伝統工芸品を新たな形で普及目指す
tsutaeru 代表 尾田 美和子
西陣織の市場開拓へ向けベビーシューズを開発
祖母が呉服屋を営んでいたことから和装になじみが深く、大学院では伝統工芸品である西陣織の織屋について研究してきました。京都の西陣産地へ何度も足を運び、研究・調査を重ねた結果、西陣産業は新たな製品開発や市場拡大が課題であるものの、従事者の高齢化、経営資源の脆弱(ぜいじゃく)さからままならない現状であると分かりました。
一方、地元、香川県のものづくり企業の中には、西陣織を使ってみたいという企業があると知りましたが、これらの企業は西陣織の知識がなく、仕入れ先も価格も分からないという状況でした。そこで、西陣織の織屋と香川のものづくり企業をつなぐことができれば、伝統工芸品と近代技術を活用した新しい製品開発ができる、西陣織の潜在的市場の喚起やものづくり企業の存続につながると思い立ったのです。そして、研究で培った知識や知見、織屋との人脈を生かしてビジネスができるのではないかと考えました。
しかし、日本ではまだものづくりの企業同士をつなぐオーガナイザー(まとめ役)的なポジションで対価を得ることができません。そこで、西陣織を使ってこれまでにない誰もが驚く製品を作り、「西陣織の女性研究者がプロデュース」と銘打ってPRしようと考えました。開発したのは西陣織のベビーシューズ。出産祝い用のベビーシューズは高額品のニーズがあるのに商品が少ないこと、香川県に老舗のベビーシューズメーカーがあることに着目したのです。
日本のものづくりの力伝える
「伝統工芸品を新しい形にして、その美しさや日本のものづくりの力を自分の言葉で伝えていこう」。この思いで平成27年、プロデュース会社、tsutaeru(ツタエル)を創業しました。しかし、実際に企業同士をつなぐことは簡単ではなく、西陣織の生地を用いたベビーシューズの開発にも苦労しました。西陣織の生地は高価な上、ベビーシューズのような小さなパーツの裁断が難しいのです。西陣織を扱ったことのない職人さんたちの知識や技術、やる気を引き出すにはどうすればいいのか、雇用関係にない職人さんたちのマネジメント面でも苦労しました。そのかいあって、これまでにない日本の伝統美と熟練職人の技が光るベビーシューズが仕上がり、これにより進物市場へ参入しました。さらに海外へも紹介していこうと、昨年、ブータン王国第5代国王に誕生した王子に西陣織のベビーシューズを贈呈しました。
伝統工芸は市場の啓蒙(けいもう)が十分とはいえず、製品に対する情報不足が大きな問題点です。ツタエルは伝統工芸品を新しい形に変え、日本の文化や伝統技術など多くの情報と共に市場に伝えていきます。ツタエルは始まったばかり。社会の皆さまに育てていただき、ファンになっていただいて伝統工芸や日本のものづくりの素晴らしさを一緒に伝えてほしいと思います。たくさんのツタエルファンをつくっていくことが、今の私の目標です。
会社データ
社名:tsutaeru(ツタエル)
所在地:香川県高松市屋島西町2323-1-405
電話:087-813-9093
創業:平成27年6月
事業概要:西陣織および伝統工芸品の技術を使った製品のプロデュース
※月刊石垣2017年8月号に掲載された記事です。
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