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アジアの風〜ビジネスの先を読む〜 重要な「市場の規模感」の深堀り分析

ベトナム・ホーチミンのスーパーに並ぶ多様な即席麺

商品の市場規模は宗教や気候などよほど特殊な事情がない限りは、その国の人口と所得水準で分かるものだ。だが、東南アジア諸国連合(ASEAN)ではそうはいかないケースもある。TPCマーケティングリサーチの予測によると、2017年の飲料(ソフトドリンク)市場の規模はインドネシアが7587億円で、フィリピンが6370億円。人口が2・5倍あり、1人当たりGDPでも20%上回るインドネシアの飲料市場がフィリピンと大差ないことは意外だ。フィリピン人のライフスタイルがコーラなどソフトドリンクを愛飲する米国に影響されたためだ。

一方、今、日本企業が熱い視線を送るミャンマーの飲料市場規模はわずか3・4億円。ASEAN最貧国とはいえ、人口5300万人にしては小さすぎる。こちらはフィリピンとは逆に軍政時代を通じ米国の経済制裁を受け、コーラなどペットボトルの飲料品を飲む暮らしはまだ日が浅い。容器のボトルや缶も輸入に頼る部分が多く、フィリピン並みになるまでにはまだ時間がかかる。

ミャンマーは1人当たりのビール消費量(2010年WHO調べ)も年間0・12ℓとイスラム国家並みの少なさ。しかし、経済水準で大差ないはずのラオスは20倍の2・43ℓで、成長で先行する隣国ベトナムの2・15ℓや所得水準が3倍以上のタイの1・66ℓを上回る。ラオスのビール「ラオビア」はASEAN屈指のおいしいビールといわれ、ミャンマーとラオスの消費傾向の違いを映し出している。

即席麺は日本がアジアに普及させた食文化で、1人当たり消費量でみると、アジア各国が世界上位に並ぶ。双璧はベトナムとインドネシアで、1人当たり年間50食以上を食する。タイ、マレーシアも43~44食でそれに次ぐ。フィリピンは36食でそれなりに多いが、米飯好きの国民だけに麺消費はまだまだだ。ミャンマーは年間約9食だが、シャン州など高度な麺文化のある国だけに今後は伸びるだろう。ベトナムで大成功したエースコックが早くも工場進出した点に注目したい。

飲料品や即席麺は少額消費で、自動車や家電製品のように国の政策の影響を受けるわけではない。消費者の購買欲、嗜好(しこう)がそのまま市場規模に表現される。各国の違いは生活習慣や西洋化、現代化の程度を映し出している。そうした要素の背景、歴史をしっかり調べ、自分なりの仮説を持つことがASEANでモノを売っていくときの重要なカギとなるだろう。

後藤 康浩(ごとう・やすひろ) 亜細亜大学 都市創造学部教授 早稲田大学政経学部卒、豪ボンド大学MBA取得。1984年日本経済新聞社入社、国際部、産業部のほかバーレーン、ロンドン、北京などに駐在。編集委員、論説委員、アジア部長などを歴任した。2016年4月から現職。アジアの産業、マクロ経済やモノづくり、エネルギー問題などが専門

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