1921年に創業し、札幌で初めてスイートポテトやシュークリームなどの洋菓子を発売した老舗、千秋庵製菓。同社の看板商品で、50年にわたり親しまれてきた「ノースマン」をアップデートした「生ノースマン」を2022年に発売、好調な売れ行きを続けている。その裏には味へのこだわりだけでなく、経営再建を懸けた綿密な戦略があった。
50年の時を経て看板商品をアップデート
白い恋人、マルセイバターサンド、チーズオムレット……。食の宝庫・北海道のおいしいものが集結する札幌には、多種多様なスイーツがある。そのような中、道内外から人気を集めているのが、千秋庵製菓の「生ノースマン」だ。しっかりとした食感のパイ生地の中に、甘みを抑え渋みの少ないあんこと、ふわふわに仕立てた生クリームが入った和洋折衷なスイーツだ。 「小麦粉、バター、生クリーム、小豆など商品の原材料全てを北海道産にこだわってつくりました。パイとあんこと生クリームが調和した食感と風味が持ち味です」と、同社社長の中西克彦さんは自信をのぞかせる。
同社は創業以来、スイートポテトやシュークリーム、ミルクせんべい、バターあめなど多くの菓子を世に出してきた。中でも1974年に発売した「ノースマン」は、創業者が横浜の中華街で売られていた「パイまんじゅう」をヒントに小豆あんをパイ生地で包んだ菓子で、同社の看板商品となっている。 「当初、小麦粉にあらかじめバターを混ぜて焼いたら脂っぽくなってしまい、試行錯誤の末に小麦粉とバターを500層以上折り重ねたパイ生地になったそうです。また、あんこも最初は粒あんで試したようですが、皮の渋みが残るため、皮むき小豆を使用したこしあんを採用することで、しっとりとした食感と優しい甘みの商品になりました」
それを生菓子としてアップデートしたのが「生ノースマン」だ。
商品とパッケージデザインを大胆リニューアル
同商品は、実は会社の生き残りを懸けて開発されたものだ。同社が創業100周年を迎えた頃、業績が低迷し、厳しい経営状態にあった。それを立て直すため、和洋菓子の製造販売を行う北海道コンフェクトグループと業務提携し、中西さんが創業家から経営をバトンタッチした。 「どう業績を回復させようかと考えていたとき、当社の商品は焼き菓子がメインで生菓子が少ないことに気付いて、そこを強化することにしました。ただ、0から1を生み出すより既存商品をリニューアルする方が確実なので、売れ筋の『ノースマン』に着目したんです」
パイの中身を工夫しやすいこともあり、あんこと生クリームを組み合わせようと考えた。しかし、生クリームの水分でパイ生地が緩むという問題が起こり、50年続いた「ノースマン」のパイ生地のレシピを変えるか否かの議論になる。当初は「変えるべきではない」という意見もあったが、最終的にはおいしさを優先して生ノースマンの生地の配合を変えることにした。 「生クリームの水分がパイ生地に移行しても、生地の食感を損なわないように、『ノースマン』よりも強力粉の配合を増やすなどの調整を行い、生地にコシを出しました。これには時間を要しましたが、試行錯誤の末、生クリームを入れてもノースマンらしい食感のパイ生地に仕上げることができました」
レシピの開発と並行して進めたのがパッケージデザインのリニューアルだ。北海道旗のデザインを担当した栗谷川健一氏による商品ロゴは踏襲する一方、北海道章の七光星や東西南北の方位を抽象化した十字のマークを配し、北国らしい配色でまとめた。中西さん曰く「これからの100年を見据えたデザイン」にすることで起死回生への決意を込めたという。
復活型商品開発廃番商品をリブランディング
2022年10月の発売に向けて、同社は大丸札幌店で大々的に披露する計画を立てた。もともと同店に店舗があったが、業績悪化に伴い一度はやむなく撤退した。しかし、社運を懸けて新商品を発売したいと交渉を重ね、来店者の目に付く地下1階エスカレーター前の売り場を獲得。新店舗のデザインにもこだわった。都会と自然が融合する札幌のイメージを反映させ、同社の歴史と同じ100年を超える樹齢の天然木と開拓時代の建物に使用された札幌の銘石を組み合わせた。ショップ名も「札幌千秋庵」ではなく「ノースマン」とし、取扱商品も「ノースマン」と「生ノースマン」に限定した。 「発売日の光景は、今でもはっきりと覚えています。初日の朝の段階ではテレビ露出がなかったにもかかわらず、開店とともに40人以上のお客さまが売り場に来てくれて、『待っていたよ』という声が聞こえたような気持ちになりました」
その様子が地元のメディアに取り上げられると、2日目には70人、3日目には200人以上の行列ができ、4日目以降は整理券を配布するほどの大盛況となった。その人気は継続しており、地元客のみならず、観光客や修学旅行生も“ここでしか買えない土産”として購入していくという。発売から1年で黒字化を果たし、現在までの累計販売数は約350万個にも上る。 「予想を超える反響に驚いていますが、北海道にはおいしいお菓子がたくさんあるので油断はできません。今後も老舗の強みを生かして既存商品をアップデートしたり、昔扱っていた商品を現代風に再現したりするなど、復活型商品開発に力を入れていきたい」と中西さんは次なる展望を語った。
会社データ
社 名 : 千秋庵製菓株式会社(せんしゅうあんせいか)
所在地 : 北海道札幌市中央区南3条西3丁目13-2
電 話 : 011-251-6131
代表者 : 中西克彦 代表取締役社長
設 立 : 1921年
従業員 : 200人
【札幌商工会議所】
※月刊石垣2024年12月号に掲載された記事です。