仕出し弁当やおせち料理、給食の配達や食堂委託運営など多角的に事業を展開している明和食品。創業者亡き後に社長に就いたのが母の川邊ゆう子さんで、2023年に息子の篤史さんが三代目の代表取締役に就いた。従業員ファーストの思いをつなぎ、鹿児島の味を世に広めるべく、経営改革を進めている。
苦労する母を助けたいと家業入りを決意
鹿児島市の中心市街地から北へ車で約20分の距離に、明和食品の本社工場がある。創業は1976年、創業者と兄弟、その家族の数人で小さな弁当屋を開いたのが始まりだ。 「創業者は私の父で、奄美大島から親戚を頼って鹿児島に渡り、同郷の人が経営する缶詰工場で働いていたそうです。しかし、ほどなく工場が倒産し、弁当屋を始めたと聞いています」
三代目で代表取締役の川邊篤史さんは創業の経緯を語り、「なぜ弁当屋なのかは不明」と首をかしげて笑う。だが業績は順調に伸び、83年には従業員が20人に増え、バブル期には年間10億円以上の売り上げがあったという。しかし、ここから事態は一変する。 「父が病に倒れ、私が大学生の頃に他界してしまったのです。母が事業を承継しましたが、経営については全くの素人。特に利益よりも売り上げ重視の経営で、引き継いだ母は会計面で相当苦労していました。それで何か力になれたらと、会計士の資格を取るべく会計大学院に進みました」
川邊さんが資格取得に意気込む中、今度はゆう子さんが病に倒れてしまう。 「当時、私は東京で暮らしていましたが、子育てをするなら鹿児島と考えていました。それに母が再婚した義父が経営コンサルタントの手腕に長けた人で会長職に就いてもらったのですが、早く経験やスキルを伝授したいと言ってくれて。それならと帰郷して、明和食品に入社することにしました」
社長の息子だからこそ実力で社内の信頼を得る
2015年、24歳で入社した川邊さんは、会社全体のことを早く理解したいと総務部への配属を希望する。それも役職なしの一社員としてのスタートだった。 「社長の息子だからこそ、誰よりも働いて、結果を出していこうと思いました。社会人経験はなかったのですが、非常にアナログな会社であることは見てとれました。入社して4、5年はベテラン社員たちに追い付け、追い越せと人一倍働き、同時にパソコンについても猛勉強しました。総務と経理業務の作業効率化を皮切りに、各部署で重複している業務、無駄な経費を見直し、DX化を進めていきました」
マーケティングやブランディングを一手に引き受け、取引先との価格交渉など対社外の重要な局面でも矢面に立った。結果を出して常務取締役、専務取締役と昇進し、入社5年目頃に事業承継を具体的に考え始めたという。だが、その時期と新型コロナウイルスの感染拡大が重なった。 「仕出し弁当の打撃は相当でした。イベントや祝い事が軒並み中止となり、影響の少ない給食事業をやっていなかったら、今頃どうなっていたか。多角化経営の重要性を再認識し、事業の安定強化を急ぎました。注力したのが給食事業と食堂委託運営です。現地の寮や社食、学食の厨房に従業員を派遣して調理するスタイルで、モノではなくコトの提供に努めました」
「従業員のため」の思いを未来につなぐ
さらにコロナ禍でも好調だったのがおせち料理事業だ。年末のみの製造販売ながら年間売り上げの10%を占めた。それも86%がリピーターで、県内のみならず県外からも注文が入る。おせち料理はギフト化傾向にあると分析した川邊さんは、料理のおいしさはもちろんのこと、配送時に料理が崩れない詰め方や、贈られた人が喜ぶ梱包デザインにまで工夫を凝らした。先代の「会社は従業員とその家族の暮らし、幸せが第一」の考えを踏襲し、コロナ禍でも人員削減をせずに乗り切った。そして23年、満を持して三代目に就く。社長業とこれまでの実務に追われ、社外PRが後手に回っていると感じる中、中小企業の経営支援を行う「鹿児島よろず支援拠点」から声を掛けられ出場を決めたのが、「第3回アトツギ甲子園」だ。 「100年企業を目指し、さらにその先も存続していくには地域に知ってもらってこそ。甲子園は構想段階の事業のプレゼンでもいいというので、子育ての経験を生かした冷凍弁当のアイデアを発表しました」
各種の冷凍のおかずがワンセットになっており、あとはご飯を詰めるだけ。このお弁当のプレゼンが好評を博し、準ファイナリストに選出された。各メディアで紹介されると、地元の大手百貨店から店頭販売のオファーが舞い込む。 「一般のお客さまがうちのお弁当を知るきっかけになります。県内初となる地元の国立病院機構監修の『栄養バランス弁当』をはじめとした各種弁当の販売を24年2月から始めました」と川邊さん。多角化経営に拍車を掛けるが、根底にあるのは先代から続く「従業員のため」という思いだ。 「100年後は弁当屋じゃないかもしれませんが、従業員のためという軸を持っていれば、明和食品は成長し続けると思います」
この思いを未来に届けるべく、企業理念の明文化、工場の移転改築など、やりたいことはめじろ押しだ。
会社データ
社名 : 明和食品株式会社(めいわしょくひん)
所在地 : 鹿児島県鹿児島市岡之原町4442-5
電話 : 099-243-7117
HP : https://www.meiwa-shokuhin.jp
代表者 : 川邊篤史 代表取締役
従業員 : 170人
【鹿児島商工会議所】
※月刊石垣2024年5月号に掲載された記事です。
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