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まちの視点 一人の百点満点目指す

看板に掲げられたいとしやのコンセプト。「誰に」「何を通じて」「どのように幸せになってほしいか」が明確だ

商いとは「何を(WHAT=商品・サービス)」「なぜ(WHY=経営理念)」「いつ(WHEN=商機)」「どこで(WHERE=立地)」「どのように(HOW=業態・販売方法)」、そして「誰に(WHOM=対象顧客)」提供するかという5W1Hの実践にほかならない。

中でも昨今、「誰に」が最も大切な要素となっている。なぜなら、人口減少社会を迎えた今日、顧客はもはや無限ではないからだ。需要が供給を上回っていた時代ならば、「誰に」が漠然としていても、やってこられたかもしれない。しかし、今やモノはあふれ、消費者の嗜好(しこう)は多岐にわたる。「あの人に」と言い切るくらいに対象顧客が明確であってこそ、ほかの五つも明確になる。

お客を「たった一人」まで絞り込む。すると顧客は増え、売り上げは利益と共に上がる。今回は、そうした店を取材したときの話だ。

モノを通じてコトを売る

寝具から家具、カーテン、ランプ、インテリア小物、ハーブティー、本、CD、アロマに観葉植物──。モノでくくると何屋と呼べばいいのかよく分からない店だが、実はこれらは全て「快眠のための商品」である。

「アフター9のリラックス」というコンセプトを掲げ、従来の布団店の常識では考えられない品ぞろえによって10%強の売り上げ増を続ける大分市の「いとしや」は、快適な眠りとすがすがしい朝を迎えるためのコトを販売している。「布団屋」から脱却して「眠り屋」を極める同店は、顧客を「生活を楽しみ、時間を丁寧に使う生活者」という感性軸で絞り込み、顧客に心の豊かさを提供することに集中している。

具体的には、モノを使い捨てするのではなく、買うプロセスを有意義に感じる女性に絞り込む。当然、商品に対しても厳しい目を持っているから、そうした女性の感性に合わない商品は、たとえ他店で売れていても売り場に置くことはない。「誰に」を徹底するとはそういうことだ。

「商品を仕入れる際にも、常にイメージするお客さまを思い描きながらセレクトします。例えば、タオルは白とオフホワイト以外の色は思い切ってカットするなど、複数の選択肢からお客さまに自由に選んでもらうのではなく、想定したお客さまに合うものだけをそろえています。あなたにはこれ、と言い切れる商品ほど、多くのお客さまからご支持いただけます」と店主の大杉天伸さんは言う。

あなたの店は何で選ばれたいのか

今日、顧客が自身の欲しいモノが明らかならば、その購買行動は簡単だ。より安くて便利で、迅速に入手できる方法をとる。選ばれるのはあなたの店ではなく、豊富な品ぞろえと低価格、利便性に優れたインターネット通販かもしれない。

今日、小さなあなたの店が選ばれるためには、顧客自身が気付いていない潜在ニーズを的確に提案することが大切だ。そのとき店と顧客の絆は深くなり、結果として客単価が上がり、生涯購買額が上がっていく。

さらに、ロイヤルカスタマーとなった顧客は新たな仲間、すなわち未来のロイヤルカスタマーを連れてきてくれる。そして、店は同じ価値観を共有する顧客のコミュニティーへと成長していく。

あなたの理想の顧客は誰だろうか? あなたの商品を喜んで買ってくれる顧客は誰だろう? 数多くの顧客が持っているぼんやりとしたニーズの平均点を狙うのではなく、たった一人の百点満点を目指す。そうすれば、結果としてお客は増え、売り上げと利益が上がることをこの店は実証している。

(商業界・笹井清範)

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