今年2月、5年ぶりに新たな日本遺産が誕生した。「北海道の『心臓』と呼ばれたまち・小樽~「民の力」で創られ蘇った北の商都」である▼
タイトルの「北海道の心臓」は、小樽で青春時代を過ごした小林多喜二が「北海道の『心臓』みたいな都会である」と表現したことにちなむ▼
「民の力」とは、明治以降、物産と共に各地から押し寄せた多種多様な人々の力によって小樽独特の建物とまちなみが創られたことを表す。さらに、1960年代以降、市の運河埋め立て計画が持ち上がり、その計画を巡って反対運動が巻き起こった。結局南運河の半分を残し、その後は徹底した景観整備を経て現在の年間800万人が訪れる小樽の美しいまちをつくってきたことに由来する▼
この運河埋め立て論争では忘れられないエピソードがある。当時、私が所属していた財団法人余暇開発センター理事長で元通産省事務次官だった佐橋滋さんが、運河論争の渦中、小樽での朝日新聞社主催の講演会で残した言葉だ▼
「歴史的投資(Historical investment)」の概念である。運河は数多くの先人たちが残した歴史的投資であり、埋め立てはしてはならないというものであった。「投資とは本来、現在の消費を抑え、後日に喜びや恩恵を与えてくれる。それは長い歳月や歴史だけがつくり出せる投資で、後々まで人々に精神的喜びや感動を与えてくれるのだ」。当時の通産省トップの発言であり誠に驚いた。この時、運河を埋め立てていたら今の小樽の繁栄はなかったであろう▼
「歴史的投資」とは、地域の歴史資源を生かして次の時代の新たな産業や雇用を生み出す行為のことである。まさに小樽の「民の力」が試される言葉でもある
(観光未来プランナー・丁野朗)