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テーマ別企業事例 第1期総合戦略の検証を踏まえ 地方創生第2ステージへ

事例1 地域の歴史を生かすレトロなまちづくりで観光客ゼロから年間30万人の商店街に

会津若松商工会議所(福島県会津若松市)

経済産業省の支援事業に採択され、明治時代の四つの蔵を改修した「七日町パティオ」。若い起業家たちがテナントとして入居している

福島県会津地方の中心地である会津若松市は、かつては会津藩の城下町として栄え、今も鶴ヶ城や白虎隊自刃の地である飯盛山、東山温泉などに年間約300万人の観光客が訪れる。そして、近年人気があるのが七日町(なぬかまち)通りで、ここは25年前までは空き店舗ばかりのシャッター街だったが、今では4月から11月の観光シーズンを中心に年間約30万人が訪れ、大混雑するほどのにぎわいを見せている。

ゴーストタウンに昔のにぎわいを取り戻す

七日町通りは、会津若松駅から南に1駅のJR七日町駅から800メートルほどまっすぐに続く商店街である。江戸時代には、街道が近くにあることから問屋や旅籠(はたご)、料理屋などが軒を連ね、会津を代表する繁華街だった。ここには現在、木造やレンガづくりの古い建物が並び、レトロな雰囲気のまち並みが観光客に人気だ。

しかし、25年ほど前までこの通りはシャッター街だった。人口減少や郊外への大型店の進出、店主の高齢化による廃業などが重なり、空き店舗ばかりになってしまったのだ。それがここまで復活した背景には、この通りにある老舗問屋の後継ぎによる、周囲への粘り強い働きかけがあった。その人が現在、会津若松商工会議所で会頭を務める、渋川恵男(ともお)さんである。

「会津若松は戊辰戦争でまちが破壊されましたが、明治以降、商人たちが復興させました。七日町通りの古い建物も明治から大正、昭和初めにかけて建てられたもので、昭和の半ばまでは結構にぎわっていました」と、渋川さんはかつての七日町通りの姿を振り返る。渋川さんは東京の大学に進学し、しばらく東京に居を構えていたが、35年程前に家を継ぐために戻ってきた。ところが、かつてはにぎやかだった通りが閑散としていることに衝撃を受けた。

「朽ち果てた古い建物が並び、7割以上が空き店舗でした。日曜日と月曜日の2日間、歩行者調査をしたところ、地元の人以外の来訪者はゼロだったんです。シャッター通りなどという生易しいものではなく、まさにゴーストタウンでした」 そこで渋川さんは、学生時代の友人と3人で、七日町通りにかつてのにぎわいを取り戻すためのまちづくりに取り組んでいった。

最初は懐疑的だった店主も一軒目の成功で次々に改修

「人口が減る中、通りににぎわいを取り戻すには、交流人口を増やしていくしかない。そこで、観光客に来てもらい、会津若松の下町で商人たちがどんな思いでまちを復興させたのかを、建物を通して体感してもらおうと思いました」 そこで渋川さんは1994年、通りに残る歴史的な建物を保存、修景しながら商店街の再生を目指す「七日町通りまちなみ協議会」を設立し、商店街の人たちに建物の改修を提案していった。しかし、高齢の店主たちは「そんなお金はない。観光客など来るわけがない」と、聞く耳を持たなかった。

「そこで私は、会津若松市の景観条例に目をつけました。条例では、地域で景観協定を結べば、景観の修景補助、つまり店舗改修に補助金が出るようになる。それには地域の3分の2の所有者の同意が必要で、私は一軒一軒頼んで回り、景観協定を結ぶことができました」

これにより店舗改修費用の2分の1、限度額70万円の補助金が受けられるようになった。その一号店は、米の販売規制緩和により廃業を考えていた山寺米穀店だった。シャッターとアルミサッシのドアを外して木製の戸に、店内は床を土間に変え、昭和初期に建築された当時のままにした。店名も「やまでら茶屋」に変え、観光客向けに米を使った菓子や雑貨を販売し、飲み物や軽食も出す店にした。改修費用150万円のうち70万円は補助金で、残りの80万円は地元の信用組合から融資を受けた。

「また広報活動も行い、店の写真に“会津若松の下町、七日町に昔の風情を感じさせる店を発見!”という文章を添えて、観光情報誌などに送りました。そのうちの2誌で片隅に記事が載ると、大勢の若者が店に来るようになり、それがワンシーズン続きました。一番驚いたのは周りの商店で、一軒目の成功を見て店主から私に相談が次々来るようになり、改修する店舗が増えていったのです」

年間15億円の経済効果 目標は10年後に100万人

98年には会津若松市、中小企業経営者、会津若松商工会議所が出資して「株式会社まちづくり会津」を設立。商店街全体に関わる大型プロジェクトには、経済産業省による地域文化資源活用のための補助金(補助率3分の2、限度額1億円)も受けるようになった。改修費用の自己負担分はこのまちづくり会社が金融機関から融資を受ける形で調達している。こうして改修した店舗には観光客向けの店を入れ、テナント料などで返済していく仕組みを構築した。入ったテナントが撤退したことはなく、今も県内外から出店希望の申し込みが5件ほどある。このようにして、七日町通りには徐々に活気が戻っていった。

「最初はゼロだった来訪者が、取り組み開始から10年後には年間千人になった。それが翌年には倍の2千人になり、それからは右肩上がりに増えていき、2018年には30万人にまでなりました。七日町通りには宿泊施設がなく、旅行者一人当たりの消費額は5千円前後ですが、30万人が来れば年間15億円の経済効果を上げることになります」と、渋川さんは頬を緩める。渋川さんの目標は、観光客数を年間100万人にまで増やすこと。これは、100万人の観光客が来れば、定住人口が3万人増えたのと同程度の経済効果があるという試算から来ている。「今後は年間約10万人ずつ増やしていき、あと10年ほどで達成したいと思っています」と、渋川さんは言葉に力を込める。

戦後まもなくの東京を模したまちづくりから、地元の歴史や特色を生かしたまちづくりへ。会津若松市ではこうした取り組みにより観光客を呼び込み、交流人口を増加させることで、地方創生に取り組んでいる。

会社データ

会津若松商工会議所

所在地:福島県会津若松市南千石町6-5

電話:0242-27-1212

HP:http://www.aizu-cci.or.jp/

※月刊石垣2020年2月号に掲載された記事です。

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