北海道網走市で1998年に発足した網走ビール。オホーツク産のさまざまな原料を使用してクラフトビールを製造してきた同社が、2008年に発売した「流氷ドラフト」が異例の快進撃で飲む人の心を引きつけているのは、苦みを抑えたすっきりさわやかな飲み口もさることながら、世界に例を見ないビールの色“オホーツクブルー”だ。
“ほかにはない”を追求した先にあった「青」
ビールといえば黄金色が一般的だが、ほかにも白濁した黄色、琥珀色、赤、黒、緑などさまざまな種類がある。しかし、世界広しといえども青いビールは存在しなかった。それを世に先駆けて実現したのが、網走ビールが製造販売する「流氷ドラフト」である。同商品は、網走の冬の風物詩である流氷を仕込み水に使用。澄み渡るオホーツクの海の色をクチナシの天然色素で再現した、鮮やかなブルーのクラフトビール(地ビール)だ。
「地元産の原料を使用して、“ほかにはない”ビールを追求した結果、着目したのが色でした」と社長の長岡拓児さんは説明する。
同社は、網走市民有志による「網走地ビール研究会」が発端となり、1998年に設立されたクラフトビールメーカーだ。94年の酒税法改正で、東京農業大学オホーツクキャンパスが日本の大学で初めてビールの試験醸造免許を取得したことを受け、「その技術を生かして地ビール会社をつくろう」という機運が高まり、ビール会社の起業に至った。
同社は「地元の原料、地元の技術、地元の資本」を基本理念に掲げて、地元産大麦麦芽を主原料に、農大の技術的支援を受けながら「ヴァイツェン」「エール」「ピルスナー」などのビールを製造販売していた。ところが、地ビールブームが去るとともに業績が悪化する。
「黄金色+青=緑」の難題をクリア
2007年、民事再生を申し立てた同社の経営を引き継いだのが、同市内にあるタカハシだ。同社は道内でカラオケ店などのアミューズメント事業を広く展開する会社で、ビール製造は専門外だったが、窮地に陥った地元企業の再生に乗り出した。
その第一歩として取り組んだのが、網走らしさを前面に出した新商品づくりだ。網走といえば流氷、流氷といえばオホーツクの海ということで、浮かんだイメージが“青”だった。
「ヴァイツェンやピルスナーもおいしいですが、昔からあるビールですし、他社でもつくられています。当社の母体はサービス業で、驚きや意外性を大切にする風土があるので、見た目のインパクトを重視しました」
ビール醸造については、国内でも珍しい「三釜」を使用し、ドイツの伝統的な「デコクション法」で、コクや風味を引き出すことに成功した。
しかし、肝心の色は一筋縄ではいかなかった。ビールは基本的に黄金色のため、青を混ぜると緑色になってしまう。当時つくっていた、ビールにミルクを加えた「ビルク」という商品をヒントに、いったん乳白色にしてから青を加えたりもしたが、透明感が出なかった。
「試行錯誤の末、麦芽の使用比率を変えて透明に近いビールをつくってから、色素を加える方法を編み出し、ようやくクリアなブルーを出すことができました」
既存商品のブラッシュアップを欠かさない
08年2月に発売された“オホーツクブルー”青いビールは、地元新聞にカラーで紹介された。すると瞬く間に注目を集め、日本橋髙島屋など百貨店に販路を獲得する。口コミを聞きつけたバイヤーが買い付けに訪れてさらに販路が広がり、クラフトビール業界でヒットとされる10万本をわずか半年で売り上げ、一気に看板商品となった。
同商品に続いて、同社は四季シリーズをプロデュースする。オホーツクの夏をイメージした赤い「はまなすドラフト」、知床の春の新緑をイメージした緑の「知床ドラフト」、ジャガイモやマタタビを使用した紫の「じゃがドラフト」といったラインナップだ。どれも色が特徴的で香りも良く、味わいもフルーティーなことから、ビールの苦手な人や女性にも受け、10年にはクラフトビール出荷量道内1位を記録した。
ただし、当時は加熱処理をしない製法をとっていたため、保存期間が冷蔵で3カ月と短く、道外や海外への販路拡大のネックとなっていた。そこで加熱処理機を導入し、保存期間を6カ月にまで延ばした。ところが、加熱すると青い色が飛んでしまうという新たな問題が発生した。当時は色素にスピルリナという藻の一種を使っていたが、熱に弱いのだ。そこで色素をクチナシに替え、鮮やかで濃い青が保てるようになった。
「『流氷ドラフト』に限らず、常に商品のブラッシュアップを行っています。例えば、『はまなすドラフト』の原材料を地元産サクランボに替えて、よりフルーティーな『桜桃の雫』にリニューアルしました。また、網走監獄をイメージした『監極の黒』や、『網走プレミアムビール』など、新商品も随時加えています」
需要増加に対応するため、17年に自動充填機を導入して生産体制を強化した。工場の規模に合わせて特注したもので、それまで手作業で1時間に350本だった充填が、最大で約3000本と飛躍的に増加し、コスト削減も実現。昨年は発売10周年を記念してラベルを刷新し、年間出荷本数は53万本と過去最高を記録した。
順調な伸びを続ける同商品だが、今後どのような展望を描いているのか。
「目下の目標は、アメリカへの販路開拓です。日本だとクラフトビールのシェアは1%程度ですが、アメリカでは20%近いというデータもあります。すでに中国、台湾、香港、イギリスなどに輸出していますが、当社の事業全体の10%程度なので、需要の高いアメリカに打って出たい」と長岡さんは次の目標に向けて自信を見せた。
会社データ
社名:網走ビール株式会社
所在地:北海道網走市南6条西2-1
電話:0152-45-5100
HP:https://www.takahasi.co.jp/beer/
代表者:長岡拓児 代表取締役社長
設立:1998年
従業員:17人
※月刊石垣2019年3月号に掲載された記事です。
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