人は誰しも自分の話を最後まで聞いてもらいたいと思っています。部下からの相談事などは、最初の数分で何を言いたいかすぐにわかる場合もありますが、私はじっと我慢をして最後まで話を聞くようにしています。
若いころの私にはこれができませんでした。相手の話の途中で、「君の言いたいことは、こういうことだろう……」と先回りして話の腰を折ることもしばしばでした。当時、私はディスカウントストアに再起をかける親父の願いで、大学院を中退して家業に入ったばかり。勉強しか知らないカタブツが従業員の心を把握することができるはずもありません。むしろ相手の言いたいことを早く言い当てることで、〝自分はあなたの気持ちをこれほど分かっている〟と伝えようとしていたのかもしれません。
しかし、5年ほどしてから、それは間違いだったことに気付きました。ある時、従業員からの相談をたまたま最後まで聞いたことがありました。私としては、世間話を聞き流したくらいにしか感じていなかったのですが、彼はその時のことを他の社員に、「専務が話を聞いてくれた」と非常に喜んで伝えていました。そしてそれ以来、私のことを自分の理解者と思うようになり、率先して仕事をするようになったのです。
私としては驚きでした。聞くことの大切さを、その時知りました。
このことをきっかけに、私の話の聞き方は変わりました。ノートに要点をメモしながら、相手の顔に目をやり、時々うなずきつつ最後まで聞くのです。そして、「君の言いたいことは、これとこれとこれ、この3点でいいの? この際だから、もっとあったら聞かせてくれよ」と、思っていることを全て話してもらいます。そして最後に自分の意見を言います。相手にとって最も大事なのは、話を聞いてもらうことで、私の意見ではありません。この人は私の話をちゃんと聞いてくれた、それで満足するのです。また、メモを取ることは備忘録の意味以外にも大きな効果があります。それは話を聞き漏らさないという真剣な姿勢を相手に伝える効果です。
自分の悩みを100%話せたら、その時点でもう気分的に70%は解決しています。大事なことは、全てを話してもらうこと、そして真剣に聞くことです。
相手は、しゃべりきらないとフラストレーションがたまります。また、真剣に聞かずに途中で話の腰を折るようなことをすれば、あなたのことを理解者だと思わなくなります。話を聞くという簡単なことが、部下の信頼を集める大きな鍵であったのです。
お問い合せ先
社名:株式会社 風土
TEL:03-5423-2323
担当:髙橋
最新号を紙面で読める!