航海に正確な地図と羅針盤が必要なように、地域づくりに客観的なデータは欠かせない。今回は、宮崎県の県庁所在地で、県全体の約4割・40万人の人口が集まる中核市・宮崎市について、まちの羅針盤(地域づくりの方向性)を検討したい。
拠点性の強みと悩み
「生産→分配→支出」と所得が流れる地域経済循環の構造は、「中心都市型」「製造業都市型」「観光都市型」「ベッドタウン型」に大きく分けられるが、宮崎市は、生活・都市サービス集積を背景とする拠点性が特徴の典型的な「中心都市型」である。医療や介護などの「保健衛生・社会事業」を中心に、第3次産業が、生産額の8割、付加価値額(GRP)の9割を占め、域外から人が集まる拠点性の基盤となっている。昼間の滞在人口は平日休日とも国勢調査人口を大きく上回り、人口動態も転入数と転出数がほぼ同数で推移している。今後の人口減少も緩やかだ(2020→50年で1割減にとどまる)。
また、古代からの歴史があり、温暖で風光明媚(めいび)な自然を備え、プロ野球のキャンプなど多種多様な地域資源が豊富に存在することもあり、拠点性も相まって、民間消費も流入傾向にある(流入規模はGRP比で5%以下にとどまり、さらなる拡大可能性も期待できる)。
一見盤石な宮崎市であるが、その悩みも多くの地方「中心」自治体と共通しており、周辺地域の拠点として生活・都市サービスを広範に提供することが求められており、それ故に個性を打ち出しにくく、投資が流入していないことだ(投資が流入しない地域の価値は上がらず、それがまた資金の流出を誘発する)。しかも宮崎市は、域外本社への利益移転も生じており、生み出した利益(GRP)が地域の再生産に必ずしも結び付いていない。
こうした現状を踏まえると、宮崎市が持続可能な地域経済を構築するためには、投資の呼び込みを起点とした経済循環の再構築が必要だ。
ファンドを呼び水に
ベンチャー企業が自社の特徴と成長ポテンシャルを明らかにして投資を募るように、地方圏の自治体が投資を呼び込むためには、個性を打ち出し、目指す方向性を明確にする必要がある。地域資源が限定的な自治体であればおのずと明確であるが、宮崎市はそうではない。また、地方「中心」自治体であり、広域を支える拠点性(生活・都市サービスのフルライン提供)が求められる一方、都市圏のように、拠点性だけで投資が集まるほどの民業の厚みや期待収益率の高さはない。
それではどうやって投資を呼び込むか。いくつか方策は考えられるが、拠点性の旗を掲げつつ、その下で魅力的なエリアを複数かつ連鎖的に生み出していくことだ(それがまた拠点性を高めることになる)。そのためには、住民の生活動態を踏まえたエリアを設定して将来のありたい姿をエリア全体で共有すること、その実現のためのファンドを組成すること(リスクマネーを供給する仕組みを構築すること)が必要である。 将来のありたい姿は、行政ではなく住民目線で描く必要がある。それも、台本のト書きのように、日常のシーンを見せることで住民の行動変容を促し、投資者の共感を得ることで良質の資金を呼び込むことができる。
こうした取り組みは各地で行われているが、最近では富山市中心部の学校跡地で行われている「ハチマルシェ」が好事例だ。地域金融機関と一般財団法人民間都市開発推進機構(MINTO機構)の連携による「まちづくりファンド」も、全国で組成され、エリアの価値向上を図りつつ地域課題解決にも貢献している。
また、ありたい姿を提示することで、実現のための課題をビジネスで解決しようとする社会的起業も期待でき、宮崎県における企業の新陳代謝促進にも寄与しよう(九州各県で最も低い)。
住民中心の物語(ナラティブ)を紡いで広く発信し、共感資金を呼び込めるよう行政が一定のリスクをシェアする仕組みを構築すること、これが宮崎市のまちの羅針盤である。
(株式会社日本経済研究所上席研究主幹・鵜殿裕)
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