1月から新しいNHKの大河ドラマ『べらぼう』が始まった。この作品は、新吉原生まれの版元(現在の出版社)である「蔦重」こと蔦屋重三郎の偉功を描いている。江戸文化研究者の田中優子・法政大学名誉教授は、「蔦重」を江戸のサブカルチャーをつくり上げた「プロデューサー」だと評する。上方文化に抗し、歌麿や写楽といった文化人を庶民の間に立て続けに広めた「蔦重」は江戸文化形成の立役者だ▼
当時は目利き、そして卓越した行動力を持つ者のみがプロデューサーになれた時代だった。今はどうか。SNSの普及によりネット上で「発信力のある人」を生み出せる時代、つまり誰もがプロデューサーになれる時代になった。個人では小さな力でも、フォローや拡散を通じて同じ考えを持つ仲間が集まることで社会の空気を一変させることができる▼
しかしSNSには問題も多い。運営側のアルゴリズムによってその人が知りたい内容が偏って画面に表示され、特定の考えを持つ一部の人の声が過剰に増幅される傾向が指摘されている。私たちはSNSに公共性を期待するが、使い方次第で非常に危うい状況になる▼
障壁を越えて多様な意見が自由に議論される公共性の高い場こそが社会を豊かにする。極端な意見を一方的に発信するのではなく、ネット上でさまざまな意見を自由に交わすことで多様性が生まれ、新たな発想につながる。「蔦重」が伝統文化に気おされず自由な発想でサブカル文化をプロデュースしたように、ネット上のプロデューサーである私たちは誰からも支配を受けず自由に議論し、新たな発想を生み出す機会を創出する努力をすべきだ。令和の時代、「蔦重」だったら何を発信するのだろうか
(NIRA総合研究開発機構理事・神田玲子)
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