政府はこのほど、クールジャパン戦略推進会議の報告書「クールジャパン官民協働イニシアティブ」を取りまとめた。報告書では、「デザイン」「コンテンツ」「食」「地方・観光」の4分野で民間の取り組みモデル(プロジェクトアイデア)と政府が行うアクションプランを提示。デザイン分野では、世界最高水準のデザイン・スクールの設立、コンテンツ分野では、J-POPなど日本の音楽の海外進出を後押しするため、海外主要市場に拠点を設立し、現地でのプロモーションやライブの開催、機材輸送を支援することなどが盛り込まれた。日本食のファン拡大に向けては、ブランド力向上の役割を担う「食の大学院」を東京に設置する案などが示された。特集では、同報告書の概要を紹介する。
1 はじめに
(対象)
クールジャパンとは、外国人にとって「クール」と捉えられるもので、その対象は、「ゲーム・マンガ・アニメといったコンテンツ、ファッション、産品、日本食、伝統文化、デザイン、さらにはロボットや環境技術などハイテク製品にまで範囲が広がっている」(知的財産推進計画2011)
(クールジャパン戦略について)
クールジャパン戦略とは、こうした日本の魅力を世界へ発信し、世界の成長を取り込むことで、わが国の経済成長につなげることを目的とした取り組みであり、日本全体のブランド戦略の一環でもある。具体的には、クールジャパンに関する情報発信と海外への商品・サービスの展開を通じてわが国経済の拡大に資するだけでなく、海外における日本ファンの拡大と、それに続くビジット・ジャパンとの連携により、訪日外国人旅行者数の増加による日本国内での消費拡大という波及効果も期待できる。
クールジャパンの取り組みは、民間事業者が主体となって行うとともに、政府が意欲ある民間事業者を後押しする。このような役割分担の下、新たな魅力あるクールジャパンの対象商品・サービスを生み出す事業者や、伝統的な魅力を再発見・再編集して発信・展開する事業者が活躍し、競争と新陳代謝が促進されることで、わが国経済が活性化していくことが期待される。(中略)
(本イニシアティブについて)
本イニシアティブは、その議論に基づき、クールジャパン戦略の深化に当たっての視点、民間のモデルとなる取り組み例および政府が実施する今後の取り組みについて取りまとめたものである。
2 クールジャパン戦略の深化に向けた5つの視点
本会議の議論を通じて、クールジャパン戦略の深化に向けた視点として、何が重要であるかについて考察を深めてきた。その結果、以下の5点に集約することができる。
(1)「デザイン視点」で横串を刺す
・クールジャパンに関する取り組みは、コンテンツ、食、ファッションなどクールジャパンの分野ごとに、また、情報発信、海外展開、インバウンド振興の段階ごとに、多岐にわたっている。また、そのプレイヤーは、政府・民間を問わず多様な人や組織から構成されている。
・それらの取り組みをクールジャパンのコンセプトの下で横串を刺し、日本の魅力を演出するために、有機的に組み合わせていくことが重要である。また、その際には、情報発信、商品・サービス提供、体験など、顧客との全ての接点を「デザイン視点」(※)で設計・編集し魅力を高めることが重要である。
(※)ここで言うデザインは、意匠を意味する狭義のデザインではなく、顧客の目線から商品・サービスなどの「機能価値」(品質や性能など)と「感性価値」(意匠や質感など)を統合的に設計し、両者を高い水準でバランスさせる広義のデザインを意味する。例えば、個々の商品・サービスのプロデュース、インバウンド観光体験の設計の際に、顧客の顕在・潜在ニーズから出発して、それらを効果的かつ洗練されたものとしていくこと。
(2)政策・事業を連携させる
・クールジャパンに関する各種取り組みを多様なプレイヤーが行っている中、相互に連携させようとする試みも始まっているが、官と民、あるいは業種間の連携はいまだ十分でなく、単発の取り組みにとどまっていることは否めない。
・従って、クールジャパンに関する政府および民間の活動を俯瞰し、わが国として効果的な取り組みとなるよう、政府の政策や民間の事業活動について、分野の垣根を越えて相互に連携させることが重要である。また、情報発信、海外展開およびインバウンド振興の各段階において行われている取り組みを相互に連携させ、一連の流れとしてつなげることも重要である。
(3)「人材ハブ」を構築する
・クールジャパン戦略を遂行するための鍵は人材である。世界に通用する日本の魅力の創出・発信を効果的に行うためには、クールジャパン関連分野の人材を世界中から日本に引きつけて、これらの人材が持つ創造性を集積させ、さらに高度化し、世界に向けて発信するためのハブを構築することが重要である。こうしたハブが一旦形成されれば、それがさらに人材を引きつけ、日本の魅力の向上につながるという好循環を実現することが可能となる。
(4)外国人の視点を取り入れる
・海外には、日本のコンテンツ、食、ファッションなどが大好きな「日本ファン」が数多く存在する。彼らは、クールジャパンを海外でさらに広めていく上でのパートナーとなり得る存在である。また、こうした「日本の魅力」は、海外の人たちが「クール」として受容したものであるが、日本人がそう感じていない場合も往々にしてある。逆に、日本人が「日本の魅力」と思うものをそのまま海外に出しても、価値観の押しつけになって海外で受容されない場合があり得ることも注意しなければならない。
・こうした観点から、クールジャパンを海外に向けて発信・展開する際には、日本ファンの外国人や影響力のある外国人と協働することが効果的である。また、「日本の魅力」を海外の人により幅広く「クール」と受容してもらえるよう、そうした外国人の目線で再編集していくことも重要である。
(5)地方の魅力をプロデュースする
・地方には、各地域で育まれてきた郷土料理や日本酒、伝統的工芸品をはじめとして、クールジャパン資源としての潜在力があるものが数多く存在するが、埋没したまま活用されないものもある。また、これらの資源が発掘・活用されたとしても、地域ごとにバラバラに海外展開され、日本全体としての魅力向上につながっていない場合も見受けられる。
・そのため、地域に眠るクールジャパン資源を発掘し、それを集積・編集して新たな価値を付与する(キュレーション)ことを通じて、海外で受け入れられるような「商品」になるようプロデュースしていくことが必要。その際には、個々の地域資源を、日本全体の魅力として海外に訴求できるよう、全体的な視点でプロデュースすることが重要である。
3 民間のモデルとなる取り組み
前述の5つの視点を基に、民間が主体となって、クールジャパンに関する取り組みが加速化されることが望まれる。本会議においては、クールジャパン戦略はいかにあるべきかという一般論に立脚した提言にとどまるのではなく、本会議における議論と民間有識者のネットワークの成果として得られた具体性のあるプロジェクトアイデアも提示することとした。
その結果、「デザイン」、「コンテンツ」、「食」、「地方・観光」の4つの分野において、民間による取り組みのモデルとなる具体的なプロジェクトアイデアが生み出された。
そのポイントは以下の通りである。今後、これらのプロジェクトが、政府の支援も活用しつつ、民間において具体化されることが期待される。
(1)「デザイン」を軸とした取り組み
・デザインを日本の産業競争力向上の重要な原動力と位置づけ、海外のデザイン人材を日本に取り込んで産業のイノベーションを加速させるために、世界最高水準の「デザインラボ/スクール」を設立する。
(2)「コンテンツ」を軸とした取り組み
・J-POPの海外展開の促進とその波及効果を高めることを目的として、音楽業界一丸となった海外進出を後押しする「エージェント組織」を設立するとともに、音楽と映像などのコンテンツとの連携を促進するため、個別アーティストにID番号を付与し管理する「アーティストデータベース」や、過去の作品を蓄積し利用しやすいようにする「作品アーカイブ」、人材育成・活用の機能を有する拠点を、竹芝地区の国家戦略特区も活用しつつ整備する。
(3)「食」を軸とした取り組み
・食を中心としてさまざまな分野の取り組みに横串を刺し、日本ファンを拡大することを目的として、情報発信・海外展開・インバウンド振興を一体的に行う「Japan Experience Community」を構築すべく、「食の大学院」、「TOKYO HARVEST CITY」、「海外重点都市拠点」などを設置する。
(4)「地方・観光」を軸とした取り組み
・地方におけるクールジャパンに関する取り組みの推進を目的として、地方に眠る食やクラフト、地域での体験などの魅力を外国人目線で発掘・磨き上げ、全体的な視点から日本の魅力と調和させつつ海外展開および新産業開発につなげていく「ローカル・クールジャパン・プロデュース事業」体制を設立する。(中略)
4 政府が実施する横断的な取り組み
クールジャパン戦略を一層推進していくため、前述の5つの視点に基づき、内閣官房(知的財産戦略推進事務局)が司令塔機能を果たして各府省の取り組みを束ね、政府が一体となって、以下の取り組みを進める。
(1)官民連携プラットフォームの創設
・クールジャパンに関する取り組みにおける官民や異業種間の連携を強化し、前述のような連携プロジェクトが継続的に組成されていくような横断的な仕組みづくりが必要である。このため、クールジャパン関連分野における官民や異業種間の連携を強化し、わが国として、クールジャパンに関する取り組みを効果的に進めることを目的に、関係府省、関係機関、民間団体などをメンバーとして、①能動的なクールジャパン連携プロジェクト組成やマッチングの場、②先進的事例(例=コンテンツをマーチャンダイジングするためのノウハウなど)の共有の場として機能する新たな官民連携プラットフォームを立ち上げる。
(2)各分野の人材・情報の集積・発信拠点の形成
・クールジャパン資源であるデザイン、食、コンテンツなどの各分野において、世界中から高度人材を呼び寄せ、わが国の人材育成を促すとともに、情報の集積・発信機能を有する拠点(ハブ)の構築を目指して民間で取り組みを行うことを前提に、関係府省が連携してこれを支援する。
(3)日本ファンの外国人などをアンバサダーとしてネットワーク化
・クールジャパン資源の各分野で、発信力のある日本ファンの外国人などに海外への情報発信・普及について協力を仰ぐ取り組みが始まっているが、こうした取り組みを束ねれば、相乗効果を発揮することが期待できる。従って、これをベースとして、クールジャパンとしての情報発信をより一層効果的に行うために、これらの外国人などをクールジャパンのアンバサダーとしてネットワーク化し、さらなる情報発信およびそのフィードバックを行うよう協力を依頼する。
(4)地方におけるクールジャパン相談窓口の整備
・地方のクールジャパン関連事業者に対して、日本貿易振興機構(ジェトロ)などの関係機関が海外展開支援を行ってきている。また、地方の中核となる地方自治体でもそうした相談体制を整備する動きがあり、自治体間のネットワーク化も始まっている。地方において意欲のある事業者への相談支援体制を強化するため、ジェトロなど関係機関と協力しつつ、地方自治体とも連携して、地方のクールジャパンに関する相談窓口を整備する。
(5)地域プロデューサーのリスト化・ネットワーク化
・地方におけるクールジャパン資源を発掘して海外展開やインバウンドにつなげていくために必要なキュレーション能力・プロデュース能力を持った専門人材やノウハウが地方には不足している。このため、クールジャパンの各分野において、そうした地域資源を海外展開やインバウンド振興に結び付けていける専門知識・ノウハウを持った人材のリスト化を進め、地方に対して情報提供を行うとともに、日本全体としての視点を共有できるようにネットワーク化する。
(後略)
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