いわゆる3K労働とは、「きつい・汚い・危険」の頭⽂字を取った⾔葉で、建設業界周辺で言われてきた。しかし近年、社内環境の整備やDX導⼊といったイノベーションに挑み、「給与・休暇・希望」を備えた“3K企業”に変貌し、人材確保や業績アップにつなげている企業もある。このような企業の考え方や手法は、他業界にも通じる部分があるのではないか。
建設業界の人手不足を打開するために古いイメージを打破して健康経営を実践
福島県の南部にある白河市で、福島県南土建工業は土木・建築などの建設業を主軸に事業を展開している。同社は、業界で常態化している人手不足という問題を解決するために、建設業の3Kのイメージを拭い去り、働きやすい労働環境づくりによる生産性向上と、健康経営の実践に向けた取り組みを、従業員と一体となって進めている。
従業員持株制度を導入し家族的な経営手法を続ける
福島県南土建工業、通称・県南土建は、1903(明治36)年の創業以来、120年以上にわたり地域の土木・建築工事を請け負い、まちづくりに携わってきた。1年前に社長に就任した小野喜治さんで五代目になる。 「地元の行政や民間企業と長くお付き合いしていく中でお互いに信頼関係を築いてきたことが、これまで長く続けてこられた理由だと思います。また、三代目社長の時に従業員持株制度を始め、入社5、6年以上の社員全員が株を取得して会社経営にも携わってもらうという、家族的な経営手法を今に至るまで取っています」
建設業界は、長らく人材不足という大きな課題を抱えてきた。特に地方の建設会社にとって、若手の採用と育成は事業継続に直結する深刻な問題となっている。それは県南土建も同様だった。 「バブル崩壊後、建設業界は不況の波に直撃し、2005年には当社も希望退職を募り、多いときには100人以上いた社員数を大幅に減らしました。若手の採用もできず、気付けば高齢化が進んだベテラン社員に依存する体制が固定化していました。経験豊富な人材が残る一方で、新しい取り組みや効率化に挑む余力がなく、将来的には事業継続が難しくなることが予想されました」
11年の東日本大震災での復興需要により工事量は増えたものの、当時の福島県の労務単価は全国平均を下回っており、人材の確保が難航した。現場では人手不足が続き、高齢者に頼らざるを得ない状況が続いていた。 「若い人が建設業を敬遠する要因として、いわゆる3Kのイメージが根強く残っていることに加え、以前はこの地域の実業高校に建設系の学科がなかったため、そもそも就職先の選択肢に建設業が入りにくいという構造的な問題もありました。当社の社員の半数近くは建設系以外の学科を卒業した人材で、入社後に働きながら資格を取得してもらっていますが、それがうまくPRできていないため、就職先の候補に入らないという状況になっていました」
年間カレンダーを協力会社と共有し工事過程のロスを削減
業界全体では今、「働き方改革」や「健康経営」に積極的に取り組んでいる。休日制度も以前の「4週5休」から現在では「4週8休」が標準となり、経済産業省が認定する「健康経営優良法人」の企業数も、23年度の中小規模法人部門では建設業が全業種の中で最も多い。建設業界は3Kのイメージからの脱却のために努力しているが、その実態がなかなか伝わっていないのが現状だ。 「建設業は天候や工期の影響を受けるため、繁忙期と閑散期の差が避けられません。当社ではそれに対応するため、『変形労働時間制』を導入し、繁忙期は工事をしっかり進め、閑散期は休日を増やすことで、年間を通じて無理のない働き方を行っています。また、勤務時間は1日7・5時間とし、法律上は年間87日以上の休日が定められていますが、当社ではそれを大きく上回る年間108日の休日を確保して、週休二日制相当の環境を整えています。これにより、繁忙期は力を合わせて工事を進め、閑散期はしっかり休んでリフレッシュできる、メリハリのある働き方を可能にしています」
また、変形労働時間制の管理に必要な4週8休の年間カレンダーも30年前から作成している。現場事務所に貼り出しておいたところ、協力業者の目に留まり、現在では年間カレンダーを作成して協力業者に配布。それに合わせて年間の休日を組む業者が複数社出てきている。 「休日が前もって分かるので、社員が休暇の計画を立てやすくなり、ワークライフバランスの改善にもつながります。また、協力業者さんに前もって当社の年間休日スケジュールを伝えることで、互いの休日を合わせることができ、工期中の工事過程のロスを減らして工事がはかどるなど、非常に役立っています」
こうした労働環境改善などの努力がなかなか人集めにつながらない中、銀行に勤めていた小野さんが5年前に入社。まずは古いホームページを刷新し、就職希望者に会社の魅力を伝えるとともに、業界のイメージアップにも着手した。
