コラム「まちの羅針盤」では地域ごとの現状を分析しているが、本連載では、全国共通の論点を地域の視点から読み解きたい。
第1回は、6月に公表され衝撃を広げた「出生数67万人」である。人口増は地域の活性化を約束するものではないが、子どもが生まれるかどうかは、その地域が持続できるかどうかの最終的な答え合わせでもある。どうすれば子どもを産み育てたくなる地域になれるか、データから考えたい。
想定より15年早い
2025年に国内で生まれた日本人の子ども(出生数)は67万1236人。前年より1万4937人(2.2%)少なく、10年連続で過去最少を更新した。合計特殊出生率も1.14で過去最低、死亡数が出生数を約92万人上回る「自然減」は19年連続である。この結果、国立社会保障・人口問題研究所が40年(中位推計)と見込んでいた水準に、私たちは約15年も早く到達した。長年積み上がった人口構造の慣性が、一気に表面化した局面といえる。
一方、婚姻数は約48万9千組と2年連続で微増し、平均初婚年齢もわずかに低下した。結婚はやや持ち直しているが、出生はなお減少している。出生数は「出産可能年齢の女性人口×出生率」という掛け算で決まる。婚姻の小さな回復では、若い世代の人口の細りを埋め切れない。少子化対策の効果を測るためにも、この構造を理解する必要がある。
都道府県別の出生率は、はっきりと西高東低を描く。最も高い沖縄が1.52、宮崎1.46、福井1.45と続く一方、東京は3年連続で1を割り込み0.96となった。この地図を「地方は健闘、東京が問題」と読むのは、しかし早計である。
「西高東低」をどう読むか
合計特殊出生率という指標は人口移動でゆがむ。地方からは20代を中心に若い女性、いわば「母親候補人口」が絶えず都市へ流出する。残った人口で計算する地方の出生率は高く出やすく、流入が続く東京の出生率は低く出やすい。実際、この四半世紀で全国の出生数は1995年の約7割の水準まで落ちたが、東京はほぼ横ばいを保ってきた。地方で起きているのは出生率の変動ではなく、産み育てる世代そのものの流出なのである。
地域の "稼ぐ力” "暮らしの質” “若者にとっての魅力”は、突き詰めれば「若い世代、とりわけ若年女性が、その地で仕事を得て暮らし続けられるか(続けたいか)」という一点に収れんする。出生はこの問いへの地域の回答にほかならない。
地域にできることは何か
鍵を握るのは「仕事の量」ではなく「仕事の中身」だ。地方の有効求人倍率は都市部に引けを取らない。足りないのは求人の数ではなく、若い世代(特に女性)が就きたい事務職や専門職である。製造・建設・介護に偏った求人では、都市へ向かう流れは止められない。地元企業の本社機能の充実やサテライトオフィスの誘致で「このまちで就きたい仕事」を増やし、地域経済循環を強く・太くして「稼ぐ力」を定住の基盤に変える。併せて保育と住まいの不安を取り除き、男性の育児休業を当たり前にする。1社では難しくても、商工会議所などが束ねて地域を挙げれば動く。
兆しがないわけではない。2025年に出生数が前年を上回ったのは東京・富山・石川・香川の4都県、出生率が上向いた県は13に上った。国の加速化プランは重要だが、全国一律の給付だけでは、地域ごとに異なる「ここを離れた理由」にまでは届かない。
離れた若い世代がなぜ戻らないのかを、転出者への聞き取りや対象を絞った意識調査で地域自身がつかみ、雇用と暮らしの形に翻訳する。数字を追って出生率の高低を競うのではなく、若い世代が「ここで産み育てたい」と思える仕事と暮らしを地域につくること。これが、出生数67万人時代に問われる視点である。
(一般財団法人ローカルファースト財団理事・鵜殿裕)
