航海に地図と羅針盤が必要なように、地域づくりにも現状を示す客観的なデータが欠かせない。今回は、東京都の南多摩地域に位置する商都で、人口43万人を擁する町田市について、まちの羅針盤(地域づくりの方向性)を考えたい。
人と文化の交差点
古くは鎌倉街道の宿場町が置かれ、江戸後期からは八王子(集荷地)と横浜港を結ぶ「絹の道」の中間地として発展した町田市は、「二の市」「二・六の市」から今に続く商業都市として知られる。現在でも鉄道4路線9駅、国道16号線・246号線などが通り、多くの人々やさまざまな文化が行き交う交差点となっている。高い交通利便性を背景に、1996年以降は転入者が転出者を上回る社会増が続き、横浜市や東京都23区内に通勤する住民も多いベッドタウンとしての性格も強まっている。
こうした地域の特性は地域経済にも表れている。域内総生産(2022年)1兆4400億円のうち、小売業・卸売業が約2400億円(16.6%)を占める。「分配」段階では3千億円を超える雇用者所得の流入がある。「支出」段階では2千億円を超える貿易赤字(移輸入超過)があり、所得流出は残念ではあるが、域内外の交流の活発さを示している。
これら地域経済循環の特徴からは、町田市が、単に「稼ぐ」だけではなく「人が集い、憩い、文化が混ざる」力で成り立ってきた商都、すなわちサードプレイス的な要素を備えていることが分かる。
サードプレイスとは、駅前の商業空間やカフェ、文化施設、そして公園など(第三の場所)を指し、家庭(第一の場所)と職場・学校(第二の場所)の往復にとどまらない時間を生み出し、地域の魅力を高める可能性を秘めている。町田市には、駅周辺のにぎわいに加え、19年に「まちびらき」した南町田グランベリーパークのように、商業施設と鶴間公園を一体で設計した拠点(場所)がある。スヌーピーミュージアム(東京)も同地に移転し、日常の延長で〝目的地〟となる場所が生まれた。
居場所を挑戦の舞台に
さらに、町田薬師池公園隣接地で20年に開園した四季彩の杜西園は、地場農産物の直売や体験を組み合わせ、暮らしの中に季節と学びを取り戻すサードプレイスになっている。
ただ、サードプレイスという居場所を増やすだけでは、関係人口を奪い合う都市間競争の中で、選ばれ続ける理由になりにくい。ベッドタウン的な性格がある町田市では、ウェルビーイング(心身の健康・自己実現など)を高める「関わりしろ」を、日常のサードプレイスの中に増やす発想が求められる。
例えば、駅前の低未利用地や公共空間を、地域事業者などが講師やメンターとなって、住民が学び直しや創作、起業などの自己実現に挑戦できる舞台へと転換することだ。各地でウェルビーイング・ラボやリビング・ラボといった取り組みが行われる中、町田市にとっては、柏駅前にある柏二番街商店会のまちづくりが参考になる。
アーケードが整備された空間を活用し、高校生が演劇を上演する「かしワンダーパレード」、シャッターや空きスペースをクリエイターの展示空間として活用する「アートラインかしわ」などは、憩いの場所を多様な人々が挑戦する舞台へと変えている好例である。日常の通りを舞台とすることで、住民が自己実現に挑戦する心理的ハードルを下げ、結果、ウェルビーイングがにぎわいを持続的に生み出す基盤となり、地域経済循環を強く・太くすることにも貢献している。
持続可能な地域経済は、生産→分配→支出と流れる地域経済循環を強く・太くすることで実現できる。しかしながら、持続可能な豊かさ(Sustainable Abundance)は、その地域に蓄積された歴史や文化などと相まって、初めて達成できよう。 交差点の強みを、ウェルビーイングへの挑戦という触媒を通じて新たなサードプレイスの創造につなげること、これが町田市に求められる「まちの羅針盤」である。
(一般財団法人ローカルファースト財団理事・鵜殿裕)
