航海に地図と羅針盤が必要なように、地域づくりにも現状を示す客観的なデータが欠かせない。今回は、東名阪に次ぐ拠点都市「札仙広福」(札幌、仙台、広島、福岡の4市)の一角を担い、「杜(もり)の都」で知られる「仙台市」について、まちの羅針盤(地域づくりの方向性)を検討したい。
通り過ぎていくまち
仙台市は、伊達政宗の巧みなまちづくりの上に、戦後復興のケヤキ並木整備、新幹線開通、地下鉄開業・延伸などを重ね、人口100万人を擁する東北最大の拠点都市に発展した。GRP(地域GDP)は5兆円を超え全国第11位。その9割を、労働集約的な業種が多い第3次産業が占めるも、労働生産性は941万円と高水準にある。東北大学を核に高度研究機能が集積する「学都」であり、「専門・科学技術、業務支援サービス業」(研究開発やコンサルティングなど)をはじめとしたクリエイティブ(知識)産業の層の厚さが、その強さを支えている。
東北を代表する都市として、地方創生では首都圏との対抗軸として語られることも多い仙台市。しかし、全国の企業の支店などが集まる拠点都市ならではの悩みは、他地域と共通する。広域からヒト・モノ・カネを集めながら、域外本社への利益移転などによって、所得が地域に残りにくい点だ。
「専門・科学技術、業務支援サービス業」の移輸出入は、宮城県全体でも黒字(所得流入)だが、東北6県全体では移輸入超過(所得流出)に転じる。東北のクリエイティブ需要の多くが仙台市に集まる一方、高い技能が求められる高付加価値な分野は東北の外、おそらく多くは東京圏に、流出しているためだ。
問題は、所得(カネ)の流出だけではない、高い技能などが必要な職を求め、人材(ヒト)が流出していることだ。宮城県全体の数字だが、対東京圏の社会増減は一貫して流出超過が続き、就職者も、コロナ禍の時期を除けば、流れは変わっていない。
学都として広く「知」を集めながら、その多くが仙台市を通り過ぎ、東京圏などへと流れる現状に、どう応えるか。
防災環境都市を超えて
対策の一つが既に進む「せんだい都心再構築2036」である。経済施策と観光施策を連動させた開発促進によって「ひとが集い、活躍し、楽しめる、進化・成長を続ける都心」を目指す、人中心のまちづくりだ。だが、ライバルは少なくない。ニューヨーク・タイムズ「2023年に行くべき52カ所」で世界2位に選ばれた盛岡市だけではない。東京を軸に見れば、札幌・広島・福岡はもちろんのこと、駅前の大規模な都市公園を核に生活空間を再整備した大阪も、競合となる。
また、「知」の集積によるイノベーション加速という観点に立てば、ライバルはシリコンバレーをはじめ、世界へと広がっていく。
だからこそ今、改めて考えるべきは、仙台市固有の強みである。
視点が違えば強みも異なるが、筆者が考える世界に類を見ない特徴は、国連防災世界会議で採択された「仙台防災枠組」の冠都市であることだ。防災環境都市としての取り組みを重ね、2030年までに世界の各都市が安全で強靭性の高い都市となることを目指す国連防災機関の「MCR2030レジリエンス・ハブ」に日本で初めて認定されてもいる。こうした独自性を際立たせ、選ばれる都市力を磨き上げることが重要だ。
具体的には「せんだい都心再構築2036」のまちづくりに、平時と災時を一体で捉える発想を組み込むことだ。日常使うまちのインフラを非常時にも力を発揮するよう設計・整備すれば、また、そのための挑戦ができる場となれば、この分野における社会実装の一大拠点となり得る。気候変動の影響などで世界的に災害が増える今、守りの防災から、BOSAI・TECHなどを通じた攻めの産業化を図ることが、人口減少社会に突入した仙台市が世界の中で輝く道であろう。
防災環境都市、MCR2030レジリエンス・ハブ、その先のレジリエンス産業都市へ。この歩みを通じ、東日本大震災からの復興で築いた海岸の防波堤のように、「知」の流出を食い止め、優れた人材と新たな仕事を地域に蓄える防波堤を打ち立てる。これが、仙台市のまちの羅針盤である。
(一般財団法人ローカルファースト財団理事・鵜殿裕)
