北陸発展の礎をつくったまち
福井県越前市は、平成17(2005)年に旧武生(たけふ)市と旧今立町が合併して誕生したまち。「当市の歴史は古く、大化の改新の頃に、越前国の国府が置かれ、北陸地方の玄関口として栄えました。『源氏物語』の作者・紫式部が、父・藤原為時の当地への転勤により、生涯にただ一度だけ京の都を約1年間離れて住んだまちでもあります」と話すのは、武生商工会議所の山本仁左衛門会頭だ。
その京都から、同市(JR武生駅)までは特急で約1時間20分、車では北陸自動車道の武生ICまで2時間半ほど。ちなみに大阪からは特急で1時間40分、車で約3時間、東京からは新幹線を利用してJR米原駅で乗り換えて3時間10分ほどの距離にある。そんな越前市を山本会頭は「冬に積雪はありますが、地震や大雨などによる災害は、ほとんどありません。また、加賀百万石の城下町・金沢に今も残る伝統産業の数々は、実は戦国時代、前田利家が金沢に入封する際に、越前府中(現越前市)から連れて行った職人や商人たちに由来するんです。彼らがいなければ金沢の発展はなかったかもしれません」と紹介する。
にぎわいのキーワードは、花火、菊人形、親子連れ
人口8万2000人のまちがにぎわいを見せるのは、毎年8月に行われるサマーフェスティバルの花火大会だ。会場は、JR武生駅から歩いて5分ほどの日野川河川緑地公園。河川敷に設置された花火台から、市内中心部を見下ろす村国山を背景に打ち上げられる1万2000発の花火は迫力満点。花火台対岸の土手から見る花火は、ほぼ真上にあがり、その音との時間差はない。さらに音が山に反響するため花火の大きさ以上に大きさを感じるという。終わるころには、見上げた首が痛くなる花火大会でもある。
令和元(2019)年10月4日から11月4日までの32日間開催された「2019たけふ菊人形」。2年前の平成29(2017)年から入場料を無料にし、今回から菊人形の展示を屋外に変更したことで、より多くの人が来場した。会場の越前市武生中央公園には、菊花愛好家らが丹精込めて育てた大菊や小菊など2万株が、今回のテーマ「花開く童話の世界 Story of the Princess」の世界を表現して並んだ。
昭和27(1952)年から68回続く「たけふ菊人形」は、偶然の出会いが始まりのきっかけとなった。それは24(1949)年に行われた全国市議会議の会場でのこと。武生市議会(当時)の副議長が、既に菊人形で有名だった大阪府枚方市の議長とたまたま隣り合わせになり、2人の間で菊人形の話題で盛り上がったことによる。実は、武生地域では江戸時代から菊づくりが盛んで、寺院の境内などで品評会が行われるほどであったという。こうした素地があったことから地域住民の応援を受けた「たけふ菊人形」は、福島県の「二本松菊人形」と並んで、全国でも有数の規模を誇る菊人形展となった。
同公園内に平成29(2017)年8月にオープンしたのが「だるまちゃん広場」だ。子どもたちに大人気のこの広場は、同市出身の絵本作家・かこさとし氏が監修。子どもたちの想像力や探究心を育みたいとの願いが込められている。同氏の絵本『からすのパンやさん』をモチーフにした健康遊具「からすの運動場」や絵本『カラスのパンやさん』に群がるシーンを表現した大型遊具「からすのパンやさんのかざぐるま塔」、絵本『おたまじゃくしの101ちゃん』に登場する「いちべえ沼」の形をした池などがある。「休日を中心に県内外から多くの親子連れが訪れます。来園者数は、年間100万人ほどで県内行楽施設の中でも3本の指に入る人気スポットになっています」と、山本会頭は目を細めて話す。
伝統産業と先端産業が融合するものづくりのまち
越前市のものづくりの歴史は、法隆寺所蔵の国宝「橘夫人厨子」(7世紀末~8世紀初)の須弥座(台座)までさかのぼる。それは、その台座の隅に、『越前』と筆で墨書された落書きがあり、これが越前から徴集され、この厨子の製作にかかわった工匠が記したものと考えられているからだ。8世紀頃の『大日本古文書』の『越前国使等解』などによれば、京の都から遠い越前国の開墾部落で、収納家具として明櫃(あかひつ)と折櫃(おりうず)の2種類が使われていたという記録も残っているという。
このような歴史を持つ越前市は、県内に七つある国が指定する伝統工芸品のうち三つ(越前和紙、越前打刃物、越前箪笥・たんす)の産地であることから、「手仕事のまち」ともいわれている。中でも1500年の歴史を有するのが「越前和紙」だ。
特徴は、薄くて丈夫で、水にも強いこと。印刷にも適し、さらには偽造防止のため、紙を部分的に厚くする「黒すかし」という技術を持っていたことで、藩札に始まるわが国の紙幣の歴史とともに歩んできた。ちなみに、最初の藩札は、福井藩が万治4(1661)年に藩内の五箇村(現越前市(旧今立町の五つの地域))で漉(す)いた用紙で発行したものとされる。このほか、日本画用紙としても重宝され、横山大観や平山郁夫など名だたる画家が使用したことでも知られる。
「越前打刃物」は約700年前の南北朝時代、京都の刀匠・千代鶴(ちよづる)国安が名剣を鍛える水を求めて当地に移住し、刀づくりの傍らその技法により鎌をつくったことが始まりとされる。鎌づくりでは「廻し鋼(はがね)着け」、包丁づくりでは「二枚重ね」という独特な技法を用いた職人たちは伝統を守りながらも、それらの技術を応用した製品づくりを続け、また使用する鋼材にもこだわった。現在、生産されているステンレス包丁もその一つで、切れ味や使いやすさなどから欧米諸国のトップシェフから高い評価を得、愛用品になっている。
「越前箪笥」の製作が始まったのは150年ほど前の江戸時代末期から明治時代初期の頃、まちの旦那衆の家に出入りしていた「指物師」たちによるとされる。明治時代中期になると指し物師たちはまちを形成し、本格的にタンスづくりを行うようになる。その面影が残るのが、市内中心市街地の「タンス町通り」だ。家具店や工房が残るまち並みは、当時の雰囲気を、今に伝えている。また、鉄製金具の装飾が特徴の「越前箪笥」。その金具に施されているハートの形は、魔除けを意味する「猪目(いのめ)」という文様で、前述の「越前打刃物」の技術が使われているという。
令和元(2019)年9月14~16日までの3日間、サンドーム福井で開催された「越前モノづくりフェスタ2019」。昭和57(1982)年開催の「工業展」を原点とするこのイベントの今回のテーマは、「時代が求める技術がある」。同市が誇る先端技術産業や地場・伝統産業など、同市の持つ産業総合力を県内外にアピールすることが目的の一大イベントだ。181の企業・団体が集結し、来場者数は5万5000人を超えた。
「当市の製造品出荷額は6100億円超で、それは県全体の約3割に相当し、第一位です。市内には、信越化学工業さん、福井村田製作所さん、アイシン・エィ・ダブリュ工業さんなど世界トップクラスの工場が立地しており、最先端の技術力を生かして積層セラミックコンデンサやレアアースマグネットといった電子部品や、オートマチックトランスミッションに搭載されているトルクコンバータなどが製造されています。特に福井村田製作所さんの工場は、同社におけるマザー工場として位置付けられています。こうした各事業所の旺盛な生産活動を支える人材として、ブラジルをはじめとした多くの外国人社員が勤務しています。その数は家族まで含めると4300人ほどとなり、当市人口(2019年1月1日現在)の5・2%を占めます。これは全国平均の2%を大きく上回る数字です」
「外国人労働者(社員)は、昭和40年代頃からいましたが、急激に増えたのは最近10年ですね。地元の雇用が間に合わなくて増えていきました。また、近頃は多国籍化も進んでいます。現在、彼らの定住化に伴って子どもの数も増えています。小学校の中には、こうした子どもたちを対象にしたクラスを設けているところもあり、ポルトガル語を話せる先生もいます。地元の仁愛大学(保育科)では、カリキュラムの中でポルトガル語の単位取得ができるように準備を進めていると聞いています。市では、多文化共生のまちづくりを計画的に総合的に推進するため、昨年3月に『多文化共生推進プラン』を策定したところです」(山本会頭)
進む中心市街地の活性化
「私のお気に入りの場所は、中心市街地の“蔵の辻”です」と話す山本会頭。山本会頭の生まれた地でもあるその場所は、平成13(2001)年に再開発事業が完成し、同年、国土交通省の都市大賞を受賞している。大正時代から昭和時代初期の木造店舗や蔵が並び、関西地方と北陸地方を結ぶ物資の中継地であったことを伝える貴重な場所だ。ただ、ここを含む同市(旧武生市)の中心市街地も、全国の多くの都市と同様に郊外への人口流出が見られ、人通りが減ってきたという。こうしたことから、同所では平成19(2007)年に、越前市まちづくりセンター(武生商工会議所駅前分室(現まちなか分室))を開設、その後、27(2015)年4月には、同所が中心となって、まちづくり武生株式会社を設立し、山本会頭が社長に就任した。
「社長就任後の28(2016)年2月に、まちなか商店街活性化プラン(3カ年計画)を作成し、同年11月には、第3期越前市中心市街地活性化計画が国の認定を受けました。29(2017)年2月に総社通り商店街で火災が発生するという不幸な出来事がありましたが、中心市街地活性化の歩みは止めず、武生(越前市の旧名)の歴史とともに受け継がれてきた寺社や古民家・文化といった財産『てらら(寺等)』を、次世代に伝える『武生てららプロジェクト』を推進、『空き店舗見学会』なども実施しました。おかげさまで28(2016)年から30(2018)年の3年間で、空き地・空き店舗の活用に関する相談件数は毎年100件前後寄せられ、まちなかの開業件数も5、7、10件と年々増えてきました。中でも古民家をリノベーションした店舗は行列ができるほどの人気店となっています。少しずつではありますが、にぎわいと活気が戻りつつあります」(山本会頭)
伝統産業と最先端技術が融合し発展する製造業を有し、中心市街地ににぎわいをもたらすまちづくりを推進する越前市に令和5(2023)年3月までに北陸新幹線の新駅が加わる。その影響・効果をどう取り込むのか、5年後、10年後の姿に期待が高まる。
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