいつつあるようだ。そのきっかけは、2020年8月に共産党政権が“三つのレッドライン”と呼ばれる不動産融資規制を実施したことだった。多くの市場参加者は、共産党政権が不動産バブルの抑制に真剣に取り組み始めたと急速に危機感を高めた。不動産デベロッパーは資金繰り確保のために資産の切り売りを急いだ。中国の不動産市況全体で“売るから下がる、下がるから売る”という負の連鎖は鮮明化した。マンションなどの価格は下落し、不動産業界全体で資金繰りに行き詰まる企業は増えた。8月8日、碧桂園(カントリー・ガーデン)はドル建て社債の利払いを実施しなかったと報じられた。
マンションなどの建設は減少し、土地の需要も落ち込んだ。地方政府の重要な財源になってきた土地利用権の譲渡益は減少した。地方政府の財政は悪化し、一部では財政破綻が懸念されるケースも増えている。経済対策として道路、鉄道などのインフラ投資を大規模に実行することは難しくなった。インフラ投資に用いられる基礎資材、建設機械などの需要も減少し、生産活動は停滞した。過剰生産能力は累積し、7月までPPIは10カ月続けて下落した。不動産や設備投資の減少などによって雇用、所得環境も悪化した。アリババなどIT先端分野の企業に対する締め付け強化もあり若年層(16〜24歳)の失業率は46・5%に達したとの研究結果も報じられた。
個人消費の減少により7月のCPIも下落した。共産党政権は金融緩和を強化したが、目立った効果は出ていない。景気の減速を食い止めるために財政支出を増やす考えも強調しているが、不動産分野や地方政府の債務問題が深刻であるため大規模な対策は打ち出しづらい。消費者心理は悪化し、半導体、自動車部品など輸入も減少基調だ。
外需に関しても環境は厳しい。先端分野での米中対立、世界的なスマホやパソコンの出荷台数減少などによって、輸出減少は鮮明だ。また、労働コストの上昇や政策に関する不透明感の高まりなどを背景に、中国から脱出する海外企業も増えた。短期間で直接投資が盛り返す展開は期待できない。当面、債務の返済を急ぐ中国の家計、企業などは増えるだろう。需要減少は勢いづき持続的に物価が下落するというデフレ環境が鮮明になる恐れは高まっている。若年層を中心とする雇用、所得環境の悪化懸念を背景に、共産党政権が本格的に不良債権処理を進めることも容易ではない。1990年代にわが国が経験した、あるいはそれ以上に厳しい環境に中国は向かいつつあると見られる。
(8月14日執筆)
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