西部開発農産は米穀、畜産、受託(農作業受託、代理店事業)、加工・飲食を4大事業としている。このうち受託事業では、農作業受託や農業コンサルティングなどを手掛け、大規模農営に対応する「スマート農業技術」によって生産性と収益を高めている。2024年1月、「いわてデジタルトランスフォーメーション大賞2023」大賞を受賞した。
人員を増やさずに管理農地を増やす
1986年、農業生産法人の西部開発農産は日本有数の穀物地帯の一つである岩手県北上市を中心に、周辺市町で農作業受託事業をスタートさせた。当時の農営規模は、小麦50 ha、大豆3haだった。その後、次第に規模を拡大。離農者が手放す農地をできるだけ引き受け、現在は正社員数約40人で約1000 ha、1人当たり25 ha程度(東京ドーム5個分)の農地を管理する大規模農営に発展した。
管理を託される農地は、中山間地域(中間農業地域と山間農業地域)が多く、北海道のような機械化がしやすい平地農業地域は少ないが、スマート農業技術を積極的に導入することにより生産効率を高め、従業員が安全に作業できる環境をつくり出している。スマート農業を主導する受託部部長の清水一孝さんは、今後も離農が続き、「管理する農地が増え続けていく一方で、農作業に従事する人材は不足する」と予測している。 「そのため、人を増やすことよりも機械化を進めて、1人当たりの管理面積を多くし、所得を増やした方がいいと考えています」
現在1人当たりの管理面積25 haを40 haに増やせば、現在の40人でも1600 haの管理ができる。
そこで、清水さんは機械が農地を耕し、管理・収穫するスマート農業を進めている。
将来像としては、①自動操舵トラクターの活用で播種(はしゅ)関連作業などの作業を効率化②ドローン、ISOBUS(イソバス)インプルメントを活用した農薬散布、肥料散布、作物の生育状況モニタリングによる可変施肥(作物の生育や土壌などのばらつきに合わせて、圃場(ほじょう)の状況に応じた施肥を行う技術)の実施だ。ISOBUSは、トラクターとインプルメントを情報通信でつなぐ国際通信規格。インプルメントとは、トラクターがけん引する草刈りや施肥などに使う専用機器のことだ。将来的には、農作業ロボットを導入して、除草や収穫といった単純作業を代替させる構想を描く。
農機の稼働状況を把握して一元管理
現在、清水さんが進めているのは、「多数の作業者と機械を管理するプラットフォームの構築」。トラクター、コンバインなど機械(=作業者)の位置情報をGNSS(全球測位衛星システム)と、より精度の高いRTK(リアルタイムキネマティック測位)、農地の位置を示すGIS(地理情報システム)という作業者と農地の位置情報を活用して、作業記録の自動化など情報の正確性と一元化を行うインターフェースだ。
これらから得た空間・位置情報を管理するのが、日立ソリューションズの空間情報ソリューション「GeoMation(ジオメーション)」を活用した営農管理システムだ。現在では「GeoMation」を圃場のほかにハウス栽培、畜産の現場でも活用できないかと、現場改善を目指している。 さらに、農業者が良い農業をするべき管理基準とその取り組み「JGAP」に準じた生産管理を行い、生産計画と生産実績との差異分析により生産性を高め、「農業の分野ではまだ珍しい生産管理工程(QC工程管理表)の作成、作業者のスキルアップ、技術の伝承にも生かしていきたい」と、清水さんは構想を語る。
ただし、「スマート農業や農作業ロボットを導入すれば、農作業は誰でもできるようになると考えるのは間違い」とも言う。 「農作業には地面から上と下の部分があって、下の土づくりは自然環境に支配されるので、DXは進むでしょうが、コントロールは難しい。それに土をなくすと植物工場になってしまい、私たちの方向性とは違ってしまいます。スマート 農業技術は、農地・風土・農作業を知っている人が活用するからこそ大きな効果を発揮するのです」
離農は、ますます進む。農業の担い手も減少する。しかし同社はスマート農業、DX推進によって、食の安定供給に貢献し続ける。
わが社のDX推進成功のポイント
課題
・離農者が増え管理を依頼される農地は増えているが、作業員の採用が難しい
・働き方改革を進めるため、作業員の作業時間を減らし、休日を増やしたい
DX推進のための工夫
・DX化、スマート農業化を推進し、データ駆動型農業や自動運転技術などを導入。肥料や水の使用量を最適化、作業の効率化と省力化、作業中のミス最小化などを実現し、1人当たりの管理面積が増えたとしても負担が軽減される仕組みを構築
成果
・従業員の年間の作業時間と休日日数の推移を見ると、2017年の作業時間は合計19万4318時間、休日日数は76日だった。23年には作業時間合計16万871時間、休日105日となり、着実に働き方改革が進んだ。この成果が評価され、24年12月に「いわて働き方改革AWARD2024」で優秀賞を受賞
会社データ
社 名 : 株式会社西部開発農産(せいぶかいはつのうさん)
所在地 : 岩手県北上市和賀町後藤1地割333番地
電 話 : 0197-73-6471
HP : https://www.seibu-kaihatsu.com
代表者 : 照井勝也 代表取締役社長
従業員 : 102人(2024年12月現在、アルバイトなどを除く)
【北上商工会議所】
※月刊石垣2025年3月号に掲載された記事です。