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テーマ別企業事例 第1期総合戦略の検証を踏まえ 地方創生第2ステージへ

事例2 若手経営者のネットワーク形成拠点で中心市街地の活性化を図る

南紀みらい(和歌山県田辺市)

JR紀伊田辺駅前に今年7月完成予定の「tanabe en+」。敷地面積約370㎡、建築面積約254㎡の2階建てだ。大きなひさしの下では地元産品などを販売するマルシェ(市場)が開かれる。ここに集まった人が商店街を回遊することを期待している

和歌山県田辺市は、中心市街地の人口減少、住民の高齢化、空き家・空き店舗の増加、商店街店舗の減少といった課題を解決するため、「田辺市中心市街地活性化基本計画」を策定、2009年3月、国に認定された。この年、活性化実現の期待を担って発足したのが第三セクターの「南紀みらい」だ。

昭和に栄えた商店街は郊外の大型店進出で衰退

南紀みらいで市街地活性化を主導する専務取締役の尾崎弘和さんは、田辺市のアウトラインをこう説明する。

「田辺は、古くから熊野詣での人たちが熊野古道へ向かうための山中を通る中辺路と、海沿いを那智に向かう大辺路の分岐点としてにぎわった宿場町でした」

JR紀伊田辺駅から徒歩5分ほどの場所にある鬪雞神社(とうけいじんじゃ・2016年10月世界遺産登録)は、熊野三山(熊野本宮大社、熊野那智大社、熊野速玉大社)の別宮的存在とされており、この神社で遙拝を済ませる人も見受けられた。

「現在の市の中心市街地は、江戸時代に栄えた城下町が基礎になっています」

今も地名が残る袋(現・福路)町に「魚の座」、片町に「塩の座」、南新町に「破物(陶器)の座」などがつくられ、こうした町割りから商店街が形成されていった。

昭和の時代に入ると、食品スーパーが登場し、1965(昭和40) 年には駅の西側の北新町商店街に、初めての百貨店「切荘」が誕生したことで(現在は撤退)、市の中心部は最盛期を迎える。

尾崎さんは、「周辺商店街も含めて多くの買い物客でにぎわっていて、私の子ども時代、買い物といえば田辺に来たものでした」と往時を振り返る。

その後の駅前広場や道路の整備により、商業の基軸は駅を中心とする東側地区へと移る。さらに郊外に大型店が出店したことで、中心市街地の商店街は徐々に求心力を失った。

そうした中、“平成の大合併”が行われ、市は2005年5月、周辺の5市町村との合併により、人口8万5000人(05年4月末現在)、和歌山市に次ぐ人口規模の都市となった。

だが、産業の衰退を止めることは難しく、「昔からある大きな産業は梅干し(紀州南高梅というブランド)、ボタン(明治期に始まった貝ボタンの製造)、林業・製材業、水産加工でしたが、梅干しを除き、縮小傾向にあります」。

その傾向は和歌山県が公表している「県民経済計算」にも現れている。06年度~16年度の田辺市内総生産は2300億円前後で推移、県内総生産の6%程度にとどまっている(ちなみに和歌山市が約50%を占める)。

今夏、活性化事業ともリンクする施設が開業

南紀みらいは、中心市街地活性化の担い手として設立された。母体は広域圏の活性化を目的に1986年に設立された「紀南ふるさと開発センター」と、2008年に市街地の活性化を目的として設立された「まちづくり田辺」だ。双方の事業を継承し、毎月第3日曜日に鬪雞神社で開催する朝市「弁慶市」(田辺は武蔵坊弁慶生誕の地と伝えられる)、「扇が浜イルカふれあい事業」(18年で終了)、若手グループの「あがら・たなべぇ調査隊」(※あがらは和歌山弁で私たち)によるマップづくりやバルの運営、各商店が店頭で100円商品を販売する「100円商店街」などに取り組んだ。

さらに、10年間空き家だった古民家をゲストハウスとしてリノベーションした「紺屋町家」を、田辺市熊野ツーリズムビューローと連携して一棟貸しするゲストハウス事業、JR紀勢線に臨時のアート列車「紀の国トレイナート号」を走らせるアートフェスティバルの開催、文筆家の甲斐みのりさん、イラストレーターの大神慶子さんの協力を得た市のパンフレットを通じた情報発信などにも努めている。

そして今夏、駅前に南紀みらいが主体となって運営する2階建ての市街地活性化施設「tanabe en+(たなべ えんぷらす)」が開業する。尾崎さんによると、一般的な観光施設ではなく、ここに地域の資産であるヒト・モノ・コトを集積して、新たなネットワークやコミュニティーの形成を促す拠点とすることを目的としているという。また、市が力を入れている鬪雞神社を核とした景観整備と駅前空間の刷新を図る「景観まちづくり刷新事業」、地域を担う人材を育成する「たなべ未来創造塾」、駅前商店街の空き店舗を利用して飲食店や雑貨店などが臨時出店する「エキストラ商店街」、空き家空き店舗活用事業などの活性化事業にリンクしている。

施設の2階は若手経営者の学びの場として活用

施設の1階は、産品プロモーション拠点としてカフェやショップを運営する。南紀みらいの直営だが、チャレンジショップ制度によって、既存事業者の新商品や新規開業希望者のマーケティングやプロモーションの場としても利用できる。

2階は、既存事業者や新規開業者が人的ネットワークや情報共有の場として活用できるコワーキングスペース(共同で仕事をする場所)や各種セミナーや交流会の場として活用する。経営指導員との連携により、スタートアップを支援する体制も整える。

ネットワークやコミュニティー形成の重要性は「たなべ未来創造塾」の成功に多くを学んだと尾崎さん。

「商工会議所青年部(YEG)や青年会議所(JC)もネットワーク形成の場ではあるのですが、たなべ未来創造塾ではビジネスを始めるといったところまで突き詰めていき、実際にいくつかは軌道に乗りつつある。また1期生(16年度)、2期生(17年度)、3期生(18年度)の横のつながりはもちろん、縦のつながりも強い。そこでtanabe en+でも学びの場をつくり、そこに集まった人がつながって、何かが起こる……そんなイメージを持っています」

県は休暇中に旅先などで仕事をする新しい働き方であるワーケーション(workとvacationを組み合わせた造語)の誘致に力を入れていることから、東京五輪・パラリンピックが開催される今夏は特に東京からの多くの来訪者が期待できる。tanabe en+から新たな全国区ビジネスが生まれるかもしれない。

会社データ

社名:南紀みらい株式会社(なんきみらい)

所在地:和歌山県田辺市湊1-20(田辺市観光センター2F)

電話:0739-25-8230

代表者:森川直巳 代表取締役社長

従業員:14人

HP:http://www.nanki-mirai.jp/

※月刊石垣2020年2月号に掲載された記事です。

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