古い慣習が残る飲食業界。マルブンは、経験と勘に頼っていた来店客数予測や仕入れ量予測にBI(ビジネスインテリジェンス)ツールなどを活用し、新入社員でも短期間でベテラン並みの戦力に育てることに成功するなど、多くの経営課題をDXの力によって解決した。その成果が評価され、「全国クラウド実践大賞2023 審査員特別賞」を受賞した。
現場にインセンティブを示してスムーズに導入
ピザ専門店や海鮮食堂などを愛媛県内に5店舗展開するマルブンは2020年、本店を建て替えるタイミングでEBILAB(エビラボ)の店舗経営ツール「TOUCH POINT BI(タッチポイントビーアイ)」を導入。ツールに連携させる形でクラウド型POS(販売時点情報管理)レジ「スマレジ」、タブレットでお客さんがセルフオーダーできる「IGREK(イグレック)」も追加して3点セットで稼働させた。EBILABは、伊勢の老舗食堂ゑびやのシステム開発部門が独立して生まれた会社。同社が開発した「TOUCH POINT BI」は、経営不振に陥っていたゑびやの商売を立て直したソリューションで、中小の飲食店と親和性が高かった。
マルブン社長の眞鍋一成さんは導入の経緯をこう振り返る。 「外食産業は古くからある業界ですから、経営者である私から見ても『こんなことしなくてもいいんじゃないか』という古い慣習がたくさんありました。変えなければいけないと強く思い始めたときに出合ったのが『TOUCH POINT BI』でした。そこへコロナ禍でのリモート対応などが重なり、世の中のITツール活用のリテラシーがいきなり上がった。私たちのリテラシーも決して高かったわけではないけれど、この機をチャンスと捉えて導入を決めました」
このときの眞鍋さんの決断で見習うべき点は、自身の「変えたい」という思いよりも「現場の働きやすさ」を優先させたことだ。 「人手不足が顕著でしたから、現場が楽に回せるように、人がやるべき仕事と人がやらなくてもいい仕事を切り分けて、人がやらなくてもいい仕事―例えば空いた食器類を厨房へ下げる仕事は配膳ロボットに任せました。そして、私たちがやらなければいけない仕事である『お客さまに喜んでいただくこと』にエネルギーを集中させようと考えました。従業員についてきてもらうために、仕事が楽になることや、休みが増えるといったインセンティブを導入するとはっきりと伝えました」
ITツールの導入は点ではなく面で計画
ただし、単純に複数のITツールを導入しただけでは、従業員の負担はむしろ増えてしまう。 「よくある失敗例は、いろいろな仕組みを入れても連携させないで『点』のまま別々に稼働し『面』になっていないというもの。そこで私は最初に面をつくろうと思い、人手不足、人件費や食材費の高騰、IT化の遅れ、若い世代の価値観の変化、古いマネジメント体質といった経営課題に対してITをぶつけていこうと考えました」 オーダーの部分に「IGREK」、売り上げデータの集約に「スマレジ」、勘や経験に頼っていた店舗マネジメントには「TOUCH POINT BI」をぶつけて3点セットで経営課題に挑んだ。
その結果、ピークに合わせたシフトの作成、無駄のない仕込み計画、経験の浅い若手でもできる適正な仕入れといったさまざまな課題が改善され、アンケート機能でお客さんの声もダイレクトに見える化された。
この3点セットは、「マルブンモデル」と呼ばれるほどの成功モデルとなったが、最も重要なことは、眞鍋さんのDXと向き合う姿勢だ。 「最初から完璧を目指さずにスタートしました。60%ぐらいの完成品を何度も投入して試し、修正してオペレーションに落とし込んでいった。デザインシンキング(従業員の視点に立って課題の本質を発見する思考法)による導入といえるかもしれません」
眞鍋さんは、DX導入をためらう同年代の経営者に対し、こう訴える。 「人口減少が深刻化するこれからの時代は、市場の縮小に対応した経営をしなければなりません。その準備は、今すぐ始めなければ間に合わない。DXに向かって1歩でも踏み出してください」。この眞鍋さんの言葉を真剣に受け止めるべきだ。
わが社のDX推進成功のポイント
課題
・人手不足、人件費や食材費の高騰、IT化の遅れ、若い世代の価値観の変化、古いマネジメント体質という経営課題の解決を模索していた
DX推進のための工夫
・EBILABの店舗経営ツール「TOUCH POINT BI」、スマレジのクラウド型POSレジ「スマレジ」、イグレックのPOSレジ連携セルフオーダーシステム「IGREK」を3点セットで導入
・従業員にインセンティブを提示
成果
・適正な仕入れやロスの削減に加え、店舗のペーパーレス化、レジ締め作業時間の短縮、営業状況のリアルタイム把握、仕込み時間の1日平均1時間短縮、店舗人員を1人減らした営業を実現。さらにはスタッフの1日の歩数5000歩減少という効果もあった
会社データ
社 名 : 株式会社マルブン
所在地 : 愛媛県西条市小松町新屋敷甲407-1
電 話 : 0898-76-3481
HP : https://marubun8.com
代表者 : 眞鍋一成 代表取締役
従業員 : 19人(スタッフ86人)
【松山商工会議所】
※月刊石垣2025年1月号に掲載された記事です。
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