経済産業省が主催する「DXセレクション2023」の優良事例に選定された中野建設は、施工部門と管理部門の両方にデジタルツールを導入し成果を上げている。経営トップがDX推進を宣言してデジタルツール導入機運を高め、現場が自由にアイデアを出して実行する―そこには、社内一丸となってDX推進に取り組める環境があった。
ICT推進室を設置し土木工事をデジタル化
2015年、同社が手掛ける土木現場で、ワンマン測量に特化してつくられた測量機「杭(くい)ナビ」の活用が始まった。
一方で、国土交通省が旗振りをするICT(情報通信技術)を活用して建設現場の生産性向上を図る「i-Construction」の対応が進んでいる。このような中で中野建設では、17年からICTの調査研究をスタートさせ、19年から専属の社員を配置、20年にICT推進室を設立した。
社長の中野武志さんは、導入の成果をこう評価する。「数人がかりの測量関連作業が1人でも可能になったので、空いた時間を効率よく使えるようになり、担当者の労働時間が減りました」。
土木統括本部長の堤茂徳さんは、さらにネットワークカメラを用いた遠隔臨場を実施した。そして、工事写真や電子黒板などを共有できるシステムを導入。現場管理者は、報告書作成などの事務作業時間の確保が容易になった。
このようにデジタルツールの効果は明らかだが、同社は導入ツールを自社の業務に合わせつつ、使いながら進化させていく考えだ。そのためトライアル期間を存分に活用し、何ができるのかを見極めて、使えると判断したものを採用してきた。加えてeラーニングなどのサポートが充実していることを重視。デジタルは日々進化するので、一度決めたものを使い続けるのではなく、より良いもの、業務に合うものが出てきたら切り替えるという柔軟な構えも大事だと考える。
こうした試行錯誤の結果、業務が効率化されたことが突破口となって、同社では「i-Construction」の取り組みが進んだ。ICTに対する社員の抵抗感は薄れ、ICT推進室にはドローン操縦の指導依頼や現場の不便をデジタルで解決できないかという相談が寄せられるようになった。
では、管理部門のデジタル化はどう進めたのだろう。
中野さんは、「管理部門でも社員からRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)を導入したいという要望が出てきました」と振り返る。RPAは、作成したシナリオに基づいて動作するロボットにより業務を自動化する技術だ。これを使いたいと手を挙げたのは、管理部門に勤務するデジタル初心者の社員だった。会社の取り組みとしてその社員が自由に働ける環境をつくった。
当時、紙から基幹システムへ入力していた請求支払業務の作業を自動化するため、その社員は通常業務の傍らeラーニングで学んだり、勉強会に参加したりして知識を蓄えた。そしてRPAとOCR(手書き書類などの文字を認識してテキストデータとして抽出するシステム)を組み合わせて、会社独自のロボットを作成した。これにより、請求支払業務を全社で年間1500時間削減することができた。そのほかにも複数の業務をRPAで自動化している。現在では、RPAのつくり手を増やすべく、社内で研修や勉強会を実施し、さらなる自動化への取り組みを進めている。
「DX戦略書」を作成30年までの道筋を示す
23年5月には、経済産業省より「DXセレクション2023」の優良事例に選定。また、同年7月には、佐賀県内の建設業で初めてDX認定を受けた。
DX認定で策定されている「DX戦略書」では、フェーズ1(情報のデジタル化)、フェーズ2(業務プロセスのデジタル化)、フェーズ3(ビジネスのデジタル化)をマイルストーンとし、30年4月までに達成すべく取り組んでいる。
中野さんは、DX戦略を達成するために、環境整備の推進と毎年の売上高の0・5%をデジタル投資することを宣言した。さらにDXを加速化するために、社長直轄でプロジェクトを立ち上げた。それには「社員が周囲に遠慮や失敗を気にすることなくDXに取り組める」という狙いがある。
また、今後も業務のDX化を進めることで、会社の生産性向上や働き方改革だけでなく、お客さまへ付加価値を還元すると同時に、最新の技術を用いて仕事ができることをアピールし、学生から選ばれる企業を目指すという。
同社がDXの取り組みを続けていける秘訣(ひけつ)は、経営トップが明確な意志を示し、社員がDXの可能性を十分理解する場を設け、楽しみながら取り組む環境を構築したことにある。
わが社のDX推進成功のポイント
課題
・土木部門ではICT技術の全面的な活用が求められていた
・管理部門では業務のデジタル化が最優先となっていた
DX推進のための工夫
・土木部門では誰もが使いやすく、安価で作業が効率化できるという条件でツールを探し「杭ナビ」を選んだ。電子黒板なども導入
・管理部門では2019年から業務の自動化を検討しRPAを導入
成果
・杭ナビにより2~3人必要だった測量が1人でできるようになり、時間を効率的に使えるようになった
・RPAでロボットを作成し、作業を自動化して業務時間の削減に成功。請求書など入力業務が集中する月初~中旬の時間を削減し、ほかの業務に充てられるようになった
会社データ
社 名 : 株式会社中野建設(なかのけんせつ)
所在地 : 佐賀県佐賀市水ヶ江二丁目11番23号
電 話 : 0952-24-3211
HP : https://www.nakanet.co.jp/
代表者 : 中野武志 代表取締役社長
従業員 : 265人
【佐賀商工会議所】
※月刊石垣2024年4月号に掲載された記事です。
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