日本商工会議所はこのほど、「全国商工会議所観光振興大会2024in 水戸」で、「2023年度全国商工会議所きらり輝き観光振興大賞」の表彰式を開催した。大賞(日本商工会議所会頭賞)に輝いたのは、結城商工会議所(茨城県)の「まちなか音楽祭『結いのおと』」。表彰式では、同所の野口純一氏が登壇し、地元密着回遊型音楽フェスの取り組みとその基盤となった同所の「結いプロジェクト」について説明した。
表彰制度は、08年度に創設したもので今回が14回目。地域資源の掘り起こしと活用、人材育成によるホスピタリティの向上などにより交流人口増加に貢献し、他の範となる観光振興活動を行う商工会議所を毎年顕彰しているもので、今年度は全国の12地域の取り組みが選定されている。
大賞となった結城商工会議所は、市内の寺社仏閣・酒蔵・結城紬の産地問屋など歴史的・文化的資源をユニークベニューとして最大限に有効活用したまちなか音楽祭を開催。当初は数百人規模であった音楽祭が、1万人を集める一大イベントに成長し、開催エリア付近における新規開業など地域活性化につながっている点が高く評価された。
特集では、結城商工会議所のほか、優秀賞の小松商工会議所(石川県)の「GEMBAモノヅクリエキスポ」、きらり特別賞に輝いた室蘭(北海道)、今治(愛媛県)、八女(福岡県)など12商工会議所の取り組みを紹介する。
大賞
結城商工会議所(茨城県)
まちなか音楽祭「結いのおと」 地域資源を最大限活用 10年で来場者は50倍に
大賞を受賞した結城商工会議所(茨城県)は、まちづくり会社TMO結城と連携し、まち歩きをしながら音楽を楽しめる回遊型のまちなか音楽祭「結いのおと」を2014年から実施している。地域の潜在的な魅力や新しい価値観を発信することなどをコンセプトに年々規模を拡大。地域の人々の生活や歴史ある文化に触れることができる2日限りのライブイベントだ。
市内のコンサートホールやまちに点在する地域固有の観光資源である寺社仏閣、酒蔵、結城紬の産地問屋などをステージとして活用した唯一無二のイベントとして定着している。
結城商工会議所がTMO結城と連携したまちづくり事業「結いプロジェクト」をスタートしたのは「結いのおと」を開始する1年前の13年。当初の動員数は200人程度だった音楽祭「結いのおと」は、市中心部の歴史的・文化的資源をユニークべニューとしてライブステージに有効活用する取り組みとして、スタート時から話題となった。
「結いプロジェクト」では、「結いのおと」だけでなく商工会議所の全面的な支援により、古民家をリノベーションしたシェアスペース「yuinowa」、ゲストハウス「HOTEL(TEN)」などを拠点にスタートアップや移住希望者にまちの魅力を発信。まちなかマーケット「結い市」などのにぎわい創出にも取り組む。
開催を重ねるごとにSNSと口コミで認知度が向上した音楽祭は、徐々に大きなイベントへと成長していき、まちなかに新規事業者を呼び込むなど目に見える形で成果が上がった。これまでに15店舗が開催エリアに進出。地域に新たな消費と雇用を生み出している。
10年目を迎えた23年は、「水曜日のカンパネラ」などの有名バンドをはじめ、2日間で27組の人気アーティストが出演し、延べ1万人が来場した。期間中は、結城市のローカルスイーツやクラフトビールなどのご当地メニュー、全国から集まった自慢のグルメやグッズなど、約60店舗がライブ会場に出店。特産の結城紬の着物で音楽祭に参加できる「きものでおでかけプラン」、人力車によるまちなか散歩、貸し出しチェキでライブやまちの様子を写真に収める「結いふぉと」などのさまざまなイベントも同時開催している。24年も4月に開催する予定だ。
優秀賞
小松商工会議所(石川県)
オープンファクトリー「GEMBAモノヅクリエキスポ 「イベント」から「通年販売」へ 観光商品化にチャレンジ
優秀賞に輝いた小松商工会議所のオープンファクトリー「GEMBAモノヅクリエキスポ」は、市内のものづくり事業者でつくる「こまつものづくり未来塾」や市などと共に2022年度から実施。地域の工場や工房の見学を観光商品化し、販売している。
イベントは市内の幅広いものづくり産業の魅力発信を目的としたもので、23年度は、35事業者が参加。約50のプログラムを実施し、全国から約4400人が来場した。
体験プログラムを「イベント型」から「通年販売」へ移行することを目指し、「商品・販路開拓チーム」を結成。専門家の支援の下、商品開発やその販路開拓を推進するスキームを設計した。
これは参加者に、ものづくりの職人の技や思いを体感してもらうことで、その価値を納得して商品を購入してもらうため。体験プランだけでなく商品の販売にもつなげることで、事業の持続性向上を見込んでいる。
プロジェクト参画事業者同士が交流できる「GEMBAサロン」では、会社の枠を超えた仲間による世代や業種の多様性あるコミュニティを形成。ベテラン経営者や若手クリエイター、大学生など幅広い層が相互に連携して、課題の解決などに取り組み、新しいビジネス創出の土壌をつくっている。
また、地方で働きたい副業人材と参加企業をマッチングさせる「GEMBAパートナーシップ」を新たに開始。副業人材マッチングサービス「はたふり」を活用し、7人のマッチングを実施した。
きらり特別賞
〈地域資源活用〉
室蘭商工会議所(北海道)
24時間滞在型 撮りフェスin室蘭
室蘭商工会議所、室蘭市、室蘭観光協会と地元企業が連携して取り組む「24時間滞在型 撮りフェスin室蘭」は、24時間という制限時間の中で参加者が市内を散策し、幻想的な工場夜景や壮大な自然景観など室蘭の魅力ある風景を写真に収めていく滞在型のフォトイベント。「世界がまだ知らない室蘭を撮りに行こう」をキャッチフレーズに、2016年度から実施している。普段撮影することのできないスポットが特別に解放されることも魅力だ。
同事業は地域資源を活用して「フォトジェニックシティ」を打ち出し、参加者が一堂に集まる機会を創出することで飲食や交通、宿泊の利用につなげ、経済波及効果を生み出している。また、実行委員会には地元企業や大学生などのボランティアスタッフも多数参加。開催時には商店街との連携企画も実施するなど地域が一体となって取り組んでいる。
〈スポーツツーリズム〉
今治商工会議所(愛媛県)
クリテリウムレースで「今治を世界中のサイクリストの聖地に!」
今治商工会議所などが今治市街地で2022年に初開催した「今治クリテリウム」は、プロ選手による自転車ロードレース大会。今治市と尾道市(広島県)をつなぐ瀬戸内海横断自転車道(しまなみ海道サイクリングロード)に多くのサイクリストが集まることから、中心市街地への観光誘客、にぎわい創出を目指して企画した取り組みだ。
レースは港を核とした1周1.43Kmのコースを32周するもので、観客は選手が競い合う迫力ある光景を間近で観戦した。同事業には商店街組合や観光協会、青年会議所(JC)などが参画。地域を巻き込んだオール今治体制を構築し、資金やマンパワーを確保した。レース観戦に訪れた人が宿泊・観光・グルメなどを楽しめる自転車特化型の観光資源を創出している。24年7月に第2回を開催予定。今後は定期開催を目指す。
〈地域資源再興〉
八女商工会議所(福岡県)
八女福島観光プロジェクト~古民家ホテルを核とした地域活性化と観光の展開~
八女商工会議所が取り組む「八女福島観光プロジェクト」は、人口減少が進む八女市の交流人口増加を目指すもの。魅力ある宿泊施設を創出することで宿泊滞在型観光を実現しようと、空き家となっていた古民家を改装し、2020年に古民家ホテル「NIPPONIAHOTEL八女福島商家町」を開業した。
これにより周辺商店街の売り上げや新規出店が増加。その後も古民家ホテルが2棟開業し、移住者も増えるなど地域経済の拡大に寄与している。また、市内に点在する観光地を結ぶ電気自動車周遊コースの設置やお茶の産地であることをアピールする「八女茶カフェ」の常設、「八女茶ソムリエスクール」の開講など次々と追加施策を実施。観光地としての魅力向上と受け入れ態勢の強化、人材育成を図っている。
奨励賞
八戸・久慈・宮古・釜石・大船渡商工会議所(青森県・岩手県)
マンガを活用した三陸沿岸道路沿線の飲食店PR事業
三陸沿岸地域の八戸・久慈・宮古・釜石・大船渡商工会議所が連携して取り組む「マンガを活用した三陸沿岸道路沿線の飲食店PR事業」は、コロナ禍などによる観光客減少で厳しい経営状況が続く事業者を支援するもの。2021年の三陸沿岸道路(復興道路)の開通を機に、同道路から市街地へ観光誘客を図ろうと食をテーマに企画した。
既存のグルメマップと差別化するためマンガを活用。商工会議所職員と漫画家が実際に取材し、飲食店の魅力を掘り下げて紹介している。
新潟商工会議所(新潟県)
“みなとまち新潟”の観光資源である「新潟古町芸妓」の周知と利用促進
新潟商工会議所が中心となって取り組む「新潟古町芸妓」の周知と利用促進活動は、技芸伝承と商店街のにぎわい創出を目指すもの。新潟空港への国際線の再開や市が進める新潟都心のまちづくり「にいがた2㎞」も背景に、江戸時代のファッションショーを再現したイベント「古町芸妓の練り歩き」や芸妓のもてなしを若年層へ低価格で提供する試み、料亭文化体験会などを実施し、古町芸妓をアピールしている。
諏訪商工会議所(長野県)
諏訪賑わい創出・資源開発「おしなそば」プロジェクト
諏訪商工会議所が取り組む「おしなそば」プロジェクトは2021年、食による地域活性化を目指してスタートした。おしなそばは地域資源であるそば・みそと伝統野菜「上野大根」を組み合わせた新メニュー。諏訪市内にはそば提供店が30店以上あり、提供可能性や誘客効果を見込んで飲食関係者や伝統野菜生産者組合、自治体なども参画し開発した。生産量が減少傾向の伝統野菜に活用先を生み、他の地域資源を組み合わせて地域資源の再興に寄与した。
飯山商工会議所(長野県)
COME DISCOVER IIYAMA 地域力発信!インバウンド向けプロモーション事業
飯山商工会議所が取り組む「COME DISCOVER IIYAMA」は、訪日外国人向けに飯山市の魅力を発信する事業。体験型・長期滞在型観光の促進を目的に、地元の風景、アクティビティー、日常生活などを数本の動画にまとめ、WEB上で公開している。穴場を探すインバウンド客のニーズに応えるため飯山在住外国人の視点なども盛り込んだ。外国人の利用が少なかった施設に予約が入るなど取り組みの成果が見え始めている。
鹿沼商工会議所(栃木県)
かぬまシウマイでまちおこし
鹿沼商工会議所が取り組む「かぬまシウマイ」によるまち起こし事業は、シウマイで知られる崎陽軒の初代社長・野並茂吉氏が鹿沼市出身である縁に着目したのが始まり。同社と連携してJR鹿沼駅前にシウマイ像を設置したほか、餃子が名物の宇都宮駅と鹿沼駅間のバス路線を「シウマイ餃子ライン」と命名するなど多彩な取り組みを実施している。シウマイ像はまちのシンボルとなり、シウマイ取扱店が増加するなど経済効果を生んだ。
佐原商工会議所(千葉県)
まちぐるみ かき氷コレクションin佐原スタンプラリー事業
佐原商工会議所が取り組むグルメイベント「まちぐるみ かき氷コレクションin佐原」は、日本かき氷協会と連携し、2018年、佐原市内の土蔵を会場にスタート。コロナ禍の21年から水郷のまちの歴史的まち並みエリアでかき氷提供店を巡るスタンプラリー事業とし、観光閑散期の7~9月に開催している。デジタルスタンプラリーを併用するなどデジタル化も推進。観光情報、店舗情報も発信し、旅行体験の価値を向上させている。
新南陽商工会議所(山口県)
周南地域広域連携 産業観光ツアー
新南陽・徳山・下松・光の4商工会議所が連携して取り組む「産業観光ツアー」は、山口県の周南地域(周南市、下松市、光市)に広がる工業地帯を観光資源として生かそうと企画。2005年に開始し、22年度までに321コースを開催、8108人が参加した。親子向けや体験、酒蔵巡りなど多彩なコースがあり、毎年参加者に好評を得ている。自治体や関係企業とも密接に連携し、関係人口の創出・拡大に貢献している。
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