平成29年2月に発表されたスポーツ庁の調査によると、週1日以上運動をしているのは40代で31.6%と、各世代のうち最も低かった。しかし、やる気はあるのに時間がないというなら、方法はある。大切なのは“体を適度に動かすこと”なのだ。手軽に取り組め、健康維持につながる運動のコツをメタボ対策に詳しい医師の福田千晶先生に聞いた。
福田 千晶(ふくだ・ちあき)
医学博士・健康科学アドバイザー
運動のメリットは若々しさを保てること
普段、何か運動をしていますか。最近では健康志向の高まりにより、ウオーキングやランニング、スポーツクラブでの筋トレなど、運動習慣のある人が中高年層を中心に増えています。
実際、運動することで得られるメリットは計り知れません。まず、肥満や生活習慣病の予防、筋力や骨密度の維持、寝たきりや認知症の予防など、健康寿命を延ばすことにつながります。また、動きやすい体を維持すれば、趣味を存分に満喫したり、活動範囲が広がったりと、生活に張り合いも生まれやすくなります。そして何よりうれしいのは、若々しさが保てること。見た目が若々しいということは、心身が常によいコンディションを保てている証拠であり、ビジネスにおいても高いパフォーマンスを発揮することができます。そんな活動的な経営者の様子を見て、従業員たちは会社に将来性を感じたり、モチベーションが上がったりするでしょう。つまり、経営者としてのレベルアップを後押ししてくれるのです。
一方、まったく運動していないという人もいるでしょう。仕事が忙しくて時間が取れない、近くにスポーツジムがないといった理由もあれば、「学生時代にスポーツをしていたから筋力には自信がある」「今でも元気に活動できているから問題ない」といった理由を挙げる人もいます。そこでまずは、次のページにある「立ち上がりテスト」と「運動不足度チェックテスト」を行ってみてください。その結果が、現在の体の状態です。仮に今は問題なくても、運動をしない生活が今後も続くようであれば、前述の肥満や生活習慣病をはじめ、さまざまな健康リスクを招く確率が上がります。筋力も徐々に低下していくので、動くのが面倒になったり、よい姿勢を保てなくなって知らぬ間に猫背になったり、肌のハリやツヤが失われていくなど、同年代の人と比べて老けた印象になってしまう可能性もあります。
月1~2回のスポーツより体をこまめに動かす方がよい
ひと口に運動といっても、やり方や頻度によって効果は変わります。例えば、趣味のゴルフや登山などを、月1~2回のペースで行っているとしましょう。1回行けばかなりの運動量になることは間違いありませんが、普段それ以外に体を動かしていない場合は、運動習慣があるとはいえません。
このような人は、よく歩く習慣をつけることがおすすめです。試しに歩数計などで、1日当たりの歩数の平均値を出してみましょう。理想は1日8000歩です。年齢や体調によってはその限りではありませんが、1日5000歩未満だと少ない方といえるでしょう。特に、毎日車で通勤し、出社後は社内にいることが多い人は、歩数も少なくなりがちです。意識して歩くようにするほか、社内の移動は必ず階段を使うなど、足を意識的に動かすようにしましょう。
これを機に運動を始めようと考えた人は、いきなり激しいスポーツをするのは危険です。まずは健康診断や人間ドックの結果を見て、自分の体の状態を把握することが先決です。要精密検査、要治療といった項目がある場合は、医療機関を受診して、どのような運動なら無理がないかを医師に相談してみましょう。
特に問題がなければ、週3回ペースで軽い運動から始めてみましょう。あくまでも目安に、できなかった分は「翌週にやればいい」くらいに気楽にとらえましょう。週3回をノルマにしてしまうと、それを達成しようと無理をして結局続かなくなるので、目標設定は緩くすることがポイントです。
1日15分のついでで大きな差がつく
運動時間を取るのが難しい、やってもなかなか続かないという人におあつらえ向きなのが、“ながら”運動です。何かをしながら体を動かすというもので、わざわざ時間を設ける必要がありません。例えば、仕事の手を緩めて、椅子に座り“ながら”腹筋に負荷をかけたり、コピーを取り“ながら”スクワットをしたり……といった要領です。
「そんなことで本当に運動不足の解消になるのか?」と思うかもしれませんが、心配は無用です。筋肉というのは運動の種類にかかわらず、刺激が加わると今までサボっていた機能が目覚めやすくなるのです。ですから、こまめに体を動かしているだけで、体が軽い、体力を保ちやすい、疲れにくい、気力が湧くなど、心身が充実してくるのが感じられるはずです。
しかも、“ながら”運動は1回につき2~3分程度でいいのです。それを1日数回、合計15~20分ほど行うようにすると、1週間で約2時間、1年で約100時間の運動をしたことになります。“ながら”で運動した人としない人では、大きな差がつくことが分かるのではないでしょうか。これを習慣化することで短期間に筋肉を付け、体重を減らすのは難しいとしても、今まで運動をしてこなかった人なら、2週間でウエストを2㎝程度引き締めるのは十分可能です。
さらに、血糖値をコントロールしやすくなることも、“ながら”運動の大きなメリットです。食後に血糖値が上がると、膵臓(すいぞう)からインスリンが分泌され、血糖をいったん筋肉にストックすることで血糖値を下げようとします。その血糖は活動エネルギーとして使われるのですが、普段運動していると筋肉がそれを記憶して、インスリンの働きかけがなくても、筋肉が自主的に血糖をストックしようとします。つまり、インスリンを無駄遣いせずに血糖値が下がるようになり、糖尿病の予防になるのです。ただ、筋肉の記憶はせいぜい48時間程度しか続かないため、こまめに運動した方が有効なわけです。
あえて時間をつくらなくても、手軽に運動することができ、健康維持にもつながることがお分かりいただけたでしょうか。あとはやるだけです。気長に続けていれば、90歳を過ぎてもゴルフコースを楽々ラウンドしたり、80歳を過ぎてもフルマラソンに挑戦できるような体と人生を手に入れることも夢ではありません。
加齢とともに進むロコモ=ロコモティブシンドローム(運動器症候群)とは、
骨や関節、筋肉など運動器の衰えが原因で、歩行や立ち座りなどの日常生活に障害をきたしている状態のことをいい、進行すると寝たきりになってしまう可能性がある。
Check 1 立ち上がりテスト
片脚または両脚で、決まった高さから立ち上がれるかどうかで下肢の筋力を測ります。
Check 2 運動不足度チェックテスト
日々の生活習慣から運動不足度をチェックするテストです。
1日15分“ながら”運動で不足をちゃっかり解消
運動習慣を身に付けるのは、言うほど簡単ではない。しかし、やるとやらないとでは、健康においても若々しい見た目においても、やがて大きな差となって現れる。そこで負担を感じることなく筋トレ効果が得られる、部位別“ながら”運動を紹介する。今日から早速オフィスや自宅で試してみては!
監修/福田千晶
①腹筋に効く「シッティング・クランチ」
若いころと比べて最も変化を実感しやすいおなか周り。手ごわい腹部の脂肪は、椅子に座りながらできる腹筋運動で、こまめに刺激しよう。
回数15回 目安時間4分
②背筋に効く「スタンディング・バックキック」
正しい姿勢で立つだけで体幹は鍛えられる。その姿勢から足を後方に持ち上げることで、背面の筋肉をまんべんなく刺激する。
回数 左右交互5回 目安時間2分
③二の腕に効く「プッシュアップ・インクライン」
腰位の高さの台があるところなら、どこでもできる上腕筋や大胸筋の筋トレ。二の腕が程よくプルプルしているのを感じながら行う。
回数10回 目安時間2分
④太ももに効く「エアーチェア」
激しい運動をしなくても足の筋肉は鍛えられる。特に太い筋肉の集まる太ももを効果的に刺激すると、動きやすい体が維持できる。
回数10回 目安時間2分
⑤ふくらはぎに効く「スタンディング・オン・ティップトーズ」
つま先立ちはふくらはぎの筋肉を効果的に刺激する方法。つま先立ちしながら歯を磨くなど、生活習慣と連動させると無理なく実践できる。
回数 何かのついで1回 目安時間2〜3分
最新号を紙面で読める!