日用品や日用雑貨品などの企画・販売を中心に行っているImage Craft。同社が平成22年に発売した物干しハンガー『いちどにありがとう』が、シリーズ累計7万個を超える隠れたヒット商品となっている。安価な同類商品が市場にひしめく中、一般ユーザーから医療・福祉関係者に至るまで幅広い支持を受けた秘密は、洗濯ばさみの構造にある。
従来品は両手で使うのを前提につくられている
どこの家庭にもある物干しハンガー。そんな生活必需品だけに、世の中には幾多の商品が出回り、それぞれデザインや使い勝手に工夫が凝らされている。ところが、使われている洗濯ばさみの基本構造は、昔も今もほとんど変わっていない。それは完成された形の証しといえるかもしれないが、盲点がある。両手でなければ使えないことだ。そこに着目し、「洗濯ばさみはそういうもの」という世間の思い込みに風穴を開けたのが、Image Craftが平成22年に発売した『いちどにありがとう』である。
同商品の特徴は、洗濯物が片手で干せて、一気に取り込めることだ。洗濯物をつまむ際、洗濯ばさみが開いたままなので、洗濯物を差し込んで閉じるまでの作業が片手で行える。さらに、洗濯ばさみの上部にあるバーを寄せると、同じ列のはさみが一度に開き、両手を使わずに洗濯物を取り外せるのだ。それを可能にしたのは、洗濯ばさみの構造にある。従来品はバネの作用で物をはさむため、手でつまんでいないとはさみを開いた状態に保つことができない。それに対し同商品は、支点に採用した独自の部品により、はさみを開いたままにすることができるのだ。この仕組みの考案者である同社社長の今瀬満(みちる)さんは、開発のきっかけをこう振り返る。
「始まりは鉄工所を営む古い知り合いから、片手で使える洗濯ばさみをつくりたいと相談されたことでした。彼の親友のお母さんが脳梗塞の後遺症で片麻痺(まひ)になってしまい、洗濯物を口にくわえて干しているのが何とも気の毒だというんです。それで彼は、はさみが開いた状態を維持できるしくみを考え、アルミで試作品をつくって持ってきたんですが、動作が安定していませんでした。しかも、すでに同じ仕組みの商品が出ていたため、新たな仕組みを考える必要があったんです」
実に500種類の試作を経て商品化にこぎつける
今瀬さんは、かつて放射線技師として10年ほど病院で働いたのち、ログハウスに魅せられてその企画・販売をする会社を立ち上げ、今に至るという異色の経歴を持つ。幼いころから手先が器用で、ものづくりが得意だったことから、試作品を見てすぐにアイデアが浮かんだという。そうしたアドバイスをもとに鉄工所の社長が試作品をつくるというスタイルで、開発は進められた。
「新たな仕組みはすぐに見つかり、試作を繰り返しながらブラッシュアップしていきました。当初はアルミを使っていましたが、コストと重量の点からプラスチックに変えました。しかし今度は耐久性がネックでした。というのも、はさみの開閉を繰り返し行っていると、3000回くらいから動きが悪くなってくるんです。支点が動くたびに周辺のプラスチックが削られて、そのカスが溝にたまってしまうことが原因でした。そこで素材や支点の仕組みをいろいろ工夫してみましたが、なかなか思うようにいきませんでした」
こうして試作は実に500種類にも及んだが、突破口となったのは逆転の発想だった。それまでは、いかに支点の滑りをよくして摩耗を減らすかに注力してきたが、あえてその部分をザラザラにし、滑りを悪くしてみたのだ。すると、ザラザラの部分がかみ合って歯車の役割を果たし、摩耗が極端に減ったのである。こうして完成した洗濯ばさみ「ありがとうクリップ」は、単体で商品化したほか、物干しハンガーにも採用した。それが『いちどにありがとう』である。
「最初は洗濯ばさみを4つ付けたハンガータイプのものをつくりましたが、何か物足りない。せっかく楽に干せるんだから、楽に取り外せる機能も付けようと、クリップを固定しているバーの横にもう1本バーを取り付け、その2本を寄せるとクリップが一斉に開いて、洗濯物が自動的に外れるようにしました」
こうして「物干しスピード約2倍」「取り込みスピード約3倍」を実現した商品が誕生し、販売を開始した。
今後も「片手でできる」をテーマに商品開発
医療や福祉の関係者からは絶賛されたが、売れ行きは芳しくなかった。障害の有無にかかわらず、全ての人に使ってほしいと思ったが、本業とは違うジャンルの商品だけに、どう販路を開拓すればいいか分からなかった。
「そこで美濃加茂商工会議所に相談に行きました。ほかにはない商品だから、まずは多くの人に認知してもらうことが先決だと言われ、まずは地元で開催される展示会に出展したんです。すると予想以上に反響があった中、『干すところが4つのものしかないのか?』という意見があり、早速洗濯ばさみが16個付いた『いちどにありがとう16』をつくりました」
これが多くの注目を浴びる。仕組みのユニークさ、パチンパチンと開閉する感触のよさ、面倒な作業をなくす便利さなどから、新聞や雑誌、テレビなどに頻繁に取り上げられて認知を広げ、売れ行きを伸ばす。ユーザーの要望を受け、クリップが32個タイプ、28個タイプを順次発売し、現在全シリーズの販売累計は7万個を超えた。
「自分のアイデアを形にするのを優先して、製作コストを後回しにしてしまうのが私の悪い癖ですが、今後も『片手でできる』をテーマに、誰もが快適に使えるグッズをつくっていきたい」と抱負を語る今瀬さん。
次はどんな便利グッズを繰り出すのか、心待ちにしたい。
会社データ
販売社:Image Craft株式会社
所在地:岐阜県美濃加茂市加茂野町鷹之巣1500-2
電話:0574-42-6016
HP:https://www.imagecraftjapan.com
代表者:今瀬満 代表取締役
設立:平成21年
※月刊石垣2017年3月号に掲載された記事です。
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