日本商工会議所は1月18日、緊急要望「能登半島地震による被災者の1日も早い生活再建と事業再開に向けて」を決議し、政府など関係各方面に提出した。要望に先立ち、日商の小林健会頭は、石川・富山県商工会議所連合会を訪問し、被災地の声を丁寧に聞くとともに、被災地および全国の商工会議所関係者に向けてメッセージを発出。今後の支援活動への協力を呼び掛けた。緊急特集では、能登半島地震の被災地3県の声をお届けするとともに、小林会頭のメッセージ、緊急要望の概要を紹介する。
日本商工会議所の小林健会頭は1月12日、石川県商工会議所連合会の安宅建樹会頭(金沢商工会議所会頭)および富山県商工会議所連合会の庵栄伸会長(富山商工会議所会頭)を訪ねた。被災地へのお見舞いと激励、全国の商工会議所が総力を挙げて支援を行っていく決意を直接伝えるとともに、現地の生の声に耳を傾けた。石川県、富山県を訪問後、全国の商工会議所に向けてメッセージ「『令和6年能登半島地震』の支援に向けて」を発出した。
日商は、18日には第733回常議員会・第301回議員総会を開催し、石川県連の安宅会頭、富山県連の庵会長、新潟県商工会議所連合会の福田勝之会頭(新潟商工会議所会頭)が被災状況などについて説明。その後、能登半島地震への対応と支援についておよび緊急要望「能登半島地震による被災者の1日も早い生活再建と事業再開に向けて」を決議した。
要望書では、全容がつかめない甚大な被災からの生活・産業インフラの復旧、事業再建、地域再生までの復興が長期戦になることを想定。政府には、復旧・復興のステージで異なるニーズにきめ細かく対応した大胆な金融・税・財政支援など、総合的な支援パッケージの迅速な実行と、十分な財源確保に向けた予算再編成など、万全な対策を求めている。また、住民や事業者が地域の将来に希望を持てるように、復興ビジョンの早期策定と公表を戦略的に進めることも要望している。
能登半島地震による被災者の1日も早い生活再建と事業再開に向けて
緊急要望(概要)
○度重なる災害で被災者および被災事業者の心は折れかかっている
○大胆な金融・税・財政支援など総合的な支援パッケージの迅速な実行を
○地域の将来に希望を持てる復興ビジョンの早期策定を
Ⅰ生活再建への万全の支援と生活・産業インフラの早期復旧を
1.水道・ガス・電気・通信などライフライン完全復旧、避難者の住宅確保などの早急な実現
2.道路・鉄道・港湾・空港など、地域経済の再建を支える産業インフラの早期復旧
3.災害廃棄物処理などに係る財政支援(地方自治体に対する特別交付金など)
4.官民一体となった復興まちづくりへの支援強化
Ⅱ早期の事業再建・再開を後押しする大胆な金融・税・財政支援を
1.迅速かつ万全の金融支援、販路拡大、取引継続支援を
2.被災事業者の雇用維持に係る費用補助と申請手続きの簡素化を
3.補助金などの申請期限の延長・手続き簡素化、税・社会保険料の減免などを
4.被災した施設・設備の復旧・復興支援を
5.被災事業者の早期事業再建を支援する商工会議所などの経営支援体制強化を
Ⅲ販路拡大や観光振興など地域の賑わい回復に向けた支援を
1.風評被害を防止する継続的な情報発信、インバウンドに向けた正確な情報発信
2.地震災害の影響を直接的・間接的に受けた事業者の販路回復に向けた展示会・商談会などへの出展(出張・出展費、販促費用など)に対する支援(持続化補助金)
3.損傷した文化財や史跡・名勝などの保全・改修・活用に向けた支援
4.能登、北陸地域に関する観光プロモーションおよび観光需要喚起キャンペーン実施
5.無形文化財・伝統工芸品など地場産業の復興支援
メッセージ
「令和6年能登半島地震」の支援に向けて
2024年1月12日
日本商工会議所 会頭 小林 健
このたびの「令和6年能登半島地震」により、亡くなられた方々、そのご家族、ご親族、関係者の皆様に対しまして、謹んでお悔やみを申し上げますとともに、被災された皆様に心からお見舞いを申し上げます。また、大変な状況の中で懸命に救助活動ならびに復旧活動にあたられている皆様に対し、心から感謝申し上げます。
被災地の商工会議所では、自らも被災する中で、4日から順次、特別相談窓口を設置し、被災企業の相談対応を開始しています。長期に亘ったコロナ禍や度重なる災害によって、心が折れてしまうような思いを抱く方も多くいらっしゃる中で、商工会議所が先頭に立ち、伴走支援を行っていくことは、地域、企業にとって大変心強いものと存じます。被災地の商工会議所、そして役職員の皆様のご対応に、心より敬意を表します。
12日には、被災地へのお見舞いと激励、そして全国の商工会議所が総力をあげて支援を行っていく決意を直接お伝えするため、まずは石川県、富山県の県連機能を有する金沢、富山の両商工会議所を訪問しました。少し時間はかかってしまいますが、甚大な被害が生じている能登地域にも必ずお伺いします。被災地の声に耳を傾け、「現場主義」「双方向主義」を貫き、被災地が真に求める支援活動の展開とともに、適切なタイミングでの国への要望活動に繋げてまいります。
日本商工会議所では、一日も早い復旧・復興に向け、一次対応として全国の商工会議所に義援金募金へのご協力のお願いを発出したところです。また、現在は救助・生活支援が最優先というステージでありますが、状況が落ち着いてくれば、そのステージは事業者支援へと移ってまいります。
全国の商工会議所におかれましては、被災地において、大変な状況の中でも前を向いて懸命に活動されている仲間に思いを馳せつつ、義援金へのご協力とともに、今後、経営指導員の応援派遣などの人的支援や事業再建支援など、全国のネットワークを活かした支援活動が必要になってまいりますので、何卒ご理解とご協力を賜りますようお願い申し上げます。
日本商工会議所としても、東日本大震災や熊本地震など、過去に学んだ教訓や経験を活かし、被災地ならびに被災企業の再建、被災地の商工会議所の復旧に向け、力強く、そして息長く支援を継続していくことを約束いたします。
能登半島地震 石川・富山・新潟 被災地の現況を3県連が報告
1月18日に開催された日本商工会議所第733回常議員会・第301回議員総会では、能登半島地震で大きな被害を受けた石川県、富山県、新潟県の被災地および各商工会議所の被災状況や対応に関して、石川県商工会議所連合会の安宅建樹会頭、富山県商工会議所連合会の庵栄伸会長、新潟県商工会議所連合会の福田勝之会頭が壇上に立ち、全国の商工会議所からの支援や激励に感謝するとともに、現状報告を行った。
石川県商工会議所連合会 安宅会頭
商工会議所の職員は全員無事 業務の再開には大きな支障も
令和6年能登半島地震に対しまして、小林会頭並びに日本商工会議所をはじめ全国の商工会議所の皆さんには、心温まるお見舞いやご支援を頂戴いたしました。心から感謝を申し上げたいと思います。
被災直後から、現地では人命救助と避難者の安全確保に全力で取り組みましたが、救助する人手が少なく、多くの家屋が倒壊し、200人を超える方が亡くなりました。また、安否不明の方も現時点で二十数人おられます。多くの住宅が被害を受け、孤立した集落もあり、被害の全貌が1月17日現在でもまだ十分に分かっていないというのが現状でございます。
能登には三つの商工会議所があり、どの商工会議所の職員も全員無事ではありますが、自宅が全壊、半壊した方もおられ、避難所生活など困難な生活を強いられている方も多くおられます。
七尾商工会議所は、建物はおおむね被害はありませんでしたが、玄関部分や塀が壊れています。また、近くの駐車場では液状化が起こっています。市内の和倉温泉は全ての旅館が被災して、休館しております。和倉温泉の被害額は1千億円超と言われており、いかにこういった温泉街を復興していくかが大きな課題となります。
輪島商工会議所は事務所が全く使えない状況で、1月17日から別の場所で業務を開始しております。ただ、まだインフラや機材が整っていないため、金沢商工会議所からも一生懸命に支援をしているところです。輪島市は、輪島塗と朝市に代表される観光のまちです。朝市通りは半分以上が焼失しており、輪島の塗師屋さんは建物の全壊や焼失の被害に遭っており、観光が大変大きな打撃を受けているというのが現状でございます。
珠洲商工会議所の建物は海岸の近くにあり、津波も来ましたが、耐震構造になっており、なんとか業務が再開できるめどはつきつつあります。しかし、職員の多くが被災しており、なかなか元に戻ることができないのが現状です。
珠洲市は9割の建物が倒壊しており、被害は甚大なものとなっており、生活に必要な機能が壊滅的な状況でございます。
石川頑張ろう、能登頑張ろう キャンペーンを行っていく
金沢以南の4商工会議所および会員企業などもそれぞれ被災していますが、金沢商工会議所で調べたところ、2、3割の方が何らかの被害を受けたものの、大きなものはないということです。
こちらでは大きな被害はありませんが、観光客の激減といった風評被害が起きております。われわれとしましてはタイミングを見て、石川頑張ろう、能登頑張ろうといったキャンペーンを行いたいと思っておりますので、その際はぜひ応援をお願いいたします。
今回の地震は、人口減少、高齢化が急速に進む過疎地という、全国どこにでもあるような地域で発生しました。また半島なので三方が海に囲まれてアプローチがしにくく、金沢からしか行けないという地理的な状況もございます。能登では現在、電気、水道、道路など、まだインフラが整っておらず、復興には程遠い状況でございます。
一方、七尾市から南の金沢市に近いところは徐々にインフラが整いつつあり、各事業者あるいは住民の方々も復興に向けて動き始めている状況でございます。
政府から今回の地震を本激(激甚災害)に指定していただき、岸田総理からは地域産業復興にもこれから力を入れていくという力強い言葉をいただいております。私どもも小林会頭はじめ、各商工会議所の皆さまの力強いご支援をいただきながら、地元経済の復活に全力で取り組んでまいりますので、よろしくお願い申し上げます。
富山県商工会議所連合会 庵会長
見た目は問題なさそうだが操業再開が遅れそうな産業も
今回の能登半島地震におきましては、皆さま方から温かいお見舞い、激励を頂戴いたしまして、誠にありがとうございます。
富山県では観測史上最大となる震度5強の地震が県内全域で発生いたしました。1月16日時点の被害状況は、重軽傷者44人、住宅被害は3500軒弱となっております。
富山の場合は建物の倒壊よりも、地盤の液状化による陥没、隆起、それに伴う道路の通行止め、そして一時期は5万戸近くの断水が発生しました。現在も石川県との県境にある氷見市では260戸で断水が続いており、インフラ面での被害が今後、順次分かってくると思っております。
県内には八つの商工会議所があり、アンケートなどで把握している事業所被害は1千件程度、金額としては30億円程度となっておりますが、直近の県の発表では、全体としては100億円を超える被害になるのではないかとされております。
地震により、商品・物品の落下、建物の配管などの損傷、機器の倒壊、誤作動といった被害がございました。当地は医薬品製造業が多いのですが、その工場配管に直接被害を受けたところはもちろんですが、見た目は大丈夫そうでも、亀裂などが入っていると大変ですので、問題ないことが確認できるまで操業ができないといった事業所もあるようです。状況によっては今後、影響がさらに大きくなるのではないかと心配しております。
復興と観光振興の両面で石川と連携していきたい
各商工会議所の被害状況は、会館ビルの天井が落ちるなどの被害はあったものの、被害が比較的多かった氷見、高岡を含め、全職員の無事が確認できております。また、全ての商工会議所で1月4日から被災者向けの特別相談窓口を設置し、執務を開始しております。石川県と比べると富山県は被害が比較的少なかったのですが、風評被害といいますか、観光地、宿泊施設などでは2万件以上のキャンセルが出て、直近では3億円を超える損害があったと発表されています。
富山商工会議所では3月16日の北陸新幹線の敦賀延伸に向けて、金沢と福井の3商工会議所で力を合わせて観光振興を図ろうとしていた矢先での地震被害でした。富山県の8商工会議所としましては、まずは、被災事業者に寄り添ったきめ細かい支援に全力で取り組み、時期を見て石川県に対しても指導員の派遣などで応援させていただきたいと考えております。そのために、各商工会議所が復旧、復興に加えて、観光振興でも力を合わせてまいりたいと考えております。
新潟県商工会議所連合会 福田会頭
液状化はどこでも起こり得る 各商工会議所は事前の確認を
新潟県では上越商工会議所のある上越市に津波が来ています。また土砂が崩れ落ち、道路が寸断されて孤立した場所もありましたが、県内の主たる被害は地盤の液状化です。
今回の地震において、特に新潟市内では、一見して大きな被害は見られず、インフラもほとんど全部通っていますが、液状化により家が傾くといった被害が多く発生しています。これが補償の対象になるのか。現状としてはそれが問題です。
液状化現象は日本全国どこでも起こり得る災害です。私どもとしましては、各地の商工会議所の皆さまが液状化による災害についてご理解いただき、地域の地盤を調べて、自分たちの土地がどういう場所にあるかを確認しておいていただければと思っております。
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