航海に正確な地図と羅針盤が必要なように、地域づくりに客観的なデータは欠かせない。今回は、名古屋市の北東に隣接し、人口30万人超を誇る中枢中核都市の春日井市について、まちの羅針盤(地域づくりの方向性)を検討したい。
典型的な地方中心都市
平安時代に書道の能書家として活躍した三跡の1人・小野道風が生まれた春日井市は、1943年に人口5万人余りの軍需都市として誕生、戦後は王子製紙春日井工場の誘致を機に内陸工業都市として発展、60年には高蔵寺ニュータウンの開発が決定し住宅都市としても開発が進められた。現在、西部は県営名古屋空港の一部や市庁舎、古くからの商店街があり、東部は大規模住宅団地が広がるという多面的な都市構造となっている。
こうした都市の性格は地域の稼ぐ力にも表れており、産業別純移輸出入収支額を見ると第2次産業で1千億円以上、地域経済循環図を見ると雇用者所得で2千億円近く、域外から所得を獲得している。一方、集まった所得を背景とする旺盛な消費需要に対し、特に第3次産業の供給能力が育っておらず、域際収支は1千億円を超える赤字となっている。
実は、こうした構造は地方中心都市に多く見られる特徴である。ものづくり産業の基盤がある都市に人口が集まり、増加するサービス業の需要に対して、チェーン店などの進出・誘致によって供給を賄っている構造だ。
人口増加局面では効率的・合理的な側面もあり、現在市民に問題は少ないかもしれないが、本格的な人口減少局面を迎える将来市民にとっては、地域の稼ぐ力が伸び悩む一方で大幅な域際赤字が続くことになり、地域経済の持続可能性が危機にさらされている状況だ。
岐路に立つ地域経営の方向性
春日井市は交通の便もよく確かに「住みやすい」都市だ。また、製造業の基盤もある。
ただ、人口が減少する中、今後も雇用者所得で域外から所得を稼ぐためには、就業地から離れていても「住みたい」「住み続けたい」と思われるよう、春日井市ならではの魅力溢れる都市となることが必要だ。一方、ものづくり産業だけで地域経済を支えることが難しいことも事実だ。多くの地域で、製造業で稼いだ所得が地域内を循環しないという課題を抱えており、春日井市も同様である。
では、春日井市が地域経済循環を強く太くし、持続可能な地域経済を構築するためにはどうするか、答えの一つがまちづくりと地域産業振興の融合であり、官民連携(PPP・PFI)の推進である。 一般にまちづくりは行政の役目と思われているが、コンパクトシティ政策で住民が集中しても、そこに商業などのビジネスがなければにぎわいは生まれない。立派な都市マスタープランができても、ビジネスの余地が無ければ味気ない空間が広がるだけである。
ただ、だからといって全国各地と同様のサービスやビジネスだけでは、春日井市ならではの魅力は形成できず、地域経済循環の持続性につながらない。春日井市のことをよく知る地域企業を、地域からの目線でビジネスを育てる仕組みを、まちづくりに組み込むことが重要だ。
地域企業にとって、まちづくりはリスクが大きいかもしれないが、複数の事業者がそれぞれの得意業務を持ちより一体となって公共事業やまちづくりに挑戦するローカルPFIという手法も広がっている。また、まちづくりで生まれた公共空間を民間が活用できるようにすることで、大きな初期投資なく地域にさまざまなビジネスを生み出すことも可能となる。なにより、こうした連携があって、初めてまちがつくられることを、官民が理解し、ベクトルを共有することが求められている。
行政と民間が役割やリスクを分担しながら将来市民のためのまちづくりを進めること、そのために官民で共有できるまちの将来像を策定すること、それが春日井市のまちの羅針盤である。
(株式会社日本経済研究所上席研究主幹・鵜殿裕)
最新号を紙面で読める!