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まちの解体新書 朝日にいちばん近い 自然豊かな水産城下町

清隆寺と千島桜:明治時代に国後島から持ち帰った桜を移植、樹齢150年ほど。桜前線の終着地

北海道東端に位置するまち

北海道(本島)の東端に位置する根室市は、太平洋とオホーツク海に突き出した根室半島にある人口約2万6000人のまち。その地理的条件から6月の夏至の頃は、午前3時半過ぎには空が明るくなる。一方で昼間の時間が短くなる秋から冬にかけては、午後4時ごろになるとすっかり日が暮れるという。そして、毎年1月1日の朝(元旦)、半島の突端(日本最東端の岬)の納沙布(のさっぷ)岬には、全国から大勢の人が訪れる。その目的は「初日の出」(初日詣)だ。実は列島四島(北海道、本州、四国、九州)の平地の中で、最も早い「初日の出」は、地軸の関係から千葉県銚子市の犬吠埼であるが、1年を通じて最も多くかつ最も早い「日の出」を見ることができるのはこの納沙布岬。その日数は310日(約85%)ほどで、断トツの1位。それは洋上の有人島を含めても230日(約63%)ほどで群を抜いている。こうしたことから、市内には「朝日にいちばん近い街」と書かれた看板が掲げられている。

「市名の根室は、江戸時代に当時の蝦夷(えぞ)地を探査し、後の明治2(1869)年に蝦夷地に代わる地名として“北海道”という名前を考案した松浦武四郎が命名しました」と話すのは根室商工会議所の山本連治郎会頭。続けて根室の歴史について、「江戸時代後期、廻船(かいせん)業者として蝦夷地に進出し、箱館(現在の函館)の発展に尽力した淡路島(兵庫県)出身の高田屋嘉兵衛が、宝暦4(1754)年に国後島・択捉島間と納沙布の航路を初めて開き、同年、松前藩が国後場所(同藩家臣の知行地)を開いて、根室に運上(うんじょう)屋(交易場の経営拠点)を置いたことが集落としての始まりです。寛政4(1792)年には、伊勢白子港(現在の三重県鈴鹿市)の船頭で、航海中に漂流しロシアに流れ着いていた大黒屋光太夫が、ロシア最初の遣日使節アダム・ラクスマン一行とともに、帆船エカテリーナ号で根室に入港しました。このように根室は、国後島・択捉島などとともに、北の玄関口の役割を担ってきました」と説明する。

根室商工会議所 会頭 山本連治郎 氏

海の恵みに感謝するまち

2017年(最新)のデータで水揚げ量5万6000t強、水揚げ金額208億円超の規模を誇る根室では、毎年8月から9月にかけて先人たちや海の恵みに感謝するお祭りが続く。その一つが北海道三大祭りに数えられる「根室 金刀比羅(ことひら)神社例大祭」だ。

「根室 金刀比羅神社」は文化3(1806)年、北洋漁業を開拓した高田屋嘉兵衛(前述)が建立した神社。讃岐「金刀比羅宮」の御祭神である大物主神(おおものぬしのかみ)を主神とし、事代主神(ことしろぬしのかみ)、倉稲魂神(うかのみたまのみこと)の三神がまつられている。もともとは海上交通の守り神として漁師や船員などから多くの崇敬を集めていたが、根室の発展とともに、地域の氏神としての色彩が濃くなり、今では家内安全、商売繁盛、合格や安産などの祈願も行う市民に根付いた神社となっている。

例大祭は、例年8月9日から11日までの3日間行われ、1日目の9日が宵宮祭、2日目の10日が本祭、3日目の11日が還御祭だ。10日と11日には、重さ1・5tの黄金色に輝く豪華絢爛(けんらん)な神輿(みこし)と市内四祭典区の山車(だし)による市内巡行が行われる。2日間で約10㎞にも及ぶ巡行には10万人超の人々が繰り出し、普段は涼しい根室も、この3日間は熱くなる。

主に9月の第一土曜日とその翌日の日曜日に行われるのが「根室かに祭」。主役はもちろん、根室半島(花咲半島ともいう)近海でよく取れ、市内花咲港に水揚げされる“花咲ガニ”。カニというと冬のイメージが強いが、赤い甲羅にトゲトゲの多いこのカニの旬は、実は“夏”。7月~9月が漁期だ。

祭りでは、花咲ガニをはじめ、他のカニも市価より安価で購入できるほか、真っ赤にゆであがった花咲ガニを、そのままほおばったり、さまざまな料理で味わったりと存分に堪能できる。また、特設ステージでは、来場者参加型のイベント「かに取り合戦早食い競争」や郷土芸能の披露、歌謡ショーなども行われ、祭りを盛り上げる。

根室を代表する味覚として忘れてならないものがもう一つ。それは、“サンマ”だ。サンマの水揚げ量日本一の根室で「とろさんま」と呼ばれるほど脂ののったサンマを味わうことができるのは、9月の第3土曜日とその翌日の日曜日に行われる「根室さんま祭」。会場には無料で提供された新鮮なサンマを焼いて食べられる炉端コーナーが設置されるほか、多い人では両手で一遍に20~30匹のサンマを取ることもある大人気のサンマのつかみ取り大会や、箱売り即売会なども行われる。

「さんま祭りは、もともと平成5(1993)年に、ねむろ港まつり花火大会の会場の一角で、地元の有志7人がサンマ500㎏を焼いて無償提供したことから始まりました。その後、会場を根室駅前に移しました。認知度の高まりとともに来場者も増えてきた平成12(2000)年の8回目から運営方法を実行委員会方式に変更し、会場も根室港岸壁として、現在に至っています。ただ近年は、中国、台湾、韓国による乱獲ともいえる漁の実施や、地球温暖化の影響などでサンマ自体の数が減少しているように思います。特に今年(2019年)の水揚げ量は、前年の15%程度と深刻な状況です。そのため、さんま祭りの開催も危ぶまれましたが、関係者の意地と熱意で、どうにか開催できました。今後は、当該国などに乱獲の防止を求めていくとともに、サンマ自体を増やす努力をしていかなくてはなりません」(山本会頭)

金刀比羅神社御神輿:約120人の若者が担ぎ、掛け声とともに練り歩く姿は圧巻

水産城下町を支える根室商工会議所

国内有数の水産城下町・根室も、全国的に進む少子高齢化と人口減少の影響で、地場産業ともいえる水産加工業などでは人手不足の状態が続いている。その対策として、根室商工会議所は、平成24(2012)年に外国人技能実習制度の監理団体となり、ベトナム人技能実習生の受け入れを開始。現在、同所会員企業の水産加工場で実習が行われている。

「根室とベトナムとの関係は、平成22(2010)年に根室の特産品を売り込みに行ったことから始まり、その後、人的交流へと発展しました。当時、すでに水産加工場を経営する会員企業から人手不足の話を聞いていましたので、ベトナム人技能実習生の受け入れを決めました。なお、受け入れに当たっては、当然のことですが、本制度の趣旨をきちんと理解し、社内体制が整備されている企業を選びました。また実習希望者には、ベトナム訪問時に知り合った信頼できる現地パートナーに、日本(根室)での実習意欲をしっかり確認してもらった上で紹介してもらっています。お陰で当所は、『優良監理団体』となり、受け入れ企業数も9社にまで拡大しました。当市の水産加工業従業者(約2500人)の約5%に当たる130人のベトナム人技能実習生は、今では水産加工場に欠くことのできない存在となっています。こうしたことから、当所では日本に留学していたベトナム人女性を職員として採用しました。彼女には企業訪問により実習生の様子を確認してもらうとともに、相談相手にもなってもらうなど、きめ細やかに対応してもらっています。また実習生の中には、休日を利用して地域の夏祭りに浴衣を着て参加する者もおり、家と職場だけでなく、日本の文化に触れてもらっています」(山本会頭)

重要港湾根室港:北方海域の中心的な漁業基地と物流の拠点を担う

ふるさと納税の活用で将来を見据える

「根室は、同規模の他地域のまちと比べると市名にしろ、位置にしろ、意外と知られていると思いませんか。正確な位置は分からなくても『北海道の東の方ですよね』とか『漁業のまちですね』などと言われることが多いです」と話す山本会頭。その名刺には、根室商工会議所会頭の肩書に加えて“根室ふるさと納税応援団”と記載がある。

2019年度のふるさと納税ランキングを見ると、根室市へのふるさと納税金額は39億7334万6448円で全国6位、件数は24万2022人で全国4位、北海道では納税金額が1位で件数が2位だ。本年9月27日付の地元紙『根室新聞』には、市の発表として「平成27年度から本腰を入れて取り組んでいるふるさと納税は、30年度までの4年間で総額135億2700万円に達し、経済波及効果は126億3100万円、域内総生産を約68億円押し上げて、734人の雇用を誘発した。(4年間の納税総額135億円の使い道として)記念品贈呈に要した経費(受納経費)が68億2500万円、ウニやホタテの種苗放流など沿岸漁業の資源増に向けた事業などに39億9500万円、各種基金に27億700万円積み立てた」という記事が掲載された。主力の沖合漁業の環境が厳しくなる中、ふるさと納税制度を活用した沿岸漁業の振興に向けた取り組みは、根室の未来を明るく照らすものとして注目される。

納沙布岬から望む北方領土。わずか数㎞先にある

“野鳥の楽園”根室半島と北方領土

ラムサール条約の登録湿地である「風蓮湖・春国岱(しゅんくにたい)」のある根室半島は、湿原や湖、干潟、海、川など多様な自然が残る世界的にも貴重な野鳥の楽園。日本で観察できる野鳥(約600種)の半分以上が確認されており、それを目当てに世界中からバードウオッチャーが訪れる。彼らは、主に半島に6カ所設置された「ハイド」と呼ばれる野鳥観察舎(小屋)からエトピリカ(アイヌ語でくちばしの美しい鳥という意味)やタンチョウ、オオワシなどの、いずれも北海道東部以外ではなかなか見ることができない希少な鳥を、四季を通じて観察する。長い人は数週間にわたり滞在するという。また、こうした野鳥を市街地からほど近い場所で日常的に見ることができるのも根室の魅力。世界的に高い評価を得ているという。

根室半島の突端、納沙布岬からわずか3・7㎞先に浮かぶ貝殻島。この島は、7・0㎞先の水晶島や13・0㎞先の秋勇留島(あきゆりとう)などから成る歯舞群島の島の一つで、北方領土である。「北方領土」とは、この歯舞群島に、色丹島、国後島、択捉島を加えた四つの島のこと。終戦直後に旧ソ連軍によって不法占拠され、ソ連崩壊後の今日もロシアによる占拠が続いている。

「北方領土に対する根室の立ち位置は、平和条約の締結を含めた早期解決です。政府には平和条約締結に向けた交渉の加速化をお願いしたいです。一方で、われわれが今できることは、北方領土を目で見る運動としての修学旅行の誘致です。ぜひ根室に来ていただき、北方領土を見て、知ってもらいたいですね」と山本会頭は語った。

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