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テーマ別企業事例 第1期総合戦略の検証を踏まえ 地方創生第2ステージへ

政府は人口減少を食い止め、東京一極集中を是正して地方を活性化する「地方創生」に向け、2014年に第1期「まち・ひと・しごと創生総合戦略」(以下、総合戦略)を策定し、取り組んできた。20年度から第2期「総合戦略」が始まるにあたり、第1期の検証会で座長を務めた松原宏さんに、第1期の評価や第2期のポイント、地方創生の課題について話を聞いた。

総論 松原 宏(まつばら・ひろし)

東京大学 大学院総合文化研究科 教授

松原 宏(まつばら・ひろし) 東京大学 大学院総合文化研究科 教授 1956年神奈川県生まれ。東京大学大学院理学系研究科博士課程修了、西南学院大学経済学部(講師、助教授、教授)を経て、東京大学大学院総合文化研究科助教授、2007年より現職。専門は経済地理学。第1期「まち・ひと・しごと創生総合戦略」の検証会で座長を務め、第2期「総合戦略」策定の有識者会議では「地域経済社会システムとしごと・働き方」がテーマの小委員会で座長を務める

東京圏への転入超過数をゼロにする目標達成は困難

第1期「総合戦略」では、四つの基本目標「地方にしごとをつくり、安心して働けるようにする」「地方への新しいひとの流れをつくる」「若い世代の結婚・出産・子育ての希望をかなえる」「時代に合った地域をつくり、安心なくらしを守るとともに、地域と地域を連携する」を設定していた。

―第1期「総合戦略」は、検証会ではどのような評価でしたか?

松原宏さん(以下、松原) 四つの基本目標のうち「しごとをつくる」と「時代に合った地域をつくる」は、達成された項目は多くないものの、達成に向けて進捗(しんちょく)している項目が多いということで、甘めですが、まあ良いという評価です。ところが「ひとの流れをつくる」については、東京圏への転入超過数をゼロにするという目標の達成は到底無理な状況で、2017年の約12万人から18年には13万5600人に増えています。「結婚・出産・子育て」についてもまだまだです。

未来型の新しい概念・技術を地方再生でどう具現化するか

第2期「総合戦略」では、「地域におけるソサエティー5・0の推進」と「地方創生SDGsの実現などの持続可能なまちづくり」という新しい概念を取り入れている。

―第2期「総合戦略」のポイントは何でしょうか?

松原 大きなポイントは、「第2期『総合戦略』の政策体系」(次ページ図1)にあるように、四つの基本目標や主な施策の方向性といった横串に、ソサエティー5・0(サイバー空間と現実空間を融合させた未来社会のコンセプト)やSDGs(持続可能な開発目標)といった未来型の概念が縦串として入ったことです。これらの未来型の概念・技術を地方創生にどう生かしていくかが、第2期のポイントだと思います。

―実際にこれらの新しい技術を地方創生にどのような形で生かしていけばいいのでしょうか?

松原 商工会議所と地域の企業が協働して、地域の実情を踏まえた取り組みを進めていくことも重要になります。例えば、人手不足が深刻な製造業や過疎化が進む山間地域では、IoT(機器をインターネットで制御する仕組み)やAI(人工知能)を活用したスマート工場・スマート農業、市街地では、MaaS(交通手段による移動をIT技術でシームレスにつなぐ仕組み)によるスマートな交通、これらの導入を地域全体で進めていく。それを地方創生の施策の中で重点的に支援していくことが必要だと思います。

「関係人口」づくりを重視した施策が重要になってくる

各地方自治体も、第1期から独自の「地方版総合戦略」を策定しており、昨年末現在で全都道府県および1740市区町村で策定済みとなっている。第2期においても、国の第2期「総合戦略」を受け、同様に策定していくことになっている。

―地方自治体による第2期「地方版総合戦略」の策定において、注意すべき点は何でしょうか?

松原 第1期の策定では自治体によって温度差があり、シンクタンクやコンサルタント会社などに丸投げしていたところもありました。第2期では、自治体自らが責任を持って、地域の多様な主体と連携して策定することがポイントになります。

また、「関係人口」もキーワードになります。移住でも観光でもなく、何度も通ってその地方に関わっていく人を増やすという、関係人口づくりを重視した施策が重要になってきます。ただ、これを地方創生にどう生かしていくかは、いろいろな取り組みを進めていく中で整理する必要があります。

──これまでの地方自治体における地方創生の取り組みの中で、うまく進んでいるものはありますか?

松原 例えば長野県南部の飯田市では、周りの下伊那郡の自治体と連携して、この地域に航空宇宙産業を根付かせようとしています。

また山口県では、国の研究機関であるJAXA(国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構)の一部機関の移転誘致が成功し、地方創生推進交付金を受けて、JAXAの衛星データを防災に利用するなどの事業を推進しています。これらにより、各地域が地域経済の中でイノベーションを起こしていくことが期待されています。

これからの地方創生にはグローバル化の視点も必要

―第2期「総合戦略」は来年度から実行段階に入りますが、それに向けての課題は何でしょうか?

松原 東京のグローバルな都市機能を生かして、地方創生の取り組みを進めていくことが重要になります。それにはまず、地方都市に強力なマグネットをつくることが鍵になります。

具体的には、福岡、札幌、仙台など地域の核となる都市の機能強化や、松江と米子の取り組みのような地域連携などで、多極的な地方都市の活性化を戦略的に進めていく必要があります。

また、これからの地方創生では国際競争力を有する産業を新たに創生していく必要もあります。その中で魅力ある雇用が地方に生み出されていき、人材が集まってくる。それには、それぞれの地方がグローバル化にどう向き合っていくかという視点で、「まち・ひと・しごと」の分野を磨いていくことが重要になります。

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